第47話 未探索領域
ナカムラアームズで武器を受け取って帰宅する際に、マキアは『未探索領域の探索依頼』について承諾の返事を返した。
その後はメーテラたちに加工用機材のリストを渡し、マキアはレイダーズフロントの施設で情報端末の受け取りや、説明を受けた。頭の調子はまだ鈍いが体は完全に回復している。
今日は、これから探索するであろう前哨基地跡の様子を確認するために教えられた座標の場所まで来ていた。
「ここか……」
目的の前哨基地跡は立ち入り禁止であるためレイダーズフロントの職員が常駐しており、マキアは依頼のことを説明して許可を取って、分厚い鉄の扉を潜った。
扉から先の非保護区域を5分ほど車両で走った先に目的の前哨基地跡はある。
道中の道は整備されていて電燈も灯っている。普通ならば通路をある程度進むと電燈が無くなり暗闇が続く空間になるはず。しかし目的地の前哨基地跡まで続く道はすべて明かりが点き――目的の前哨基地跡も未だ稼働しているように明かりがついていた。
(事前には聞いていたが)
明かりが点いているのは、前哨基地の中心に存在する発電所が未だ稼働しているためだ。
前哨基地を放棄してから一年半が経過しており、整備もなしに発電所が稼働し続けることはありえない。かといって人間が前哨基地跡の中心部に入って整備し続けるわけがない。
レイダーズフロントもなぜ発電所が動いているのか理解できていないのが現状だ。
その上、前哨基地全体の明かりに電力を供給するためには発電所に加えて外部からの電力も必要になる。すでに外部からの電力は切ってあり、発電所の電力だけで動いている。
つまり、発電所は想定以上の電力を整備も無しに発電し続けていることになる。
(……不気味だな)
電力が供給されているため、倒壊していない一部の建物は稼働していた。時より流れるノイズ混じりの歌やラジオのようなもの。機械同士がぶつかる音。何かが落下する音。
これまで探索してきた前哨基地跡とは明らかに毛色が違った。
最初こそ明かりが点いていることもあって心に余裕が生まれたが、今は不気味でしかない。
無駄に明るいところがあるせいで暗闇に包まれた建物や瓦礫の下など、嫌な陰影が出来ている。
(まあ、今日は見るだけか)
今日は無理に奥まで探索することはない。
表面上だけ探索して、早々と撤収する予定だ。
(行きますか……)
レイダーズフロントから支給された情報端末を起動して車両から降りた。
この際いつでも逃げられるよう車両は必ず、前哨基地跡に尻を向けて停車させる。加えて、あくまでも副次的なものだが、こうした方が荷台にマガツモノを積み込みやすい。
(さて)
防護服は新品で耐久性のテストは出来ている。
後はLK-MOTO『R』をどの程度扱えるか。
性能自体は約束された武器であるため、あとはマキア次第だ。
実践初投入である上に、始めから難易度の高い前哨基地跡の探索となると、判断を一つ間違えば死ぬかもしれない。
危険は冒さず前哨基地跡の雰囲気とLK-MOTO『R』の感触に慣れるのが、今回の目標だ。
「……ふう」
軽く息を吐いて前哨基地跡へと足を進ませた。
◆
マキアが探索する予定の前哨基地跡『B-5』は一つの建物で構築されている。頑強な防護壁と建物が一体になった作りをしており、壁に空いた穴からは銃器などの設備が覗かせる。
地上一階部分の中心部には発電所が設置され、依頼の目標がそこに辿り着くこととなってる。
建物は半分が破壊され外に露出した状態になっていおり、屋内と屋外を行き来しながら探索する形になるだろう。
(ここからしかないか……)
建物に入るための入り口はほとんどが瓦礫に埋まっているため、正規の入り口から入ろうとすると洞窟探検になってしまうし、場所によっては狭すぎて武器を持ちながら通るのが難しい。
そこでマキアは仕方なく最上階である三階部分から入ることにした。
瓦礫の山が積み上がっており、そこを上って崩落した三階に辿り着く。
三階はレイダーたちが休む休憩スペースと防衛用の火器などが保管された倉庫の二つで構成されている。
一階、二階部分に比べて三階部分はそこまで広くはなく、天井が崩落しているため閉塞感はあまり感じない。崩落していない場所に取り付けられたライトの明かりはパチパチと点燈しており、ある程度の明るさも確保されていた。
瓦礫の上から三階部分の様子を確認してから、マキアが建物の中に足を踏み入れる。
情報端末には建物の図形が載っているが、一年半前のものであるため、マガツモノに施設の一部が破壊されていることを考えれば、あまり信用しすぎない方が良いだろう。
建物の中から聞こえるノイズ混じりの音楽は二階からするためすぐに確認することは難しい。しかし《《建物全体で鳴っている機械音》》の居場所に関しては、三階に入ってすぐ原因を見つけることができた。
(……あれかぁ)
一メートルほどもある、《《金属で出来た蟻》》が銃火器の保管庫で蠢いていた。
(こいつは……)
マガツモノにも分類がある。生物系、機械系、混合系。
その小型の金属生物は主に《《機械系マガツモノ》》に分類される個体であった。
(どうする……)
マガツモノは生息する環境によって急速に姿を変える。
地下で暮すのならば目が退化し、地中での生活に特化する。森ならば植物に擬態するように進化と遂げる個体もいる。では、人のが作り出した都市や前哨基地跡にマガツモノが適応するのならば、どのような生態を得るだろうか。
周囲の金属・機械に適応し、体は金属光沢を帯び、個体によっては銃火器を生態に組み込み戦うマガツモノもいる。
マキアが狙いを定めたマガツモノには銃火器の類は生えていない。
というより、環境に適応している最中なのか全身が金属ではなく肉の部分もあった。
それでも肉の部位は足の付け根や首の付け根にあるため狙いにくい。
(行けるか?)
機械系マガツモノを討伐するにあたって重要なことは現状の装備でダメージを与えられるか否かだ。
生物系と違い、機械系は生半可な装備ではダメージを与えることができない。
それこそN-41ガルディンであれば装甲に穴を空けることができず弾丸は弾かれていただろう。
LK-MOTO『R』で装甲を貫き機械系マガツモノを果たして破壊できるか。
ある程度の威力は試し撃ちの時に分かっている。
だが目の前の相手がどの程度の強度を誇るのかは経験がないので分からない。
(やるか)
これから、この未探索領域を探索するにあたって機械系マガツモノとは必ず戦う。
逃げているようでは何年たとうとこの依頼を関することはできないだろう。
「ふぅ」
時より聞こえるノイズ音よりも小さく息を吐いて呼吸を整えるとLK-MOTO『R』を構えた。
重心、引き金の重さ、照準……すべてN-41ガルディンを使っていた時と違う。
それでも度重なる戦闘の記憶が背中を押す。
引き金を絞る。
優れた消音機能によってノイズ音が僅かに鳴るだけで、発砲音は響かない。
静かな発砲音とは対照的に、撃ち出された弾丸は一直線にマガツモノの頭部を打ち砕いた。
機械系マガツモノを相手にしLK-MOTO『R』は十分にその力を発揮した。
頭部を完全に打ち砕きマガツモノを討伐し――
(——あの姿して頭じゃねぇのかよ)
生物系マガツモノの弱点は大抵頭部だ。しかし生体機能が違う機械系マガツモノの弱点が頭部だとは限らない。
機械系マガツモノは頭部が破壊され視力を失いながらも僅かな発砲音から、マキアに向けて飛び掛かる。
距離は離れていた。
しかし凡そ生物では発揮できぬ異常な跳躍力でマキアとの距離を詰める。
「……」
頭部を破壊できず一度は動揺したマキアだったが、飛び掛かられても手元が狂うことはなく、正確に胴体を数発撃ち抜いた。
機械片が飛び散りながら勢いのまま、力なく機械系マガツモノがマキアの横を通りすぎる。動力部があった胴体を潰され機械系マガツモノはすでに動かない。ただのガラクタだ。
「……はぁ」
止めていた呼吸を戻す。
心臓はバクバクと跳ねていた。
だが目的は達成した。
(終わりにしよう)
欲をかいてこれ以上の成果を求めるのは危険だ。
元より今日は浅い場所の探索で終わりにする予定だった。
機械系マガツモノの死体を――
(——ない?!)
死体を回収しようと視線を向けた時、機械系マガツモノがいなくなっていた。
目を離したのはほんの数秒。
一瞬の間でどこに消えた――。
「ッチ」
壁によじ登っていた機械系マガツモノの残骸が飛び掛かるのと同時に、マキアは殴り飛ばした。
常人の肉体であれば機械系マガツモノを全力で殴った時、拳は壊れるだろう。
しかし鉄骨すらも歪ませるマキアの剛腕は壊れる寸前だった機械系マガツモノを完全に破壊した。
「……ったく」
生物系マガツモノよりも遥かに生命力が強い。
この個体が例外なのか、それとも撃つ場所が悪かったのか。
取り合えず、今は死体を回収して帰ろう。




