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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 地上の景色

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第51話 問題発生

 事務所に帰って来たマキアは、明日中に加工用の機械が届くことをメーテラたちに伝えていた。


「え?! 明日?! どど、どうしよ! 加工場片付けてないよ?!」

「遅らせた方がいいですか?」


 加工場には使わない機材が幾つか置かれている。機械が明日届くのならば、今のうちに片付けなければならない。

 

「いや、そんな多くないから一時間ぐらい掃除したら終わるはず」

「じゃあ……」

「夕食前に働きますか」

「自分のせいで申し訳ないです」

「いいのよん、ちょうど暇だったし。加工用の機械が運び込まれてくるなら、逆に歓迎だよ」

「そう言ってくれると、ありがたいです」


 二人は軽く会話をしつつ加工場に着くと作業を始めた。

 箱に入った部品を外に運び出したり、端に寄せたり、捨てたりする。


「それ運んでー」


 巨大な機材はマキアの身体能力を存分に活かして移動し、メーテラは細かい部品や慎重に扱わなければならない物を処理していく。

 そうしてあらかた運び出したところで整備屋メカニックの仕事を終えたリディアが、事情を聞いて手伝いに訪れる。


「マキア! さっさとやれ!」


 リディアが力仕事担当のマキアのケツを叩いて縦横無尽に走り回らせる。

 そしてマキアが加工場をあらかた綺麗にして、メーテラとリディアが回線や必要な物資の準備や掃除などを済ませ、事前準備は四時間ほどで終わった。


「はぁーー終わったー」

「どうにか終わりましたね」

「あんたが配達明日なんかにするからこうなったのよ」


 リディアにちくちくと言葉で刺されつつ、広くなった加工場を見渡して達成感に浸る。

 

「あ、そうだ。今日、アイス買ってきたので食べますか?」

 

 過酷な探索で生き残ったご褒美としてアイスを買ってきていたこと、ふと思い出して二人に尋ねる。


「お、いいね!」

「マキアのくせに気がきくじゃん」


 なぜか上から目線のリディアを見て、マキアは一言付け加える。


「いや、リディアの分は無いから」

「んだとぉ?」


 リディアが頭に噛みつく。


「殺すぞワレぇええ!」

「あがあだあだだ! あるから! 買ってきてるから!」

「ふん! 最初からそうすればいいの」

「クソ野郎め」

「なんか言った?」


 マキアは噛まれた頭を抑えつつ、これ以上リディアを刺激しないように立ち上がる。


「少し待ってて」


 そう言って立ち去るマキアをメーテラとリディアの二人は見送って、加工場でゆっくりと疲れを吐き出した。


「はぁ……いい運動したー」

  

 足をバタバタとさせながらリディアが呟くと、メーテラが落ち着いた声で話しかけた。


「リディアさん、二人の関係がとても深いことは知ってるけど、マキアは探索をして命を張って頑張ってきてくれたのだから、ちょっと優しく、ね?」


 メーテラはリディアに噛みつかれるマキアを見て心配そうな顔を浮かべていた。二人は昔馴染みであり、取っ組み合いの喧嘩をしていた関係だが、メーテラはそれを知らないし、昔と今では事情が異なる。

 確かにマキアは頑張っているし、とメーテラの言葉でリディアは少し思い直した。


「ま、まあ? メーテラさんがそう言うなら許してあげなくもないけど」

「仲がいいのは良いことだからね、私なんて前の職場で……」

「何かあったんですか?」


 青ざめた顔をするメーテラに事の詳細を訪ねようとした時、奥の方からマキアの声が聞こえた。


「壊れてる!」


 何やら悲惨そうな声を聞いて、メーテラが少し急ぎ気味で、リディアがめんどくさそうにしながら向かう。

 すると洗濯機の前で固まっていたマキアがいた。


「こ、壊れてる」


 やってきた二人に、マキアが洗濯機の方を指さしながら説明する。

 その事態に対して、リディアとメーテラは特に驚くことはない。


「ああ、洗濯機ね。もう壊れる寸前だったから、仕方ないんじゃない? さらに中に入ってるの全部マキアの服でしょ?」


 事務所を買った時に備え付けられていたボロボロの洗濯機をそのまま使っていた。もともといつ壊れてもおかしくはない状態であったし、これは仕方のないこと。

 そんなことマキアも知っていた。


「いや、そうじゃなくて。なんか中の服が……」


 洗濯機から取り出したばかりの服を広げて二人に見せた。

 脱水を済ませたしわしわの服はところどころが破け、穴が開いている。

 リディアはそんなボロボロの服を見て、合点がいったように口を開いた。

 

「あちゃー、これ私のせいだわ。配線弄った時かも」


 加工場で配線を弄っていた時にミスをしたことを思い出して、リディアはメーテラの方を申し訳なさそうに見る。

 そして「いやまずおれに謝って」というマキアの言葉を無視してリディアはメーテラに謝った。

 

「メーテラさん、ごめんなさい」


 メーテラは壊れた洗濯機に視線を送りながら、困り顔を浮かべて「仕方ない」と呟く。


「古かったしちょうど買い替えられると思えば、ね?」


 メーテラからの優しいフォローにリディアが感激して「その優しさが染みる……」と胸を抑えながら呟く。するとマキアは変わらず焦った声で訴えかけた。


「おれこの服なかったら明日着る服無いんだけど」


 マキアの発言に二人が目を丸くする。


「あんた、そんな服持ってなかったの」

「まあ色々あって最近捨てたんだよ」


 もともと服が少なかったのと、最近は度重なる戦闘で何枚も服が駄目になった。そのせいで、今洗っていた服ですべてだったのだ。


(どうする……いや、今すぐ買いに行けばどっかはあるはず)


 地下都市では何中無休で営業している店が幾つかある。そこで買えばいいだけの話だ。 

 マキアがそう納得しかけたところでリディアが声をあげる。


「じゃあ私の服着れば?」

「……意味が分からない」

「ほら、私より少し背丈が大きいぐらいじゃない? 大きめの服だったら合うと思ったんだけど」

「いや、お前のは女物の服だろ」

「別にあんたならどっちでもいいでしょ」


 どうせ性別ないんだし、と付け加える。


「いや、男物の方が動きやすいんだよ。そっちの方が面倒ごとも少ないし」


 マキアが男物を好んで着ているのは、解体作業員やレイダー稼業のように動きやすい服装が求められる場所で働いていたからだ。その上、女物の服を着ていると厄介事をかけられることが多くある。

 マキアの顔の良さであれば数分、貧困街スラムを歩いただけで何十人に声をかけられ、暴行を加えられるか、考えるのも面倒なほどだ。そういったこともあってマキアは男物の服を着ていた。


「いいから、私の服を着なさい」

「なんで? おれは面倒だって言ってるだろ? 別に今買って来ればいいだけだろ」

「駄目」


 難しくない問題であるはずなのに頑なに、首を縦に振らないリディアの様子を見て、マキアが勘付く。


「お前……おれに女物の服を着せたいだけなんじゃないか?」

「まあ? だって素材はいいし、それに見たことないし、気にならないはずなくない?」


 逆にリディアは開き直って見せた。


「というか、私が見たいって言ってるんだから、見せるのが道理じゃない?」

「どんな道理だよ?! 論理が通ってねぇよ」

「そんな論理は便所にでも捨ててしまいなさい」

「ふざけんな、おれはお前の着せ替え人形じゃねぇぞ」

「いいから! 従いなさい!」

「いやだってっつてんだろ!」

「見たい見たい見たい!」

「てかリディアもタンクトップ着てるからおれと同じようなもんだろ」

「はぁ? なんかうざいから、早く女物着ろ」


 先ほど『マキアをあまり虐めないで』と言ったメーテラだが、二人の口論を口を挟まず面白そうに見ていた。

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