第44話 夢のために
「レディース&ジェントルメン!」
地下都市の中央区で定期的に開かれている競売が始まった。
壇上の中心に立ち、競売を取り仕切るのはカルロスという大男だ。
「今宵も最高の商品を取り揃えております! マガツモノから人まで、希少な素材だって! 何であろうと手に入ります! そう、金さえあれば最高の商品をあなたに!」
仮面を被って競売を楽しむ富豪に向かってカルロスは演説を行う。
「さて初めていきましょう! まずは希少な神経接続値の指数の高い人間からです!」
競売が始まった。
◆
「第一回! 『これからどうするの?』の会!」
テーブルに座ったマキアとリディアを見ながらメーテラが宣言する。
「いえーい」
「ぱちぱちぱち」
マキアとリディアもメーテラに倣って曖昧に返答をすると、緩い雰囲気のまま大事な話し合いが始まった。
開始の音頭を取ったのはメーテラだが、するりと司会進行はマキアに移る。
「まず取りあえずの目標は『地上に拠点を構えること』でいいですか」
マキアはミケと別れた翌日に、メーテラとリディアに己の夢を伝えた結果——テイカーロッジの短期的な目標は『地上に拠点を構えること』に決まった。
それまでは曖昧に『一番のレイダーハブになる!』というメーテラの夢物語であったわけだが、マキアの『地上に行く』という夢によって、その過程が肉付けされたことにより、取りあえずテイカーロッジも『地上に拠点を構える』という目標を定めた。
「ただ、『地上に拠点を構える』と言っても色々と面倒な問題に対処しなくてはいけません」
極論として、『地上に拠点を構える』のならば金さえあれば達成できる。
問題はそのために必要な金が天文学的なほど求められるということだ。
地上では地下都市で使われている『リム』とは違う『コロン』と言われる電子通貨が用いられている。
地上で住居を用意するにも、買い物をするにも、すべてこの『コロン』が必要になる。
コロンを手に入れる方法として手っ取り早いのはリムと交換するのが早い。
しかし『リム』と『コロン』のレートは頭がおかしいぐらいに乖離しており、地下で一生『リム』を稼ぎ続けたとしても、地上で家を借りることができるぐらいの『コロン』を手に入れることは不可能だ。
『リム』と『コロン』を交換する方法は無理。
となるともう一つの選択を取る必要がある。
「ということで、コロンを手に入れるために地上の人達に商品を買ってもらう必要があります」
『リム』と『コロン』の交換が無理ならば『商品』と『コロン』で交換すればいい。
本来ならば『コロン』の対価として相応しい商品を地下都市の住民が用意することは難しい。しかし、テイカーロッジには幸いにも加工屋が在籍していた。
「多分……私の作った装備なら、地上のファンが買ってくれるはずだから、『売れる商品』だと思って貰ってもいいよ」
そこでリディアが口を挟む。
「え、メーテラさんそんな有名な加工屋なんですか」
「まあね……って自分で言うのはあれだけど、それなりには……有名……だったんじゃないかな?」
メーテラはマキアの方を見ながら首を傾げる。
マキアはすでにメーテラから過去に何をしていたのかを聞かされていた。
もともとメーテラはレイダーズフロント直轄の加工屋として、アーサーやツヅキたちのようなレイダーズフロント所属のレイダーに武器を作っていた。ただ、マキアにはこれがどの程度すごいことなのかが分からないので、メーテラに尋ねられても首を傾げるのみだ。
「……まあ」
曖昧なマキアの返答を見てメーテラが慌ててリディアに弁明する。
「いや?! ほんとは、すごいんだよ……たぶん」
「なんで最後弱気なんですか」
リディアの呆れた声を聞きつつ、マキアは『メーテラの商品は売れる』ものとして話を進める。
「『商品』を『コロン』に交換するとして、まず買い手が必要になります」
メーテラのファンだけでは、地上で住めるだけのコロンを集めるのは難しい。
別の販売経路を探すしかない。
ただスラムではコロンと商品の交換は行えないため、必然的にコロンを集めるのならば地上の企業や人が出入りしている『中央区』に行くことになる。
「中央区に行くだけならば多額のリムを支払うことでいけますが、何回も行けるほどの余裕はありません」
それに加えて、とマキアが続ける。
「そもそもとして、『商品』を作る必要があります。
メーテラが加工屋をするためには、素材と機材が必要だ。
素材はどうにかなる。ただ肝心の機材については一部『コロン』を使わなければ手に入らない物もある。
「えー、こちらの問題については現在対策が見つかっていません」
機材の問題についての具体的な対応策は現時点で見つかっていない。
そのことをきっぱりとマキアが伝える。
「なので、当面は俺が死ぬほど稼いで金を溜めます」
何をするにも結局は『リム』も必要だ。
テイカーロッジの稼ぎ頭はマキアだ。
それとリディアもいる。
「はいはい、私も頑張ればいいのよね」
リディアは正式にテイカーロッジに所属しているわけではないが、流れで手伝うことになっていた。
店はキバンエリアの崩落と共に無くなってしまったし、新しい家を探すのも面倒。ということで、テイカーロッジの事務所の一部を使って、リディアは整備屋として仕事をすることにした。
やり方はいつもと変わらない。
客から機械を受け取って修理して、代金を受け取る。
リディアとしては家もあるし、稼ぎ場所もあるしでメリットだらけ。
テイカーロッジには恩があるので、正式に所属してはいないもののほぼテイカーロッジの一員だった。
「じゃあ取り合えず、金を稼ぎながら機材を買う方法を探すってことでいいですか」
「りょーかい」
「グッジョブ」
リディアとメーテラから返事を貰うとマキアが荷物を持って立ち上がる。
するとメーテラが不思議そうに首を傾げた。
「どこかに行くの?」
「はい。ヴィクターさんと話さなくちゃいけなくて」
「そっか。じゃあリディアさんに整備のこと教わりながら待ってるよー」
「はい。行ってきます」




