第五話 宰相の特命冒険者
## 第五話 宰相の特命冒険者
アルグラード遺跡発見から一週間後。
王都レノアオ。
王城では緊急会議が開かれていた。
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報告書を読んだ宰相は額を押さえた。
「財宝を全部配った?」
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「はい」
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「全部?」
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「全部です」
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「金貨も?」
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「はい」
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「宝石も?」
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「はい」
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「王冠も?」
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「はい」
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宰相は天井を見上げた。
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「なぜだ」
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慎太郎の返事は簡単だった。
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「知識庫の方が価値があります」
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会議室は静まり返った。
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財務大臣が震える声で言う。
「莫大な財宝ですよ」
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慎太郎は答えた。
「使えば減ります」
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「うむ」
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「知識は使うほど増えます」
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誰も反論できなかった。
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国王が笑った。
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「その通りだ」
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「陛下!?」
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「金貨は掘れば出るかもしれん」
「だが数千年前の知識は二度と手に入らん」
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その日。
国王命令が発布された。
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**智慎太郎を宰相直属の特命冒険者に任命する。**
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新しい役職だった。
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正式名称。
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**王国特命冒険者。**
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任務。
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古代文明遺跡探索。
失われた知識回収。
歴史調査。
技術調査。
文明保護。
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慎太郎は喜んだ。
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「肩書きに冒険者って入ってる」
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情報局員たちは頭を抱えた。
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「そこかよ」
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こうして慎太郎は情報局長を兼任しながら、
宰相直属の特命冒険者になった。
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アルグラード遺跡。
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慎太郎は考古学者二百名。
筆記官三百名。
写本職人五百名。
護衛部隊千名。
という大規模調査団を編成した。
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目的はただ一つ。
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**巨大知識庫を完全回収すること。**
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数か月後。
調査は進んだ。
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発見されたもの。
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農業技術。
灌漑技術。
品種改良。
牧畜管理。
治水。
道路整備。
橋梁建設。
衛生管理。
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どれも地味だった。
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しかし慎太郎は興奮した。
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「これだ」
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考古学者は首を傾げた。
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「もっと凄い魔法兵器があるかもしれません」
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「そんなものは後回しだ」
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「え?」
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「飢饉を減らす技術の方が大事だ」
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実際。
古代文明は魔法帝国ではなかった。
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巨大な人口を維持するための、
膨大な行政ノウハウの集積体だった。
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それを理解した慎太郎は全力を注ぐ。
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五年後。
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アルグラード文庫。
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王都郊外に建設された巨大施設。
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収蔵資料。
五十万冊以上。
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写本。
地図。
技術書。
歴史書。
農業記録。
気候記録。
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国内最大の知識拠点となった。
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若い学者たちが集まる。
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職人たちも集まる。
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地方領主も学びに来る。
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その結果。
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王国の収穫量増加。
灌漑網整備。
橋梁増設。
街道改良。
治安改善。
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すべてが少しずつ向上した。
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派手さはない。
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だが確実だった。
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そして十年後。
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ある老冒険者が酒場で語った。
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「アルグラード遺跡の財宝を知ってるか」
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若者たちが頷く。
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「ああ、有名な話だ」
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「金貨を持ち帰った奴もいる」
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「宝石で豪邸を建てた奴もいる」
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老冒険者は笑う。
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「だが一番大きな宝を持ち帰ったのは慎太郎だ」
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「知識庫ですか?」
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「そうだ」
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「金貨は一代限り」
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「知識は百年、二百年先まで残る」
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窓の外では、
アルグラード文庫へ向かう学生たちが歩いている。
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その光景を見ながら老冒険者は酒を飲んだ。
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「結局あの人は、財宝じゃなく未来を発掘したんだよ」
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こうして智慎太郎は、
スパイ隊長としてではなく、
王国史上最高の特命冒険者として名を残すことになる。
そして彼の次の目標は、文庫の古地図に記されていた――
**「空の彼方に存在したという第二の知識庫」**
だった。




