表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第一章(後半) 光の射す場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/50

第39話 終わらぬ日

「あ、だ、大丈夫……?」


 マキアが目を覚ました時、目の前には今にも泣きそうなメーテラの顔があった。


「メーテラ、さん。ここは……」

「病院だよ」

「そう、でしたか」


 気絶する前の光景はちゃんと覚えている。

 足元しか見えなかったが、彼らに助けられたのだろう。


「あの……おれを、助けてくれた……人は……?」

「今ヴィクターさんと話してるみたい。私も分からないや」

「はは……そう、ですか」


 器官が壊れたのか喋る度に空気が抜けている感じがする。

 ただこれでも病院で治療を受けたのだろう。

 手足の感覚がある。

 末端はまだ曖昧なままだが。


「……メーテラさん」

「なんだい?」


 マキアは部屋を一度見渡した。


「……ありがとうございます」

「……? 何で君が謝ってるんだい……?」


 何か嫌な気配を感じ取ったメーテラがそわそわとしながら返すと、マキアは笑った。


「まだ、ジャンとの試合には……間に合いますか」


 マキアがどれだけ負傷していようともジャンとの試合は行われる。

 地下に落ちて一日、母親マザーの体内から逃げるために半日。そして気絶で数時間。

 おそらく、ジャンとの試合開始時刻を過ぎているか、あと少しというところ。

 病室の時計は外されていた。

 メーテラが外したのだろう。

 マキアが『ジャンとの試合』を思い出さないために。

 これだけの負傷を負った後に戦わないように。


「いや……」


 マキアの問いに対して、メーテラは視線を泳がせながら一旦は否定する。

 だがすぐに口を閉じた。

 ここで否定すれば、マキアがここで尋ねた意味が無くなる。

 そもそも、ここで『ジャンとの試合』のことについて尋ねて来たのだから、彼はやる気なのだ。

 マキアの意思を否定することはできない。


「《《10分後》》……にある」


 マキアは軽く笑った。


「じゃあ、やらないと、ですね」


 ◆


 マキアの体はまともに動く状態ではなかった。

 というより、生きているのが不思議なほど。

 それほどまでに危険な状態の中、母親マザーと戦っていたのだ。

 全身に入った亀裂から流れ出る血液、両腕は焼け焦げていた、内臓は傷つき、一部は機能不全に陥っていた。

 救助された状態は酷い有様で、回復薬で何とか一命を取り留めたものの、病院で最低限の治療を受けていなければ体が動く状態にまで回復するのに三日はかかっただろう。

 ただ治療を受けたからといって万全の状態というわけでは当然ない。

 息を吐くだけで喉が冷える。

 歩くだけで体が軋む。

 力を込めればささくれと引っ張った時のような激痛が全身に走る。

 上手く体は動かせないし、感覚も鈍い。

 倦怠感は当然のようにあるし、意識もまだ朧げだ。 

 

 だがそれでも、ジャンには勝たなければならない。


「分かりました、ありがとうございます」


 目的地へと向かって歩きながら、マキアはメーテラから試合に関する最低限のことを教えてもらっていた。

 

「じゃあ、取りあえず勝たなきゃですね」

「そうだね……」


 体中が傷だらけのマキアの背中を押して戦いに向かわせなければならない事実を真正面から向き合って、メーテラは静かに答える。

 すると、目的地の施設の前にミケが立っていた。


「あ、ミケさん……おれがいない間、ありがとうございます」


 駆け寄るマキアにミケは誇らしげな、あるいは悲し気な顔を浮かべた。


「やっぱり来たか」


 メーテラからマキアの負傷具合については知らされていた。

 そのうえでどうするのか、マキアならば試合に来るだろうと予測していたが、体のことを考えると外れて欲しかった予想だ。ただ、もし来なければマキアではないし、テイカーロッジに未来はない。


「体の調子は」

「ぱーぺきです」

「……はぁ」


 マキアの冗談にため息で応答すると、ミケがマキアの腕を見た。


「試合の条件については聞いたか」

「一応……」

「それだけ分かってればいい、細かい話は後。今は取り敢えず頑張れ」

「はい」


 マキアはメーテラの方にも一度視線を傾けた。


「ということで、頑張ってきます」


 ◆


 ジャンとの試合はレイダーズフロントの施設を使って、同じ条件のもと行われる。

 使用される装備、武器は二人とも同じ。

 環境もレイダーズフロントの施設であるため、中立となっている。

 

「よぉ、生きてたんだな」


 マキアはメーテラたちと別れて向かった先でジャンと会っていた。

 

「生憎な」

 

 マキアはジャンの挑発を受け流して準備を進める。

 二人が持っている小銃と防護服は全く同じものだ。

 小銃と防護服にはセンサーが取り付けられており、二つは連動している。

 もし小銃の銃口が防護服に向けられた状態で引き金が引かれれば、センサーはそれを認識し、着弾判定を出す。

 試合ではこの機能を使って勝敗を決めていく。

 だが、マキアはこの時点で一つ気になることがあった。 

 事前にメーテラから試合の条件や詳細については話されていたため、ルールのことではない。


「おい、なんで実弾が」


 引き金を引けばセンサーが機能して命中したかどうかが分かる。実弾を込める必要は何処にもない。

 しかし与えられた小銃には実弾の込められた弾倉が差し込まれていた。

 それ以外にも、与えられた装備には殺傷力のある物が幾つかあった。


(それにこれは……手榴弾だよな)


 小銃と共に幾つかの手榴弾を渡された。爆発はせずセンサーを用いて防護服だけに衝撃を与えるというのならば、手榴弾の意味も分かる。しかしマキアが知っている限り、これは市販で売られている普通の手榴弾だった。


「これは……爆発するのか」


 念のため問いかけると、ジャンは歯を見せて笑う。


「何ってるんだ? 手榴弾は爆発するものだろう?」

「そうか……」


 その瞬間にジャンの狙いを悟った。

 実弾に手榴弾、一歩間違えれば死人が出る。

 おそらくジャンの目的はマキアを殺すこと。

 江東社が絡んでいることを考慮すれば、裏で何かの取引が行われていてもおかしくはない。江東社の目的はマキアを殺すこと。ジャンの目的はテイカーロッジを潰すこと。 

 その中でマキアを殺すこと。

 江東社とジャンの利害はかみ合っていた。

 

(……ったく)


 江東社が何よりも恐れているのはマキアに事件のことを漏らされること。

 だから暗殺部隊を仕向けさせた。 

 だがその目論見は失敗し、マキアに対してさらなる不利を背負うことになった。

 マキアを殺すにも暗殺者を雇う金と度胸が無く立ち止まっていたところに、ジャンが交渉を持ちかけたのだろう。


(……メーテラさんは……いや、知らないか)

 

 契約書に『実弾を使わない』とは一言も書かれていなかった。

 防護服と銃器の機能を用いた着弾判定で勝敗を決める、という文言のせいでそこまで頭が回らなかったのだろう。グルーワームの事件や時間的制約がある中で最適解を出せというのは無理な話、マキアがいても気が付けたどうか分からない。


「じゃあな」


 試合の意図に気が付いたマキアに挑発気な笑みを浮かべジャンが立ち去る。

 

「おい、待てよ」


 マキアがジャンを呼び止めた。

 

「てめぇが殺されても文句は言えねぇよな」

 

 試合の勝敗はどちらかが死ぬことで決まる。

 マキアを殺す気というのならば、ジャンが殺されても文句は言えない。

 

「その傷で、やれるものならやってみな」


 ポケットに手を入れて高笑い交じりにジャンが立ち去る。


(ッチ)


 ジャンの方が単純な銃撃戦において経験と実力がある。その上でマキアは傷だらけで頭もあまり回っていない。 

 ジャンは奇策を弄せる相手ではないし、一発逆転を狙おうとすれば必ず気が付かれる。

 マキアは傷だらけの体で真正面から戦わなければならない。

 条件は絶望的だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ