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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第一章(後半) 光の射す場所

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40/50

第40話 変容する様を①

 試合が行われる訓練場は廃都市をモデルに作られている。倒壊した建物や瓦礫が積み重なり、視認状況は著しく悪い。

 天井に敷き詰められたパネルにより、空を見上げれば青空が広がる。

 横幅は端から端に走って五分ほどで辿り着ける程度の大きさ。立幅はその倍程度ある。

 二人だけで殺し合いをするのには広すぎる空間だ。

 

(あそこら辺か……)


 準備を整え訓練場の中に入ってきたマキアが斜め上の壁を見た。

 マジックミラーとなっており、あのあたりは一面がガラス張りになっているはずだ。 

 あそこからメーテラやミケが観戦しているはず。

 二人がどのような表情をしているのかは当然見えない。しかし予想はできる。

 きっと心配そうな表情をしているだろう。

 

(勝たねえとな)


 二人はまだ『実弾を用いた殺し合い』ということには気が付いていないだろう。

 だがすぐに気が付く。

 

(どうするか……)


 マキアはジャンに『殺してやる』と啖呵を切ったものの、殺したら終わり、という単純な状況ではない。

 相手は三番街のリーダーであり、殺せば面倒ごとになるのは確実だ。

 ジャンがマキアを殺すことはあり得ても、その逆はありえない。

 たとえジャンが偶然を装って殺しにこようとしていても、やり返しで殺害することは認められない。


 単純な勝敗だけを見ればセンサーの機能を用いて先に弾を当てればいいだけ。

 頭ならば一発、足や腕ならば五発と、当てる部位によっては一発で勝敗が決する。

 ジャンを殺さずとも勝てる状況ではある。 

 あとは実力差もあり、殺しに来る相手をいなしながらどう勝利をもぎ取るか、ということだ。


 体の調子は万全から程遠い。

 状況は最悪だ。

 それでも……。


(……始まる)


 壁にかけられた時計に視線をやった後、試合開始の合図が鳴る。

 ブザー音が訓練場に鳴り響き、試合が開始された。

 その瞬間に、マキアの足元に上から投げ込まれた手榴弾が落ちた。


(あの野郎ッ)


 手榴弾が地面にぶつかるよりも早くマキアは駆け出した。爆風を防ぐため建物の陰荷隠れる――瞬間、頬の横を弾丸が通った。

 高台から狙撃されたのだ。


「……ッチ」


 試合開始からジャンの行動があまりにも早すぎる。その上迷いがない。

 おそらくジャンは施設の内部構造が完全に頭の中に入っている。

 本来ならばマキアも試合が決まった後に地図を覚えていた。しかしグルーワームに襲われたため地形を覚えるための十分な時間が無かった。

 訓練場にどのような建物があるのか、高低差は、抜け道はあるのか、マキアは病室で起きてから今に至るまでの僅かな時間で最低限のことをは記憶したが、ジャンの域には当然達していない。


「ったく」


 肩に一発貰った。 

 掠っただけだが血が流れている。

 グルーワームとの死闘で体には治りきっていない傷が多く残っているのだ。一発でも弾丸を食らえば連鎖的に他の傷口も開いていく。

 ただでさえ満身創痍の体に負傷が重なればジャンが直接撃たずともマキアの命が危うい。


(きっついな)


 冷静に状況を俯瞰しながら悪態をつき、策を考える。


 ◆


「あれ、どうなってるの」


 マキアの試合をメーテラとミケ、それから病院を抜け出して来たリディアが見ていた。

 メーテラが観戦してすぐ、彼らは実弾でのやり取りを始めた。 

 当初の認識では防護服と銃器のセンサーの着弾判定を用いて勝敗を決める予定だったはずだ。

 しかし今、目の前で行われているのは実弾を用いた殺し合い。


「嵌められた」


 メーテラの隣でジャンの意図に気が付いたミケが呟く。

 ジャンが合理的でない提案を持ちかけてきたことや、江東社のことを考えれば、この二つが繋がっていると容易に気がつけたはずだ。

 その前提で持ちかけられた提案を考えれば、マキアを殺すための策だと容易に気がつけたはず。

 テイカーロッジを潰す、そして加工屋スミスを引き入れるというジャンの表面上の目的しか見えていなかった。

 これは明らかにこちら側のミスだ。


(状況はかなりまずい)


 三番街からの報復を考慮すればマキアはジャンを殺せない。

 対してジャンはマキアを殺すために動ける。

 実力の差やこの訓練場に関しての知識、それから経験、あやゆら面で差がある状況で、マキアは『殺してはいけない』というハンデを背負っていることになる。

 マキアがこの事実に気が付かず『じゃあ殺してやる』となるなら、まだ勝敗も分からなかった。

 しかし消極的なマキアの戦い方を見るに、ミケと同じ心配をしているのだろう。


「これ……もし頭とかに弾当たったら、死ぬ、の?」


 メーテラやミケと違ってこの試合の背景を知らず、ただ『三番街のリーダーとマキアが戦う』とだけしか認識していなかったリディアは、目の前で起きていることに困惑の声を漏らす。

 幼馴染であるリディアのことを考えた時、どのような言葉を投げかけるべきか悩んだ。

 

 その上でミケは「そうだ」と肯定の言葉を漏らす。


「もうどうすることもできない。あいつが勝つしかない」

「あの傷で……?」


 リディアの言葉は正しい。

 ミケやメーテラから見ても、傷だらけのマキアがジャンに勝てる可能性が低い。

 だからと言って手を貸すことができない。

 ここで見ることしかできないのだ。


「……あ」

「……マキア」


 マキアが足を撃たれた瞬間、メーテラとリディアが思わず声を漏らした。

 これで片足が完全に使えなくなればマキアは厳しい状況に追い込まれる。これ以上負傷を重ねれば勝てる可能性はさらに低くなってしまう。


「いや、大丈夫だ」


 弾丸はあくまでも掠っただけで最悪の事態はまぬがれた。

 ただマキアの体はすでに限界を迎えている。小さな傷が響いてしまう。

 三人がマキアの勝負を見守る中、観戦室に入ってきた三人組が声をあげる。


「よぉ、メーテラ」


 声を聞いてメーテラが視線を向けると、そこにはアーサーが立っていた。

 その後ろにはツヅキとスパイクがいた。


「アーサーさん……なんでここに」

「地下都市に来る用事があったもんでな。顔見に来た」

「用事って……」


 マキアを助けたという三人組のレイダーがメーテラの頭によぎった。だがそのことについて問うよりも早く、アーサーは訓練場を見ながらつぶやく。


「あの感じじゃきついだろうな」

 

 訓練場の中で何が行われているのかをアーサーも見ている。

 事前に聞いていた話とは試合内容が幾分異なることについても、もともときな臭い匂いがしていたこともあってすぐに受け入れることができた。


「メーテラ、あいつがお前んところのレイダーか」

「そうですけど、なんですか」

「いや、なんでもない」


 アーサーはそれからリディアとミケに一度視線を注いでから隣にいたスパイクに声をかけた。


「どう思う」

「あの傷じゃ厳しいですね。ぱっと見実力差もあるようですし」


 加えてジャンは殺しに来ているというのに、マキアは殺さずにたいしょしようとしている。

 きっと何らかの事情があるのだろうが、この意識のままではまず勝てない。


「現状、まず殺されます」

「だろうな」


 スパイクの発言にアーサーは静かに肯定の言葉を述べた。

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