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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第一章(後半) 光の射す場所

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第30話 ジャンの提案①

「……ということがありました」


 暗殺部隊を殺しきったマキアはテイカーロッジの事務所に帰って来ると、メーテラにこれまでに起きたことの詳細を話していた。

 

「それはなに? 全面戦争的な?」


 三番街と決裂し、江東社に暗殺部隊まで仕向けられた。凄惨な殺し合いが起きてもおかしくはない。

 マキアの話を聞く限りでメーテラにはそうとしか思えなかった。

 『全面戦争』というのは少し大げさだが、事実、それに似たことは起きるかもしれない。マキアは肯定しつつ展望を答える。


「全面戦争みたいな大規模なことにはならないと思います。ただ殺し合いになるかもしれません」


 三番街が直接仕掛けてくる可能性は低い。しかし江東社がどうだかは分からない。 

 暗殺部隊を返り討ちにしたことで江東社の動きが収まるのか、それとも激化するのか予想がつかないからだ。いずれにしても江東社の問題には直接ケリをつける必要がある。

 現状、三番街と江東社、どちらの問題を片付けるかと問われれば江東社が先だろう。

 

 マキアの話を聞いたメーテラはテーブルに突っ伏せる。


「もし戦うってなったら、私は足手まといだよね~」

「いやいや、これはもともと俺の問題ですよ」

「部下の責任は上司の責任だよ」

「無駄な責任まで負わなくてもいいですよ」


 メーテラが空笑いをして背筋を大きく伸ばす。


「打てる手は打っておいて、あとは相手に出方を待ちましょ」

「そうですね」


 マキアが返事をした瞬間、事務所の呼び鈴が鳴った。

 入り口のところに誰かいる。

 

「俺が見てきます」

「ここでじっとしているよ」


 マキアのことが心配ではあるが、ついていけば『もしもの時』に足手まといになるので、メーテラはおとなしく待機を選ぶ。

 一方、マキアは拳銃を手に取って隣の部屋に行く。

 そして物陰からガラス越しに見える外に意識を向けた。


「……あ」


 入り口の前に立っていたのはミケだった。

 そういえば今日、会う約束をしていることをすっかり忘れていた。


「ごめなさい……」


 メーテラにも当然ミケにも聞こえないほどの小さな独り言を呟きながら、玄関ドアに近づく。

 するとガラス越しにミケもマキアを発見したのか、目が合う。


「すいません、色々立て込んでて忘れてました」


 ドアを開けながら言うとミケはマキアの反応から違和感を感じ取っているようだった。


「ああ、大丈夫だが……何かあったのか?」

「まあ、説明すると長くなるんですけど、取りあえず中に入ってください」

「あ、ああ」


 ミケが困惑しながら事務所の中に入るとマキアはすぐに鍵を閉める。

 それからメーテラを呼んだ。


「メーテラさーん。大丈夫でーす」


 マキアの声が聞こえるとメーテラが扉からひょこっと顔を出してミケを見る。


「わ、亜人だ。珍しい……」

「前に言ってたミケさんです」

「ああ、この人が。ごめんね、こんな状態で。ささ、中に入って」


 他人の家に上がり込んだ時の子供のように、ミケは申し訳なさそうにしながら奥の部屋に入る。


「ここがテイカーロッジか……思ってたよりも広いんだな」

「まあ奥行きだけなら大通りに抜けるぐらいあるので」

「そんなにか」


 マキアとミケが軽く会話しながら部屋の中に入ると、メーテラがお茶をテーブルの上に並べる。

 テーブルに座ったミケはお茶を手に取って軽く感謝を述べた。


「ありがとうございます……メーテラさん?」

「メーテラでいいですよ。一応、テイカーロッジの社長やってます」


 ミケと軽く挨拶を交わすとメーテラはマキアを見た。


「してマキア、彼は今日どのような用件で来たのかな?」

「おれも知らないです」


 マキアもミケが今日訪ねて来た詳細な理由を知らなかった。メールで何通かやり取りを交わして今日テイカーロッジを訪れると約束しただけだ。

 ミケもそのことが分かっているので「それは俺から説明します」と声をあげた。


「ただ、その前に何かあったんですか」


 マキアの反応から何か異常事態が起こっていることをミケは察していた。

 ミケが訪れた用件は緊急性があるものではないため『もし問題があるのならばそちらを優先した方がいい』旨も続けて伝える。


「俺のは後回しでもいい。何かあったのなら……俺が助けになるなら聞くが」

「いや……」


 これ以上他人を巻き込みたくないという思いからマキアが咄嗟に否定する。

 するとミケは軽く笑った。


「どうせ三番街のことだろ。女王討伐の件で面倒吹っ掛けられたとみた」

「え……」

「その反応は図星だな? 俺も駆け出しだった頃に絡まれた。奴らは有望格のレイダーがいると引き込むか潰すかの二択しかやらないからな」


 三番街の手口は昔から変わらない。

 将来的に面倒になりそうなレイダーハブやレイダーが現れれば、引き抜くか潰すかの二択を迫る。 

 ミケもその被害に合っていた。


「ってことで何かあるなら話してみろ。もしかしたら力になれるかもしれん」


 マキアは一度メーテラと目を合わせた。


「分かりました」


 一度息を吐いて呼吸を整えると、マキアが喋り始めた。


 ◆


「さて、準備は整ったな」


 ソファに深く座り込んだジャンが愉快そうに笑う。


「ちょうど解体業者の知り合いが欲しかったところだ」


 規模が大きくなった三番街はちょうどマガツモノの解体業者が欲しかった。ミルゲスがあの様子ならばうまく使って江東社ごと三番街に引き込める。その上で将来邪魔になりそうなレイダーを始末することができる。それに、もしかしたら加工屋スミスも手に入るかもしれない。

 

ミルゲス(あいつ)、馬鹿だろ。行動が短絡的。暗殺部隊まで雇うとか、馬鹿すぎ」


 マキアを殺すためならば、口封じをふるだけならば、いくらでも方法はあった。  

 しかしミルゲスは短絡的で凡そ理解できない思考回路から、暗殺部隊を雇いマキアを殺すという選択を取った。

 親から会社を引き継いだだけのボンボンという評価はやはり間違ってなかったようだ。


「お前もそう思うよな、ハイディン」


 ソファに座るミルゲスの後ろにはハイディンが控えていた。

 ハイディンは「はい」とだけ静かに呟くと、ジャンは空笑いを浮かべる。


マキア(ガキ)の交友関係をざっと調べた。『キバンエリア』で『ガラクタ』っつう店をやってるリディアっつう娘がいる。こいつがマキアの知り合いらしい。どうだ、ワクワクしないか?」

「ワクワクします」


 マキアには容赦しない。

 弱みとなるすべてを突いて必ず殺す。


「さて、ガキ一人で加工屋スミスと友達を守れると思うか?」

「思いません」

「ワクワクするよなぁ!」

「はい」

「よし、じゃあ行ってこい」

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