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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)


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第6話 レイダーズフロント

 リディアの店で用事を済ませたマキアはレイダーになる手続きをするためにある施設を訪れていた。レイダーの登録は都市連合の組織であるレイダーズフロントによって行われる。マキアの目の前にある地下都市(スラム)にしては小奇麗な建物がレイダーズフロントの施設だ。

 時刻としては昼終わりでレイダーズフロントの受付が昼食を終えて眠そうな顔をしている。普通、受付が並んでいるところを見るのは珍しくないが、今日は運がよくマキアは施設に入った時、中にレイダーはほとんどいなかった。。

 たった一人、慣れない施設ということもあって僅かに緊張していた。すぐに受付へとは向かわず表示されているホログラムの懸賞首や新武器の情報、マガツモノの出現情報なんかに意味も無く目をやる。

 ただ施設の中に一人、何をするわけでもなく見て回っているマキアに受付の人が訝し気な視線を向けた。マキアはその視線に気がつくとすぐに、慌てて受付の方へと近づいた。


 受付にいたのは背筋を伸ばし手元の機械に視線を向けている女性だ。眼鏡をかけ、その下に覗かせる目は落ち着いた翡翠色をしている。きっちりと着こなされたレイダーズフロントの制服は皴ひとつない。

 荒くれ者が多いレイダーを相手にしてきたというだけあってその眼光は鋭く、座った状態のままカウンターの前に来たマキアを下から睨みつけている。


「ご用件は」


 一言そう述べると女性は手元の機械に視線を移す。

 マキアは緊張と驚きがありつつも、表には出さず普通に申し述べる。


「レイダーの登録をしたいんですけど」

「ではお名前をお教えください」

「マキアです」


 名前を聞いた女性は手元の機械に短く名前を打ち込むと、すぐに名前がプリントされた一枚の紙が出てくる。

 女性はそれを受け取るとカウンターの上に置く。


「レイダー登録はこれで以上となります」


 そう短く言葉を締めくくった。

 理だ―はすぐ死ぬ。だから最初は名前しか聞かないし、渡されるのはいくらでも偽装できそうなペラペラの紙一枚。ここから活動年数や貢献度、実績などを加味して本登録へと移る。

 マキアはレイダーとしてのスタートラインに立ってすらいない。


「ありがとうございます」


 レイダー証を受け取ってマキアが一度お礼を言う。そして立ち去ろうと振り返った時、思い出したかのように女性が呼び止める。


「どこかのレイダーハブに入りますか」

「……はい?」


 突然問いかけられたマキアは言葉の意味が分からず首を傾げる。その反応だけで質問に対しての答えとしては十分すぎた。レイダーハブに入るのならば別の手続きが必要になる。もし無いのならこのまま終わり。

 だから呼び止めたところ『帰っていいですよ』と促してもよかったが、わざわざここまで言って説明してやらないのも可哀そうだと、女性は受付に人が並んでいないのを確認して、息を吐いた。


「知らないようでしたら、説明しましょうか」

「いいんですか?」

「受付に人も並んでいないので」


 マキアが喜々とした表情で了承すると女性は説明を始める。

 レイダーとは言っても彼らの稼ぎ方は千差万別だ。基本的にりだーはマガツモノを倒すだけでは賃金を得ることができない。マガツモノを倒した上で死体や解体した素材をレイダーズフロントに送り届けることで初めて報酬を得ることができる。しかし、小型であろうともマガツモノの死体は巨大で重い。運ぶためにはトラックが必要で、解体するのならばそれ専用の知識と道具が必要になる。

 レイダーは誰でも成れるが、誰でも稼げるわけじゃないということだ。

 死体の運搬と解体が一人では難しいということもあって、ほとんどのレイダーは企業と雇用契約を結んで賃金をもらいながらマガツモノを倒す。企業はレイダーが倒した死体を回収し、素材を研究や装備制作に充てる。

 

 逆にレイダーズフロントに素材を渡し報酬をもらうようなレイダーはごく少数で、ほとんどは企業所属のレイダーだ。

 最初から良い装備を持ち、トラックや解体知識などを持っていれば個人としてレイダー活動ができるだろう。しかしそれはごく少数で、スラム生まれのマキアもまた、解体知識はまだしもマガツモノを殺せるだけの装備やトラックなどの運搬設備を持っていなかった。

 レイダーズフロントはあくまでもマガツモノを討伐し、売り捌く権利を与えるだけ。それ以上でもそれ以下でもなかった。


「レイダーハブとは主に企業所属のハンター組織を指す言葉です。あなたが企業所属のレイダーに……つまりはレイダーハブに入るというのならば別途手続きが必要でした。しかしレイダーハブが何かも知らないということは、必要ないのでしょう?」


 女性はそう締めくくった。マキアのような何も持たない者がレイダーとして稼いでいくのならばレイダーハブに入るのが最善。しかし現段階でマキアにはレイダーハブからのオファーは当然ないし、入りたい場所も無かった。


「はい。必要……ないですね」


 なんだかレイダーハブに入ったいない今の状態はまずいのではないか? と後ろめたさを感じた。


「ですよね。ではこれで登録手続きは終了です」

「ありがとうございます」

「はい」


 雰囲気や鋭い視線から受ける印象とは違って、懇切丁寧に説明してくれたことに感謝した。そして女性はマキアに少し手を振って軽く微笑むと説明の間に並んでいた後ろの客を呼んだ。


「次の人」


 ◆


「さて、どうしようか……」


 マキアが狭い道端の縁石に座っていた。片手には前の職場で貰った試供品の携帯食料バーを持って、もう片方の手には壊れかけで旧式の通信端末を持って調べ事をしている。

 調べ事というのは当然、レイダーハブのことだ。

 レイダーになったのは突発的で、楽観的に何も考えず登録してしまったが、制度やその他諸々の事も含めて何も知らない。マキアが知っていることと言えば解体現場に転がっているような巨大なマガツモノを殺せるだけの化け物共ということぐらい。

 今日レイダーズフロントを訪れて、受付の人の親切のおかげで色々と知れた。

 

「うーむぐ」


 唸り声を小さく轟かせながら通信端末と睨み合う。どれだけ調べても、どれだけ楽観的に見ても、レイダーハブが採用してくれる未来が見えない。マキアのようなレイダーが個人で活動することは非常に難しい。まずマキアにはマガツモノを殺せるだけの装備が無く、また荒野から死体を運搬できるだけのトラックも無い。

 殺しただけで報酬は貰えないのだから大問題だ。

 だからレイダーハブに入った方がいいのだが……。


(採用は伝手……つまりは紹介のみ。あるいは実働歴が必須……いやぁ? 無理ゲーじゃん?)


 マガツモノの死体を回収したところで適切に処理・加工できなければ利益を生み出せない。大抵、マガツモノの死体を有効活用できるのは力を持った大企業かマガツモノ由来の素材を専門に扱う業者だ。

 つまりマガツモノの死体を有効活用できる企業自体があまり多くないということもあり、必然的にレイダーハブを保有している企業も少なくなる。その狭き門にハンターが殺到するのだ。


 レイダーはすぐ死ぬか引退するから流動性の高い職業ではある。しかし誰でも成れるという条件のせいで倍率は高いまま。採用されるためには伝手から紹介してもらうか、稀に開催される公開応募に参加して実力を示すか、スカウトされるだけの実績があるか、自分を売り込めるだけの実績があるか、という何もないマキアには難しい条件ばかりが並ぶ。

 一応、別の道もあるのだが……。


「アカデミーねぇ?」


 子供の頃から施設にぶち込んでレイダーを育成する。そのような体制を取っている企業もある。ただアカデミーまで作ってレイダーを育成できるだけの金を持っているのは一部の大企業のみ。

 当然、狭き門となる。


(そもそもめんどくせぇしな)


 前の職場の経験から組織というのに所属するのに嫌気がさしている。上からの重圧、同僚との関係、誰かのしりぬぐい、やっとすべてから解放されて自由なのにもう一度組織に入って縛られに行くのは気が引ける。

 通信端末でポチポチと探してみると幾つか公開応募を行っているレイダーハブも出てくるが、組織に所属することに対して後ろめたい気持ちが足を引っ張っている。

 どうしたものか。

 嫌な現実から目を背けるように、マキアが別のことを考える。今日はリディアのところに修理品を回収しに行くのと、レイダーの登録するのと、もう一つやる予定のことがあった。


(核どうしよっかな)


 二日前に手に入れた核についてだ。本来ならば売って金にしたいが、きちんと相手を考えて売らなければ後々面倒なことになる。

 かといって箪笥(たんす)の肥やしにするのは勿体無い。


(めんどい)


 核を活用する手段は少ない。基本的に売るか加工するかの二択だ。

 マキアは今回後者を選択した。

 核を加工するためには加工屋(スミス)と言われる専門の知識と技術を持つ人でなければならない。 

 加工屋(スミス)は基本的に地上で暮らしていることもあって地下にはほとんどいない。いたとしても地下都市の中心——マキアが立ち入ることのできない区域にあることがほとんど。

 直接会える人物は限られる。

 昨日の夜に寝ぼけながら探していたが、見つけられたのは一件だけだった。


(『テイカーロッジ』か)


 大通り沿いにある『テイカーロッジ』という店に加工屋(スミス)がいるらしい。正直、ホームページは最近できたばかりで怪しいし、口コミもほとんどない。

 正直、疑っている。

 しかし現状、『テイカーロッジ』しか頼れる場所がない。


(しゃあねぇ、行ってみるか)


 考えて立ち止まっていたら何も始まらない。

 マキアは自分にそう言い聞かせると立ち上がって歩き出した。

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