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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第一章(後半) 光の射す場所

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第38話 名を唱えろ②

 両手斧の宝名を呼んだ瞬間、極限にまで熱せられた刃から雷が如き火の稲妻が走る。

 暗がりに包まれていたはずのトンネルは眩いばかりの火花によって明るく照らされ、迫りくる母親マザーの姿を明らかにした。足元に転がる幼体の死体や抉れた地面。

 マキアが両手で握り締める禍具の名を呼んだ時、すでに母親マザーは目前にまで迫っていた。

 

「——ッ」


 両手斧から発せられる炎によって手の皮膚が焼け焦げている。

 握り締め、全身の力を使っているというのに、より一層重みを増した両手斧を振り上げることができない。

 刃から発せられる赤みを帯びた稲妻は防護服を貫通し、マキアの身体に亀裂を作る。


「ふざけんなよッ!」


 痛む体と言う事を聞かずに出力を増し続ける両手斧に悪態をつく。

 そしてもはや感覚が残っていない両手を握り締め、両手斧を振り上げた。

 

 その時にはすでに、マキアは母親マザーの咥内にいた。

 

「しゃらくせぇ!」


 大したことではない。

 食われるのと同時に両手斧を振り降ろした。

 幾つもの歯が鱗のように連なる母親マザーの咥内で、両手斧の刃が歯に触れた瞬間、火柱が上がると共に爆破が起きた。

 それまでマキアの体に走っていた亀裂が母親マザーの身体を駆け巡る。

 母親マザーの内部から火炎が噴出し、身を焦がす。


「ッがぁあ」


 マキアは両手斧を振り降ろした際の衝撃で遥か後方に吹き飛ばされていた。

 地面とこすれ合いながら徐々に速度を弱め、今度は僅かに勢いを落とした母親マザーが近づいて来る。

 母親マザーの咥内は爆破で穴が開き、亀裂から火が噴き出していた。 

 それでも巨体は止まらない。

 凄まじい生命力のもと立ち上がることのできぬマキアを追撃する。


「まだ……」


 死ぬわけにはいかない。

 焼けただれた手のひらを地面につき、もう一度両手斧を握り直す。

 

「ぶっ殺してやる!」


 体中から響く悲鳴を無視して両手斧を振った。

 刃は母親マザーの身体を捕らえ、マキアを巻き込んで爆破する。

 衝撃によってマキアの体は再度後方に吹き飛ばされた。だが代わりに母親マザーの巨体が止まる。

 すでに咥内には穴が開き、鱗に入った亀裂から炎が噴射していた。

 母親マザーも死に体。

 だが、未熟なマキアでは母親マザーを殺しきることは叶わなかった。

 

「うっそだろ……」


 逆に笑えてくる。

 あれだけして殺せない。

 母親マザーはゆっくりとまた動き始めている。

 体を這わせてマキアに近づいていた。


「……ったく」


 体が動かず悪態を吐くことしかできない。

 両手どころか足の感覚もない。というより、意識だけが辛うじて残っていてそれ以外は朧げだ。

 視界の隅に映る巨大な影が近づく事実を見ることしかできない。


「あ……いあ」


 活舌もまともに回らない中、脳だけは辛うじて活動していた。

 そして脳は体が悲鳴すら上げれないほど破壊されているというのに、『まだやれる』と無理難題な要求を下す。

 

「きっついわ」


 再度力を込める。

 想像通り感覚は無いし、動く気配がない。 

 しかし辛うじて指先は動いた。

 案外、できるものだ。

 ならば、やることをやるだけ。


「よし……」


 マキアがゆっくりと両手斧に指を這わせ、戦おうとする。

 その時、視界を何かが横切った。


「おいおい、こりゃひでぇな」

「あれ? この子ですか? 言ってた子って」

「二人とも、先にまずはアレを片付けてからにしてください」


 首を動かすことができないため、彼らの声と下半身しか見ることができない。

 三人の人間がマキアの前に立って話しているようだった。


「今、ヴィクターから連絡きました。成体のグルーワームが数十体と」

「な? 言ったろ? あの野郎、上から話し引き出すために黙ってやがったよ」

「えぇ、じゃあ長引きそうですね」


 三人の中でもっとも貫禄のある声をした者が一歩前に出て、腰に携えた剣を触る。


「ということはこいつの出番か?」

「やめてくださいよアーサーさん。地下で使ったら崩落しますよ」

「それはスパイクも同じじゃねえか」

「俺のはあなたのと違って火力の調節ができますよ。禍具それがないとアーサーさん俺らより弱いんですから、間違っても前線に行かないでくださいね」

「んな、生意気な……」

「事実でしょ」

「……ぐ」

 

 すると今度は女性の声が聞こえた。


「やはり、ここは私の《《墨汁ちゃん》》の出番ですかね」

「まあそれが楽だな」

「あまり食べさせないようにしてくださいね」


 女性は「分かってますよー」と口を尖らせて言うと、三人の雰囲気が変わった。


「さて、墨汁ちゃん。頑張ってね」


 女性が首にかけていた巨大な数珠が溶け出し、手のひらの上で巨大な球体を作った。

 この球体こそが女性ツヅキの禍具。

 元最高額懸賞首——月蝕幽狐ツキバミギツネの核を基に作られた最高等級の禍具である。

 その宝名を唱えることが許されるのは主人であるツヅキのみ。


遊態ゆうてい……」


 今、祝詞を上げ、月蝕幽狐ツキバミギツネは染み渡る。

 同時に、そこでマキアの意識は途切れた。

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