第50話 眠る機械たち
「あぁああ! ったくよぉ!」
マキアは全力で走りながら機械系マガツモノを処理していた。
ポリタンクのような胴体部分が開き、中から飛び出した銃器がマキアに向けられる。
障害物の無い一本道では避けられる場所が無く、後ろに発砲しながら射撃を続けるしかない
幸いにも銃弾の威力自体は高くなく防護服で防ぎきれる。しかしそれでも吸収しきれなかった衝撃が背中に走るし、防護服もいつまで弾丸を受けれるか分からない。
「っあ! 重い! 長い!」
LK-MOTO『R』の性能自体には大満足だ。
しかし今のような、多数の敵に追われている状況では扱いにくい。
振り返りながらの射撃は取り回しのしにくさのせいで出来ないし、連射性能が低いせいで処理が間に合わない。
広い場所で安定した状況で使う分にはいいが、こうも動き回る状況だと向かない。
「――ったく!」
もともとLK-MOTO『R』は『閉鎖的な環境で多数の敵を処理しながら逃げる』ために作られた武器ではない。
だからここで武器の不満を言っても仕方ない。
(おれの想定が甘かった!)
LK-MOTO『R』を過信しすぎていた。高い値段を払った分、万能な活躍ができるものと考えてしまっていた。しかし、やはり向き不向きというのはあるのだ。生きて帰れたらこうした状況にも対応できるサブウェポンを買ってやると、そう決めた。
「邪魔ぁ!」
後ろからだけでなく前方からも現れた機械系マガツモノを蹴って破壊する。
ダメージを受けていない状態の機械系マガツモノの防御性能は高いため、柱を壊すほどの蹴りでも破壊することは叶わない。
しかし時間を稼げればその隙に横を通り過ぎて前へと進むことができる。
後ろから猛追する機械系マガツモノの群れをどうにかLK-MOTO『R』で対処しながら、逃げる。
今は知っている通路が出口に通じているのかは定かではない。
それでも前に進むしかない。
逃げながら、戦いながら、脳の容量がほとんど無い中で、頭の中で地図を思い浮かべ脱出口に向かう。
頭の中の地図上ではもうすぐ辿り着くはず……。
「……きたきたァ!」
階段が見えた時、マキアは気分がおかしくなってよく分からないことを叫んだ。
そしてオイルで濡れた階段で滑りそうになりながらも足をかける。それと同時に懐から手榴弾を取り出しピンを引き抜いた。
(最悪だぞ)
ここで脚を滑らせでもしたら通路を埋め尽くす機械系マガツモノの中に落っこちることになる。
最悪の事態に気を付けながら手榴弾を後ろへと投げ捨てた。
同時に、マキアは階段を駆け上がり三階に飛び出した。
「――っはは!」
階段がちゃんと三階に通じていたことに歓喜の笑いを零し、すぐ後ろで手榴弾が爆発を起こした。
階段が崩落すれば機械系マガツモノがこれ以上追ってくることはない。
その目論見通り爆発によって天井が崩れ、階段は瓦礫に埋まる。
だがマキアのすぐ後ろまで迫って来ていた個体に関しては階段を抜けて三階に飛び出していた。
数は四体。
マキアが瞬時に一体を撃ち抜いて破壊すると同時に、他三体がマキアに弾丸を浴びせる。
頭部とLK-MOTO『R』への被弾を避けながら先ほど破壊した機械系マガツモノの背後へと滑り込み、そのまま死体を盾に使って一体を撃ち抜く。そして一切止まらずに死体を持ち上げ肉壁として使いながらもう一体に近づきつつ、弾倉をすべて使い切って破壊した。
残る一体は、肉壁として使っていた機械系マガツモノを投げ込みぶつける。そして体勢が崩れ、射線が切れた瞬間にマキアも飛び掛かって上から押さえつけ、機械系マガツモノから生えた銃器を殴って変形させ、使用不可状態へと変える。
そして攻撃手段を失った個体を踏みつけつつLK-MOTO『R』の弾倉を入れ替えた。
すでに殺した三体のマガツモノが完全に停止していることを確認し、最後の一体を撃ち抜く。
「ふー」
四体のマガツモノを討伐し終わった後、軽く息を吐いて呼吸を整えた。
それから周囲の状況を確認し、埋まった階段や倒した四体のマガツモノを見つつ、情報端末に目を向けた。
(……ここが三階……戻ってきた)
情報端末に記されている位置情報や実際に目で見たことがある周囲の環境などを見て、無事に三階に戻ってきたことを確認する。
それから四体の機械系マガツモノに目を向けた。
(どうしよっかな……)
今すぐにでも帰った方がいい。
しかしマキアには『金を使う予定』というものが、今回の戦闘を経てできてしまった。
この四体の機械系マガツモノを売れば相当の金になるだろう。
果たして今すぐ帰るか、それとも四体の機械系マガツモノを持って帰るか。
「……まあ、大丈夫か」
悩んでいる時間も勿体ないので、マキアは簡単に選択を済ませると、機械系マガツモノの方に近づいた。
◆
「……っていう、ことがあって」
前哨基地跡から帰って来たマキアは、テイカーロッジの事務所に帰るよりも早く、レイダーズフロントの施設を訪れて、今回起きた騒動のことを大まかに伝えていた。
用件は当然、『未探索領域の探索』についてのこと。
ヴィクターは忙しいということで、代わりに、その秘書であるアメリアが来てくれた。
「ちょっとこれ見て欲しいんですけど」
会議室のような場所に置いてある巨大なテーブルの上に、マキアが討伐した機械系マガツモノの一部が置かれていた。
マキアはその一つを指さしてアメリアの反応を伺う。
「……前回探査では確認されていない機械系マガツモノですね」
半年前にも前哨基地跡『B-1』の探索は行われた。その際に機械系マガツモノのサンプルなどを保管したが、今回マキアが持って来たのはそのいずれにも該当しないものだった。
「発電所の稼働と関係があるかもしれないので、サンプルとして、こちらで買い取るのでお渡ししていただいてもよろしいですか」
「はい」
マキアは今、圧倒的にお金が足りていないこともあって買い取ってくれるのならば大賛成だ。
マキアの返答を伺うとアメリアはテーブルを数回叩いて、巨大なホログラムを複数表示させる。
「これがあなたから送られてきた『B-1』の地図、ということでよろしいですね?」
「はい、大丈夫です」
マキアが情報端末を用いて収集した情報はすでにレイダーズフロントへと届けられていた。
テーブルから表示されたホログラムには情報端末に元々記録されていた一年半前の地図と、新たにマキアが記録した地図の両方が映し出されていた。
「確かに……これは違いますね」
二階に閉じ込められて逃げる際、情報端末は周辺の地図を記録していた。
一部分だけだけではあるが、一年半前に記録された地図と、マキアが記録したものは、明らかに違っていた。加えて、新種の機械系マガツモノの存在。発電所が突如として稼働したのと関係がないはずがない。
「というより、建物全体の規模感も変わっているようですね」
二つの地図を照合し、重ね合わせるとより違いがはっきりする。
細かい構造だけでなく建物全体が拡張されていた。
「それにこの様子なら……地下もありそうですね」
情報端末から得られた細かい情報から推測するに、建物には無いはずの地下があってもおかしくはない数値が出てきている。
「こんなの……ありえるんですか?」
人の手が入っていない建物が形を変える。通常では考えられない。しかしアメリアは『あり得る』と事例を交えながら説明した。
「機械系マガツモノが少ない地下ではあまり事例がありませんが、地上では機械系マガツモノによって建物が増築、改築される軒が多数報告されています」
機械系マガツモノが自らが住みやすいよう生息環境を変える事例は多々報告されている。
今回もその一例だとアメリアは説明した。
「こちらの情報は一度持ち帰って精査します。マキアさん、申し訳ありませんが、その間だけ『B-1』の探索を止めていただけますか?」
「分かりました」
というか元からそのつもりだった、と内心で呟きながらマキアが答えた。
「では、三日以内に返事をお返しいたしますので、それまでお待ちください」
未探索領域のついての報告はこれで終わりだ。
「ちょうどよい機会ですから、一つここで報告を」
「なんですか?」
アメリアはタブレットをマキアに見せた。
「ご注文いただいた加工用機材ですが、明日に届けられます。どうしますか」
「え?! そんな早く届くんですか?」
加工用の機械は巨大であり運び込みや手続きの問題で早くて二週間ほどで届くと思っていた。
まさか明日に届くとは思わずマキアが目を丸くする。
「ええ、もともと倉庫にあるものを運ぶだけですし、あんな大きいものを保管するだけでも費用がかかりますから」
巨大な機械を持っているというだけでというだけで倉庫が圧迫される。
買い取ってくれるのならば、さっさと送り付けた方がいい。
レイダーズフロントにとってもマキアにとっても良い結果になった。
「分かりました……じゃあお願いします」
「では、明日に運搬しますので、その際はまた連絡いたします。機材の設置などは別料金がかかってしまいますが、こちらの職員が行いましょうか?」
「そんなことまでしてくれるんですか?」
「ええ、少し割高にはなってしまいますけど」
マキアには金がない。
しかし整備屋のリディアや知識があるメーテラ、そして力仕事ならば何でもできるマキアがいるとはいえ、二人だけですべてを行ったら過労で倒れてしまうだろう。
「じゃあ設置もお願いしていいですか」
「では、こちらで手配しておきます」




