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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)


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第5話 新しい稼ぎ口

 地下都市は中心地から伸びる『大通り』と、そこから蟻の巣のように伸びる小さな路地の二つで構成されている。大通りは広く、清潔だ。多くの車両が行き交い物資やマガツモノの死体を運んでいることも珍しくない。

 対して蟻の巣のように伸びる路地は雑多な印象だ。


 店の領分を易々と飛び越えて商品やテーブルがただでさえ狭い通路に侵入しているし、壁に張られたポスターは隣の店の領域まで侵食していたりする。汚れだらけの壁と壊れかけのネオン看板が天井で俯いている。

 場所によっては機械油の匂いや切断機の駆動音でうるさい。そこに話し声や店内音楽も混じってもうしっちゃかめっちゃかだ。

 しかし23時を過ぎれば音はピタリとやむ。

 それがここら一帯のルールだ。

 同じように天井でチカチカと鳴いている電球は、切れたところで行政は交換してくれないので、代わりに近くで店を営む店主が交換するのが、ここのルール。

 地下都市の末端は行政の法律が行き届いていないため、そこに住む人達が作るローカルルールが法律となっている。


 当然、『23時過ぎて騒音を出すことの禁止』や『電球の交換』といったルールはあくまでもこのエリアだけのもので、先の方へと進めばまた別のルールが跋扈している。

 居住区エリアであれば、ただでさえ低い天井にロープがかかっていて洗濯物が干してあるし、娯楽エリアであればネオンの看板が煩い。

 飲食街であれば煙で天井付近が曇っているし、床はべたついている。香辛料やら甘未やらの匂いが混じり合って、そこに露店で売られている塊肉やジュースの類も混ざって鼻を刺激してくるのだがら、単体ずつならばまだしも、これだけ混ざればもはや劇物だ。

 床や天井に沁みついた脂に引火する可能性もあるので飲食街では基本、毎日の清掃を基本としている。各店の店主が責任を持って掃除をする。狭いコミュニティならでは相互監視を活かしてサボらせない。これが飲食街エリアのルールだ。

 

 他にも、さらに都市の末端まで行けば力を持った徒党がルールを敷いている場合もあるし、自治会なるものがルールを定めていることもある。


 場所によっては清潔で、場所によって一切の掃除が行われずに酷い衛生環境になっている。

 ある程度の礼節を持って狭いコミュニティで暮しているのが地下都市という場所だ。


 セルバンを殺した次の日、マキアは機械類の店が集中するエリアにいた。


「リディアー」


 店主リディアの名前を呼びながら『ガラクタ』と看板が掲げられた店に入る。

 

 店の奥ではくすんだ赤髪が特徴的な少女が、店の奥で胡坐をかきながら修理道具を持って義手の修理を行っていた。

 マキアは慣れた動きで荷物を端の方に置くとリディアの方に歩いて近づく。

 すると修理が一段落ついたのかリディアは胡坐をかいたまま顔をあげてマキアの方を見た。


「こんな時間に珍しいねー 今日は死体処理あれ休み?」

「そんなところ」


 軽く答えると、マキアは店の隅に置かれたテーブルの方へと向かう。

 テーブルの上には修理の依頼をしていた機械類が袋に入った状態で置かれていた。

 どれも死体処理の仕事に使うはずだった代物だが、昨日の件で必要がなくなってしまった。それでも何かに使えるかもしれないし、売ったら金になる。取りあえず引き取るために、こうして店を訪れていた。

 袋を手に取ったマキアが振り向く。するとリディアと目が合う。


「聞いたよーマキア」

「なにを?」

「解体現場で事故があったんでしょー。この時間にマキアが暇そうにしてるってことは……ほんとだったのかな?」

「いや、今日は普通に休み……いや」


 取り繕うとして、途中であきらめた。

 地下都市では情報が一瞬にして広まる。昨日、死体処理が行われていた現場にはマキアを含め多くの作業員がいた。作業員一人一人に家族がおり、友人がいた。その者がある日帰ってこなければ事故を疑うだろう。

 何しろ死体処理の仕事だ。不慮の事故を誰だって想定する。

 企業は頑張って証拠隠滅を図ろうとしたらしいが、どうやら駄目だったらしい。


「誰から聞いたんだ」

「客の友達の友達」

「ずいぶん経由したな」

「そう、だからほんとか嘘か分からなかったけど、マキアの反応をみるに正解だったらしいね」

「ブラフだったかー」

「引っかかったねー」


 しっしっし、と笑うリディアと頭を押さえてわざとらしく蹲るマキア。

 ひときしり笑うと、リディアが工具片手に尋ねた。


「じゃあ、これからどうすんの」

 

 セルバンを殺して借金がチャラになったおかげで今ではどんな仕事でもできる。かといっても専門的な知識はないので、リディアのように整備屋メカニックとして働くのはまず無理だ。死体処理の仕事ならばできるだろうが、あの業界は横のつながりが強いこともあって、面倒ごとを引き起こす匂いしかしない。

 働いて稼ごうと思えばどこかの飲食店や整備屋メカニックに弟子入りでもすればいい。

 

 しかしマキアにその気はない。

 もうこき使われるのは御免だ。

 

「そうだな……」


 セルバンを殺した後に色々と考えた。

 どこで働くべきか、何で働くべきか。

 何がやりたいか。


「……《《レイダーになる》》よ」


 突然の宣言にリディアが目を白黒とさせる。


「レイダーって……あの……マガツモノの?」

「そう」


 『レイダー』と呼ばれるマガツモノを討伐する者たちがいる。マガツモノと戦う危険極まりない仕事をしようと、突拍子もないことを言い出したマキアに、リディアは少し困惑を滲ませていた。


「また……そりゃなんで」

「一人で何かしたくなった」

「それだけ?」

「それだけ」


 昔から周りを見て、何をすれば自分の立場が良くなるのかを考えて生きてきた。その結果、借金はできるわ、上司にこき使われるわで散々な目に合った。

 セルバンも死んで借金も無くなった今、何にも縛られず自由なことをしたい。たとえ、それが命の危険が付きまとう仕事だとしても。


「ふーん、でもそれだけじゃないでしょ?」


 リディアはじっとマキアの目を見つめて『一人で何かしたくなった』以外理由もあるんだろ、と問いかける。

 

「ほら、昔よく言ってた『夢』とか」

「夢?」


 リディアに問いかけられて思い出す。

 

「ああ……『地上へ出る』みたいなやつか」

「そうそう」


 地下都市から地上に出るためには様々な課題をクリアしなくてはならない。居住権や住む場所の確保、暮らしていくだけの金と職。真っ当な方法で地下都市から地上へと成り上がるのは相当の運と高い知能、そして経験が必要になる。

 だが一つだけ例外がある。

 それがレイダーになること。

 地上に出るための課題は結局のところ金さえあればクリアできる。その点においてレイダーは己が身一つで莫大な金を稼ぐことができることもあり、唯一、正攻法以外で地上に出られる方法だった。


 だが、それは高望みだとマキアは笑って否定する。


「結局それも運や資質が必要だろ? 可能性が『ある』だけで、限りなく低いよ」

「どうだか」


 リディアは再度マキアに問いかけるように目を合わせて笑って見せた。


「そんな深く考えてないよ、短絡的なだけ」


 マキアはそう言いながらテーブルの上に置いてある修理品の入った袋を手に持つ。そして別れを告げようとした瞬間、店を客が訪ねてきた。

 

「今時間空いてるか、こいつの修理を頼みたいんだが」

 

 そう言って現れたのはカイルというレイダーだった。金髪と黒髪が混ざったような髪色で、軽薄な笑みを浮かべる優男だ。

 カイルはリディアの隣に立っているマキアを見ると軽く舌打ちをする。


「ッチ、なんでてめぇがいるんだ」

それの修理か」

「仕事はどうしたんだよ」


 マキアの問いかけに答えずカイルは自分の話題を優先する。


「辞めた」

「辞めた? お前がか? 辞められるのか?」

「普通に辞められるだろ。誰かさんのせいで負った借金がなければ」

「……ッチ」


 バツが悪そうな表情をカイルが浮かる。


「お前は昔からだ。俺は《《三番街》》だぞ。昔とは違うんだ。今は俺が上だ」

「上とか下とか、どうでもいいだろ。それに三番街所属だからってなんだ、お前がでかくなったわけじゃないだろ」

「お前は……」

「それに三番街だったら直轄の整備屋メカニックがいるはずだろ。なんでここに来たんだ」


 マキアの言葉にカイルが一度リディアの方を見てから押し黙る。その顔には確かに怒りの表情が浮かんでいた。憎しみが込められた視線がマキアに向けられ、その後またリディアを一瞥した。そしてカイルは店から立ち去る、マキアに恨み言を残して。


「昔とは違う。思い上がるなよ。三番街の規則で手が出せないだけだ。お前からやり合おうっつうんなら、今ここで殺してやるよ」

「……死ぬのはごめんだ」

「クソ野郎が」


 カイルが店の外に出てすぐ通路の奥へと消えていく。外から聞こえる喧噪とは対照的に、店内は微妙な静寂に包まれている。

 静寂を破ったのはリディアのため息だった。


「昔からいつも、変わんないね」


 カイルはマキアやリディアが育ったエリアで共に暮らしていた数個年上の男だ。地下都市は広いがコミュニティは狭い。今でこそカイルは生まれ育ったエリアを離れて三番街に行ってしまったが、マキアやリディアとの関係は長かった。

 その中で何度もマキアとカイルは喧嘩をして――その度にマキアが勝ってきた。

 デザイナーズベイビーの子孫のおかげか、子供の頃から異様に体が強かったマキアに、カイルが勝てるはずもない。カイルがマキアに対して尋常ではない思いを抱くのは当然のことで、三番街に所属して助長した今も、言いがかりをつけて絡んでくるのも仕方のないことだった。


「まあただ、レイダーとしてはあいつが先輩なのか……」


 もしこれからレイダーになるのならば、カイルが先輩ということになる。もし先輩風を吹かせてこられたら……考えただけで身の毛がよだつ言い得ぬ不快感が襲ってくる。


 ただ実際にカイルの方がレイダーとして先輩であり三番街に所属している以上、経験でも実力でも装備でもあちらが上。この事実を知っても『レイダーになる』という決意は揺らがない――が、できればレイダーになったことを知らないままでいて欲しいものだ。


「っは、ぷぷ……あはは」

「おい何笑ってんだ」


 気が付くとリディアが笑っていた。


「だって……ねぇ? カイルが先輩って……マキアのあんな顔……始めて、みた。ぷぷ」

「ふざけんな、こちとら真剣な悩みなんだぞ」

「それでも……せんぱ……っぷ」

「んな笑うことかよ」


 口先と立たせて不満顔のマキアは修理品の入った袋を持って店の出口の方に向かって歩いていく。


「それじゃ、あんま長居してもだからな」

「それじゃ、死なないでね。あ、それと大きくなったら、ちゃんとうちの整備屋メカニック利用してね」

「わあったよ」


 軽く別れを告げてマキアが店の外に出た。そしてすぐに歩き出す。

 目的地はレイダーになるための手続きが行える場所だ。

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