第25話 情景と憎悪
「付いてこい。言い訳をしたらこの場で撃ち殺す」
カイルはマキアに拳銃を向けながら淡々と言い放つ。
マキアは周りに他のレイダーがいないことを確認すると、カイルとハイディンの装備を見る。
どちらとも三番街の防護服と対マガツモノ用の装備を持って、完全にいつでも戦える状態だ。
「……分かった。早めに用件を終わらしてくれよ」
「そうなればいいがな」
カイルとハイディンが目的地に向かって歩いていく。
方向は明らかに前哨基地跡がある場所だった。
「おい、何しに行くつもりだ」
「黙ってろ」
場所を考慮すると、どうやら話し合いをするわけではなさそうだ。
おしゃべりがしたいならマガツモノに邪魔されない安全な場所にする。
やはり穏やかではない。
(どうするかな……)
現状、マキアが取れる選択肢は幾つかある。
カイルの要望次第だが、聞く前にN-41カルディンの引き金を引いてしまうのが安全だ。
ただハイディンとカイルの二人が両名とも警戒態勢を取っていること、彼らを殺せば後ろ盾の三番街が面倒な事態を引き起こすかもしれないことなど、ここで引き金を引くのは現実的ではない。
かと言って対話が通じる状況でもなさそうだ。
話がしたいのならば前哨基地跡に連れて行くことはない。
何が行われるのか。
何をしようとしているのか。
マキアがそんなことを考えながら歩いていると、前哨基地跡が見えた辺りでカイルが足を止めた。
「マキア、お前に話がある」
カイルが振り向いて拳銃を向けたまま、口を開く。
「お前、大規模攻略作戦で女王を討伐しただろ」
「ああ」
「その件でジャンさんから話がある」
「ジャンって……」
三番街のリーダーであるジャンが絡んでいるとなると随分ときな臭そうな気配を感じた。
だがその心配はない、とカイルが付け加える。
「ジャンさんからの指示は、お前を三番街に連れてこいというものだ。あの人のことだから勧誘が目的だろう」
「じゃあなんでここに連れて来たんだ」
「あの人のことだ、勧誘を断ったらお前に嫌がらせするだろうな」
「回りくどいな。だからってなんでここに連れて来たんだ」
カイルがハイディンに目配せをしてからマキアを見た。
「俺はその指示には従わない。お前は『前哨基地跡で死んでいた』ものとして報告する」
瞬間、カイルとハイディンがマキアに向けて発砲した。
防護服を着ているため体への銃弾は幾らか耐えられる。しかし防御できていない頭部はまずい。
まず頭部を手で隠す。
この状況でN-41カルディンの引き金を引くのはまず不可能。
引き金に指をかけ銃口を定める前に、N-41カルディンが破壊されるか防護服に穴が開く。
もって数秒。
「―――ッ」
カイルが攻撃してくることを想定していたマキアは彼らが銃口を向けるのと同時に、腰から解体斧を取り出していた。
瞬間、解体斧を展開し、両手斧へと変化させる。
刃はマキアを防ぐ盾のように、テイカーロッジの事務所で展開した時よりも巨大になっていた。
両手斧になり刃が盾として機能すると、そのまま前へと進みカイルとの距離を一気に詰める――。
「――っがぁあ!」
カイルとハイディンに近づくのと同時に両手斧は片手斧へと戻ると、マキアはそのままハイディンの片手を切り落とし、続けざまにカイルの腹に膝をめり込ませた。
「クソがァ!」
失った腕の断面から流れ出る大量の血液を必死に抑え、喚き散らかすハイディンを横目に、マキアは腹を抑えて蹲るカイルに視線を向ける。
「なんでだよ……なんでお前の方が……」
カイルは口から涎を垂らしながらマキアを睨みつける。
「いつも……お前は……俺を、後から始めた……くせに」
「……」
マキアはゆっくりと解体斧を仕舞う。
「もうお前のせいで面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ。ジャンには『断る』ってこと伝えておいてくれ」
ここでカイルとハイディンを殺したらマガツモノが後で死体を食べてくれるかもしれない。
しかし三番街を取りまとめるジャンの能力を加味すると、マキアに何か仕掛けてきてもおかしくはない。カイルとは昔馴染みだし、ここで殺したら後々に厄介なことになる。
ただ。
「次は殺す」
カイルが自分に対して憎悪に似た感情を抱いていることは知っていたが、直接手をかけて来るまでになれば話は別。
次は三番街のことやその後のことを考えず、殺す。
そう言って立ち去ろうとするマキアをカイルは呼び止める。
「殺せよ! 今ここで俺を! もう殺してくれよ!」
「……」
「もう惨めなのは御免なんだよ!」
当然、マキアはカイルの要望を聞き入れることはなく、歩き去っていった。
◆
「くそ……」
マキアに見逃されあと、カイルはハイディンの応急処置をすると三番街の拠点に帰って来ていた。
いつもの部屋で、ソファに座りながら項垂れる。
「なんでだよ……」
地下都市で成り上がるためにレイダーになって、三番街にも入った。
だというのに毎日が三番街の仕事で埋め尽くされて、思い描いていた未来とはかけ離れた日常しか待っていなかった。
雑用をやるために三番街に入ったんじゃない。
マキアに勝てるような、マキアが振り向くような、目を止めるような、そんな実績を残すためにレイダーになったのだ。
得たものといえば虚実に塗り固められた肯定感だけ。
おまけに、マキアに勝つためにレイダーになったというのに、もう追い抜かれた。
「なんでだよ……」
何度も自分に問いかける。
その時、突然扉が開いてジャンが入ってきた。
「あ、ジャンさん」
カイルは何とか気分を切り替えてすぐにジャンの応対へと移る。
すでにジャンには今回の件について伝えている。
ただ正直にすべて報告すれば命令違反になるため、ある程度のことを隠しながらだが。
「……え」
だがジャンのすぐ後ろから続けて入ってきたハイディンの姿を見てカイルは嫌な予感を覚える。
無くなった片腕を抑えるハイディンの表情は苦悶に満ちている。
それは決して痛みのせいではない。
「おいカイル。お前、立たなくてもいいぞ」
立ち上がりジャンに挨拶しようとしたカイルの肩を抑え、そのままソファに座らせておく。
そしてカイルから見えないよう後ろに立って肩に手を添えたままジャンは口を開く。
「ハイディンから話を聞いた。カイル、お前随分と優秀な部下を持ったじゃないか。お前がついた『嘘』もきっちり報告してくれたぞ」
「……」
嫌な予感はしていた。
「命令違反だぞ、これは。マキアっつうガキは連れてこれず、三番街の評判に泥塗って、その上嘘までついたとありゃ、どう落とし前付けるつもりだ?」
「それは――」
「後そうだな……」
口を挟もうとするカイルの首元にナイフの刃が当てられた。
「ハイディンから聞いたんだが、マキアっつうガキは何やら変形する斧を持ってたらしいじゃねえか。どうも特徴が『禍具』ってやつに似てるなぁ。そうでなくとも、地下都市で手に入る代物じゃあ、ねぇな。加工屋に加工してもらったんだろうなぁ」
「……」
「なあカイル。お前、三番街の収入源って知ってるか?」
「それは……」
警備料金や献金、マガツモノの討伐や素材の売却。
言い終わるとジャンはカイルの頭を優しく叩いた。
「よくできたじゃないか。そう、俺らは素材の売却をやってるんだがよ、普通に売るだけじゃもったいねぇと最近感じてたんだ。できれば加工して売りたいんだが……加工屋が中央区にしかいなくてなぁ、一応いるにはいるんだが、どれも使えねぇ無能ばっか」
「……」
「もしそのマキアっつうガキが加工屋と関係があるなら知りたいなー、って思って、聞いてるんだけど、カイル君……何か知ってる?」
「それは」
「マキアっつうガキはどうやら、レイダーハブに入ってるらしいなぁ……そこのサイト見る限りは……」
「ジャンさん、それは――」
ジャンがもう一度強くナイフの刃を首に押し当てる。
「悪いことしちまったからには《《手土産》》が必要だよなぁ」
にたにたとジャンは笑う。
◆
「マキアー」
その日の夜、マキアがN-41カルディンの整備をしているとメーテラに呼ばれた。
「なんかマキア宛ての届け物らしいんだけど、知ってる?」
事務所の入り口の方に行くと扉の前に段ボールが置かれていた。
「いや、知らないですね」
メーテラにそう言いながらマキアが段ボールを開ける。
もしかしたら爆弾かもしれないので細心の注意を払いながら包みを破ると一枚の手紙が出て来た。
「なんだこれ」
一旦、手紙は後にして中に入っていたもう一つの袋を開ける。
これはかなり重く、中に液体が入っている。
肉やオイルにまみれになった部品など色々と思い浮かべながら封を開けた。
「……」
今日の昼に見た、昔馴染みの頭部が詰め込まれていた。




