第23話 忍び寄る者
マキアは店員――ベンジャミンに欲しい装備の条件について事細かに伝えた。
ベンジャミンはそこからマキアの予算に合わせて装備を提案していく。
会話の中でマキアが銃に関しての知識が深い事に気が付くと、ベンジャミンは幾つか専門的な提案をする。
「それでしたら、ミリパワー社のLKシリーズなどはどうでしょうか、Cタイプに拡張オプションをつけたものなどもありますが、当店、提携を結んでおりますのでお安くなります」
マキアは悩んですぐには返さなかったが、言葉の意味が理解できていない、という様子ではなかった。
「……だったら……拡張オプションはスタンダードタイプを基準に、内部機構だけ変更することはできますか」
「可能でございます。そちらの方向で進めましょうか」
毎晩のように銃器のカタログを眺めていたおかげで基本的な知識は当然のこと、少し専門的な部分も網羅している。
そのおかげでマキアはベンジャミンとスムーズに取り引きを行うことができた。
「さて、銃器に関してはこちらでよろしいですね。では次に防護服ですが……」
銃に関しての知識ならばあるが、防護服となるとマキアは知識不足だ。
素直にベンジャミンの『おすすめ』に従った方がいいかもしれない。
「そうでしたら、私から予算に合わせ最適な商品を提案させていただきます」
ベンジャミンはマキアに紙切れのように薄いタブレットを手渡す。
中にはベンジャミンがセレクトした防護服と装備が並べられてた。
「この中から選べばいいんですか」
「そのほか、お調べして選んでいただいても構いませんよ。あくまでも、お客様の要望を聞いた上で最適な商品を提案させていただいたにすぎません」
基本的に地下都市の店はぼったくってくる。だから騙されないよう事前に知識を入れておいたり、詳しい奴を一緒に読んでくる必要がある。それか巧みな話術でどうにかするか。
場所によっても当然異なるが、ぼったくって来るところはぼったくってくる――そのせいで、マキアは店の人を信用していない。
ただベンジャミンに関しては今までの紳士的な振る舞いや言葉から信じても良い気がした。
(ちょろいかな)
単純すぎるのではないかと思いつつ、騙されたら自分が悪かったと信じてベンジャミンを全面的に信用することにした。
「じゃあ防護服はこれをお願いします。それと他に欲しい装備があるんですけど、そっちもいいですか」
「ええ、もちろん」
◆
「買い過ぎてしまった」
ナカムラアームズで買い物を終えたマキアが帰っている途中でふと呟いた。
ベンジャミンの口車に乗せられて買い過ぎて、予算を少しオーバーしてしまった。
いや、『口車に乗せられて』という言葉遣いはおかしいかもしれない。
ベンジャミンは「予算をオーバーしてしまいますがよろしいですか」と丁寧に説明してくれていた。その上で「大丈夫です」と言ったのはマキア自身だ。この買いすぎはすべてマキアの責任。
「まあいいけど……」
逆に清々しさまであった。
幾つかは在庫を取り寄せる必要があるため、後日、また店舗を訪れることになる。
届くまで二日か三日らしいので、それまでゆっくりしていよう。
N-41カルディンの修理や運搬用ロボットの整理など、その前にしておかなければならないことが多々ある。
用事を一つずつ終わらせていって、装備を受け取ったらまたレイダー稼業スタートだ。
(まあまあ順調か)
レイダーを始めてすぐ大規模攻略作戦で手柄を立て、新しい装備まで買えた。
今のところは順調に物事が進んでいる。
だが何かあるか分からない。
すこし緩んだ気を引き締めて、マキアは帰路に着く。
そのマキアの後ろ姿をカイルが見ていた。
◆
マキアがテイカーロッジの事務所に戻ると、メーテラが奥の方の部屋にいた。
テイカーロッジの事務所は壁をくり抜いて作られた広い空間であり、幾つもの部屋がある。
その広さ故、その奥にある大通りにも繋がっており、そちらからも事務所に入ることができるようになっていた。ただ基本的に入り口はシャッターで閉められている。
大通りからすぐに入ることができる部屋は受付ではなく、マガツモノの加工や解体を行う部屋になる予定だからだ。将来的にマガツモノをレイダーズフロントに売らない場合、解体と加工をする必要性が出てくる。
その際、大通りに沿っている入り口からマガツモノを運び込む方が楽だ。
そのため、一番広い部屋にはまだ設備が整っていないながらも、配線や洗浄のための蛇口など、必要なものは揃っていた。
ただまだ必要な装備は何一つとして揃っていないので、ただっ広い部屋があるだけだ。
その部屋の隅の方にある作業台にメーテラがいた。
「何してるんですか」
「お、帰って来たのかい」
集中していたらしいメーテラはマキアが声をかけてやっと気が付いて頭を上げる。
それから作業台の方に置いておいた解体斧を手に持って掲げた。
「解体斧の加工が今終わったところだよ」
一瞬、メーテラが何を言っているのか分からずマキアが首を傾げる。
「か、加工って?」
「私は加工屋だからね」
「いや、そういうことじゃなくて……」
メーテラが加工屋だということは分かっている。『核』はマキアが持っていたものがあるので、おそらくそれを使ったのだろう。一番の問題は『なぜ加工しているのか』ということだ。
加工設備が無いからしばらくは『核』を加工することは無理だったはずだ。
マキアの問いかけに対し、メーテラは作業台の上に置かれた幾つかの道具を見せる。
「それがね、昔の同僚に加工道具を送ってもらったんだよ。あくまでも持ち運びの簡易的なやつだけど」
「それがですか?」
作業台に近づいて上に並べられた道具を見てみる。
何ら変哲のないトンカチやドライバーなどが並べられていた。他にも用途こそ分からない道具が置かれているが、『核』を加工するための専用の装備と言われても分からない。
「なんか、言っちゃ悪いですけど、普通の道具に見えますけど」
「見た目はね。でも全部マガツモノ由来の素材が使われてるよ」
続けて「一番の違いはね」とメーテラが説明する。
「鍛冶屋 が作ってるんだよ。それも私専用にね」
「鍛冶屋? なんですかそれ」
「武器とか加工屋のために色々と作ってくれる何でも屋。人数が少ないから、特注の道具作ってもらうのすっごく高いんだよ」
「そうなんですか……?」
よく知らないことなのでマキアは首を傾げつつ、興味はすでにメーテラの手に握られた解体斧へと向けられていた。
それに気が付いたメーテラは「ふふん」と鼻を鳴らして自信ありげに説明する。
「素材とか加工設備の関係で銃型を作るのはできなかったんだけど、解体斧を基に『核』を加工したものだよ」
「え、じゃあ」
「そう、これは《《禍具》》だよ」
とは言っても、とメーテラは続けた。
「『核』の等級は高いと思うんだけど、引き出せる力が無かったから特別な能力とかはないよ。ただただ頑丈で切れ味抜群な斧って感じかな」
本来『核』は獲れたマガツモノの特殊な能力を受け継ぎ、加工屋はその力を引き出すことで禍具は絶対の武器になる。
雷撃や爆炎を発生させ、時には大地を砕く。
絶対の武器を作れるはず――なのだが、マキアが持って来た『核』には何一つとして秘められた力が無かった。
そのため、解体斧はただただ頑丈で何であろうとも切れるだけの代物になった。
「へぇ……」
マキアが解体斧に釘付けになっているとメーテラが差し出す。
「さて、遅くなったね。やっと私も役立てたよ」
「持っても、いいんですか?」
「いいよ。見た目は何も変わってないし、重さとかも特に変わってないと思うから、違和感とかはないと思う」
マキアが解体斧へと手を伸ばす。だが寸前で止めた。
「あれ、そういえば『核』はどんな風に埋め込んだんですか」
解体斧は加工前と後で一切変わっていない。いくら『核』が小さくとも埋め込めば少しぐらい形が変わってもおかしくないはずだ。
「マキアくん、違うよ。加工の際、『核』は埋め込むんじゃない。染みわたらせるものなんだ」
「……?」
「解体斧全体に『核』が浸透しているって表現……分かるかな?」
スポンジに水がしみ込んでいくように、マガツモノ由来の素材で作られた武器には『核』が浸透する。その『浸透する』という部分が加工屋にしかできない特殊技能だ。
「つまり、『核』は無くなったと?」
『核』が形を失って水のように溶け込んだのならば、再びあの球体の形を取り戻すことはできないはず。
だがそれはメーテラが否定した。
「私ならまた『核』の形を戻すことができるよ。安心してよ、壊したわけじゃないから」
「あ! いや、ぜんぜん。そんなつもりじゃなくて」
「まあまあ、今は取り合えず渾身の一作を触ってみてよ」
メーテラが再度、解体斧を差し出す。
「じゃあ、お願いします」
変な緊張を感じておかしな言葉を口走りながらマキアが解体斧を手に持った。
その瞬間、解体斧が変形して両手斧と言うべき長さの武器になった。
「え……これ、メーテラさん」
「……わっつ?」
メーテラでも想定していない事態だったのか口をずんぐりと開けていた。




