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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第一章(後半) 光の射す場所

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第22話 新しい装備

 レイダーハブ『三番街』はマガツモノの討伐や治安維持などか主な仕事だ。

 地下二階の非保護区域は当然のこと、地下一階の居住スペースでもマガツモノは侵入してくる。

 地下都市の外側の壁を一枚隔てた先はマガツモノが活動している非保護区域であり、壁が破壊されれば居住スペースには容易に侵入できる。

 その脅威に対して行政は最低限の対応しかしないため、必然的に地下都市の住民が動かなければならない。

 そうしてできたのが自治会などの組織であり、特に力を持っていたのが三番街エリアの自治会だった。

 この自治会を後にジャンが乗っ取ったことで、レイダーハブ『三番街』が生まれた。

 

「っち」


 幾つかある三番街の施設の中で、テーブルに並べられた資料に視線を送りながら、カイルが舌打ちをした。


「どこにいやがる」


 呟きながら頭を抱える。

 だが答えは出てこない。

 そうして時間は過ぎていきカイルが気分を切り替えるために飲み物を取ってこようと立ち上がる、すると後ろから頭を掴まれた。


「おいカイル。まだか」


 振り向くと『三番街』のリーダーであるジャンが立っていた。


「ま、まだです」

「人使っていいって言ってるよな。それでも見つからないのか?」

「はい……すいません」

「謝罪は聞きたくねぇよぉ、早く《《マキア》》っつうレイダー連れてこいよ」


 大規模攻略作戦の日からすでに一週間が経過しようとしていた。

 レイダーと協力し、幼体ながらも女王を討伐したマキアの名はそれなりに広まっている。

 特に、大規模攻略作戦を率いたジャンはマキアに興味を示しているらしく、面識のあるカイルに連れていくよう命令していた。


「分かりました。すぐに」


 しかしカイルはマキアを見つけられずにいた。マキアはすでにテイカーロッジに家を移しているため、前の家に行ってもおらず、加えてテイカーロッジのことをカイルは知らないため、どこにいるのかを知る由もなかった。 

 三番街の人員を割いて調べさせているが、如何せんどこにいるのかも分からない。

 リディアに訊いてみても、自治会に尋ねてみても、今のところ有力な情報はゼロだ。

 マキアはレイダーということで、今は非保護区域に人員を送り警備網に引っ掛からないかと期待しているが、成果はない。


「早く探してこいよー。見つけられなかったら、分かってるよな?」


 ジャンがカイルの首のあたりを突いて楽し気に笑うと部屋から出ていく。

 

「……」


 部屋に残されたカイルは時計を一度見てから資料に視線を落とす。


(なんであいつのために俺が……)


 小さく心の中で不満を漏らすのだった。


 ◆


「…………」


 大規模攻略作戦の報酬が振り込まれるということで新しく作っておいた通帳を、『振り込みが終わりました』というメールがレイダーズフロントから来たので覗いてみた。

 軽い気持ちで『いっぱい稼げてたらいいなー』とアプリと開くと、通帳の残高が二桁増えていた。

 弾代やら整備代やら修理代やらでレイダーになって稼いでも出費がかさみ、口座にはほとんど金が入っていなかった。しかしそれでも残高が二桁も増えるのは異常事態だ。

 

(いや……女王も倒したし……正当……なのか?)


 レイダーに支払われる総額は最初から決まっておりパイを切り分けるように、各レイダーに分配されていく。その際、参加したレイダーが大量に死ねば一人当たりに切り分けられる配当は増える。

 今回は新たな女王の存在で処理部隊に甚大な被害が生じたことや、討伐部隊でも死傷者が多数でたことで、一人当たりに支払われる基本報酬は増えている。加えて女王を討伐したことで得られる追加報酬も合わされば、マキアが見たこともないような大金が支払われるのは当然のこと。


「……うーん」


 理論的には納得できそうだが、どうにも現実感がない。

 取り合えず急にお金が増えて怖いので、これまでの借りを返すつもりでメーテラに渡しに行くことにした。 

 だが、メーテラに残高を見せてからその旨を伝えると『じゃあ新しい装備を買いに行きなさい』と言われてしまった。


「まあ……いいけどさ」


 N-41ガルディンは壊れてしまって修理しなければならないし、防護服と暗視ゴーグルは買い替えなければならない。

 N-41ガルディンは修理するものとして、武器は二挺あった方が『もしも』の時の備えになる。ただマキアとしては事務所の設備を早く整えておきたかった。さすがにこれだけあれば金の足しになるはず。


「仕方ないか……」


 マキアの稼ぎがこれでは足りないということ。

 とりあえずは新しい武器を買ってまた稼ぐしかない。

 そのためにマキアは地下都市の中央区に近い場所に来ていた。

 武器屋は地下都市のそこら中にある。特に機械類が置いてあるエリアには多い。

 そのほとんどが取り扱っている商品は、だいたい中古品か型落ちの装備だ。模造品や流通経路の怪しい装備もある。

 だがその分値段は安い。

 買ってすぐに壊れたら運が悪かった。

 もし長い間使えれば運がよかった。


 そうした地下都市の慣習に倣ってマキアも装備を買おうとした――ところでメーテラに『どうせ買うならいい所で買いなさい』と言われて止められた。

 その結果、地下都市の中央区に近い場所に店を構える信頼性の高い店を訪れていた。


 ただ、中央区に近づいたことがないのでどのような武器屋があるのか分からない。

 そもそも、大金を稼いだとは言ってもそれはあくまでマキア基準での話、中央区で装備を買えるほどではないのかもしれない。


(ここか……)


 期待と不安を抱きながら店にたどり着く。

 中央区の近くとあって道は綺麗だし、店も綺麗だ。

 中でもマキアの目の前にある武器屋『ナカムラアームズ』は特に建物が大きく、整った外観をしている。

 地下都市の中央区は壁によって住む場所を区切っているため、壁に近いこの『ナカムラアームズ』が一番格式の高い店になる――はずだ。


 広い店内に銃器が飾られていながらもごった返していない内装をしている。高そうな床と天井からぶら下げられた見たこともないような照明。道路に面した壁は全面ガラス張りでよく中が見える。

 正直、どこか恐れ多くて近寄りがたい。

 しっちゃかめっちゃかにモノが散らばっている地元の店が懐かしい。


「行くか……」


 あそこに帰りたい……と、思いつつも引き返すことはできないので、恐る恐るガラス張りの扉を開く。

 店内は広いけれど壁に置いてある銃や装備以外に目立ったものはなく、フロア自体に置いてあるものは少ない。そのせいで明るい店内に一人取り残されたような気持ちになるし、奥にいる店員と自然と目が合ってしまう。


(……やべ)


 目が合った瞬間、店員がにっこりと笑い距離を詰めてきた。思わずたじろぐが後ろは扉があるのみで、これ以上引き下がることはできない。一旦外に出ることも考慮にいれたが、さすがにここで引き返せば強盗と間違われるかもしれない。

 そうでなくとも不審者にしか見えないだろう。

 マキアは自らの体裁のため店内に留まって大人しく店員に捕まった。


「ナカムラアームズにご来店いただきありがとうございます。本日はどのようなご用件ですか」


 店員はワックスで几帳面に固めた髪や皺ひとつないスーツを身に羽織り、その他にもマキアには理解できないような『最上級のマナー』が込められたであろう姿をしていた。

 その上、みすぼらしい服装で明らかにお金を持っていないマキアに対しても頭を下げるその姿からは、立ち振る舞いも完璧だと分かる。


「……」


 中央区の中でなくとも近い場所にある店はマキアのような貧困街に住む人を迎え入れないということが多々ある。レイダーや傭兵を相手にする武器屋だから、ということもあるのだろうが、マキアは『客』として迎え入れてくれたことに素直に関心していた。


「ありがとうございます……」


 通常では意味の分からない場面で、思わず感謝を述べてしまった。接客してもらって『ありがとうござます』というのではまるで会話がかみ合わない。

 だが店員はマキアの様子からある程度のことを理解したのかパーフェクトコミュニケーションを発動する。


「こちらこそ、お客様とお会いできまして光栄でございます」


 その上でなぜマキアを『客』として迎え入れてくれたのか、簡単に説明した。


「私どものお客様は、レイダーの方々であれ傭兵の方々であれ、どなたであっても将来のお客様であることに変わりはございません。だからこそ、私どもは常に礼節をもってお迎えし、ここを“最高の店だった”と心に留めていただけるよう努めております」


 小さくお辞儀をして言い終えると、店員は改めて問いかける。


「もしご希望の品がお見つかりでないようでしたら、よろしければ私どもがお探しするお手伝いをいたしますが、いかがでしょうか」


 マキアは銃や装備のことに全くの無知というわけではなかったが、ここまでよくしてもらったのだから応えたいと思った。


「じゃあ……」

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