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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第一章(前半) 泥を啜る日々

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第21話 報酬と次へ

「マキアー」


 痛む体と重い瞼を動かして、マキアがベッドから立ち上がる。

 

「起きましたー……」


 気だるげそうにメーテラに返事をしてからマキアは体を伸ばした。

 それから壁にかけられた時計に視線を向ける。

 夕方だった。

 

「はぁ……」


 時刻を見てため息をつき、存分に疲れたことを表現すると、気を取り直してメーテラのもとに向かう。

 メーテラは事務所のリビングでテーブルに座ってマキアを待っていた。


「おはようございます……」


 眠そうにしながら挨拶するとメーテラは苦笑した。


「おはようって時間じゃないけどね」

「起こしてくれてありがとうございます」

「ぜんぜん。それより良かったの? 昨日の今日でこんなすぐ動いて。体痛そうにしてるけど」

「まあ、約束しちゃったので」


 マキアは産まれ落ちたばかりの新たな女王を討伐した後もドロクマを狩り続け、大規模攻略作戦を終えた。討伐部隊は逃げた女王を最終的にはミケが単独で討伐した。

 昨日は巣内部の殲滅を終えた後も残っている細道に残っているドロクマの処理や、卵の処理など、いくつかの仕事をした後にやっと非保護区域に戻ることができた。

 その後のことはよくわからない。

 死体や残った卵、女王の死体はレイダーズフロントが回収し、マキアたちと入れ替わりで新たな部隊が投入されたと聞く。ただこの部隊は、どちらかというと後処理を担当している側面が大きい。


 とりあえず、昨日のことはこれで終わり。

 ミケやジャンなどの一部のレイダーは後日、報酬などのことで話し合いなどがある。

 本来ならばマキアがそこに呼ばれることはなかったが、幼体の女王を討伐したことで、レイダーズフロントと話すことになっていた。


 その際、話し合える日程を決めたのだが、マキアはあまり考えず次の日の夜にした。

 つまりは、この後すぐ。

 

「体バキバキですけど、まあ話し合いだけですから」


 大規模攻略作戦を終えた後の高揚感に流されるまま日程を決めてしまった。

 それでも次の日の『夜』ということで明日の自分を気遣ったのだが、どうやら気遣いが足りなかったらしい。

 昨日の夜遅くにベッドの中に入り、夕方まで眠ってしまった。

 もっと自分を大切にした方がよかった。


「この後すぐ行くの?」

「車両借ります」

「そう、夕飯は用意しておく?」

「じゃあ、お願いします」

「飛び切りのを作って待ってます」

「……楽しみにしてます」


 元気がないせいで楽しみにしているのやら、していないのやら。

 マキアはもう一度時計を見て準備をしようとすると、メーテラがテーブルの上に置いてあった暗視ゴーグルを見せながら声をかける。


「これ壊れてたよ」

「え、そうなんですか?」


 メーテラはマキアの装備品の整備や修理をできる範囲で行っていた。

 N-41ガルディンはドロクマに踏まれたのか壊れかけ、解体斧は特になし、防護服は買い替え必須、暗視ゴーグルは壊れていた。


「あれ……いつ壊れたのかな」


 マキアが首をかしげる。

 暗視ゴーグルは昨日、非保護区域に戻るまで確かに動いていた。でなければ暗闇に包まれた巣の内部を移動できるはずがない。だとしたら壊れたのは非保護区域に戻ってからということになる――が、壊れるようなことはなかった。

 もしかしたら非保護区域に出る前からすでに壊れかけで、外に出て暗視ゴーグルを外した時の衝撃で、追い打ちをかけてしまったからかもしれない。


(まあいいけど……)


 思い出してみると巣に突入した際に暗視ゴーグル越しに見ていた光景と、帰ってくる時に暗視ゴーグル越しに見えていた光景が異なるような気がした。

 しかし疲れからくる違いだろうと、マキアが首を振る。


「じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい」


 メーテラと軽く別れを告げて、マキアはレイダーズフロントの施設へと向かった。


 ◆


「マキア様ですね。こちらへどうぞ」


 レイダーズフロントの施設へとついたマキアは客人をもてなすような対応を受けた。

 今まで誰かに客人のように扱われた経験が不足していたので、新鮮な感覚だ。以前、レイダー証を作りに来た時とはあまりにも違いすぎる対応だった。

 別室で菓子類とお茶と共に待たされていたマキアは職員に呼ばれて案内される。

 向かったのは二つのソファがテーブル越しに向かい合って置いてあるだけの質素な部屋だった。ただ床に引いてあるカーペットや革張りのソファは高級そうに見える。

 そして奥のソファの横には一人の男が立っていた。

 ヴィクターというドロクマの巣を発見した際に話し合った、レイダーズフロントの非保護区域を統括する職員だ。

 彼はマキアに軽く挨拶をするとソファに座るよう促す。


「座ってください。お待ちしておりました」

「あ、ありがとうございます」


 座る際に体が痛むのを感じながらソファに沈み込むと、ヴィクターも対面に座った。


「さっそくで悪いのですが、大規模攻略作戦について話を進めても?」

「大丈夫です」

「ではまず、報酬のことについてでも話ましょうか」


 ヴィクターはテーブルの上にもともとおいてあった資料を滑らせてマキアの目の前に置く。

 

「報酬に関しての詳細はそちらに。ただ読むのも面倒だと思うので、私から概要を」


 ヴィクターはそう言って軽く説明する。

 大規模攻略作戦の基本報酬と幼体の女王の討伐に応じた追加報酬。 

 今回はこの追加報酬のためにマキアが呼ばれた。


「新たな女王についての追加報酬は現在割り出しています。そのため、他のレイダーに比べ報酬が振り込まれるのが遅れるかと思います。その辺、ご了承のほどをお願いします」

「分かりました」

「では、続けて補填について」


 ヴィクターはテンポよく説明を続けていく。

 弾丸などの代金の一部をレイダーズフロントが負担することや、報酬の早期振り込みなど。

 ある程度のことを説明し終わるとヴィクターは一度座りなおしてから、無意識のうちに眠そうな表情を浮かべているマキアを見た。


「どうやら、昨日の今日……というのは早かったようですね」

「あっ! い、いえいえ」


 ヴィクターに指摘されたと感じてマキアは飛び起きる。

 その様子をヴィクターは微笑んでみると、軽く話題を振った。


「どうやって女王を討伐したんですか」

「え……それは」


 他のレイダーの助けや、N-41ガルディン、それから解体斧と……それから……。


「……あ、あと爆弾のおかげで」

 

 説明していたマキアは重要なことを思い出す。

 女王の鱗を破壊し、逃げ出すきっかけを与えたあの爆発。 

 あれがなければ、もしかしたら処理部隊だけでなく討伐部隊までも壊滅していたかもしれない。


「爆弾……ですか」

 

 ヴィクターは『爆弾』という言葉を聞いて何か心当たりがありそうだった。


「あれを、誰がやったのか知ってるんですか?」

「ええまあ、爆発が起きたことは承知していますが……誰が爆破したのかは知りません」


 ヴィクターは続けて口を開く。


「処理部隊の面々に訊く限り、あの爆発が女王討伐の契機になったとのことですから、行った人には追加報酬を支払わなければなりません。しかし……」


 誰も名乗り出ない。

 名乗り出たとしてもそれは追加報酬目当てで嘘を言っているだけのレイダーばかり。

 普通、追加報酬を貰えるのならば喜んで本物が名乗りをあげるはず。

 しかし現状、誰一人としていない。


「今後も調査を続けていきますが、どうなるかは分かりませんね」


 ヴィクターはそう話しを締めくくると腕時計の時間を確認した。


「失礼。この後に用事があるもので、何かないようでしたらこの変で」

「……ありがとうございました」


 少し考えて質問が思い浮かばなかったので礼を告げてから立ち上がると、そのまま別れの挨拶を交わして部屋から出ていく。

 するとヴィクターの秘書であるアメリアが以前と同じようにマキアと入れ替わりで部屋に入ってきた。


「確認は済みましたか」

 

 コーヒーの入ったグラスをテーブルの上に置きながらアメリアはヴィクターの側に立つ。

 ヴィクターはグラス片手に先ほど話していたマキアのことを思い出す。


「女王を討伐した人物にはとても思えませんでしたが……」


 幼体で負傷を負っていたとはいえマキアの装備では殺しきれるはずがない。それでもマキアは確かに女王を討伐した。

 確かに、以前会った際とは違うように見えた。これは長年レイダーを見てきたヴィクターだからこそ分かる。

 一日や二日でああも変わるものなのか。

 女王討伐の際にきっかけと掴んだのだろう。

 

「まあ成長に賭けて《《用意》》しておきますか」

「はい」


 マキアというレイダーの扱い方をぼんやりと定め、ヴィクターはコーヒーを口に含んだ。

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