第20話 死に物狂い②
女王が爆破された姿を見て、マキアがまず覚えた感想は『最初から使ってくれ』とうものだった。
もし最初から使ってくれていればここまで被害が広がらなかった。
もしかしたら相当高価なものなのかもしれないが、女王討伐に役立ったというのならばレイダーズフロントが補償してくれる。
(まあいいか)
今は変なことに不満を覚えている暇はない。
爆薬によって女王の頭部付近の鱗が剥がれ落ちている。今ならばあの硬い防御を気にせず負傷を与えることができる。
弾倉一つをこのために残しておいたと言っても過言ではない。
すぐにN-41ガルディンを握り絞め、肉が丸見えになった部位に弾丸を叩き込む。
同時に、他のレイダーも同じことを考えていたのか、皆が弾丸を撃ち込む。
一発一発では女王に大した負傷を与えることはできない。しかし複数のレイダーが一か所に撃ち込めば話は変わる。女王を殺さなければ今の状況がひっくり返らないと皆が気が付いているからこそ、優先的に始末しようと動く。
弾丸が女王の体にめり込めば回復は難しくなる。
肉を抉れば、体液を散らせば、組織を破壊すれば、女王の動きは鈍る。
地上や壁を這ってドロクマが来ているが、優先的に女王を狙う。
「――ッチ」
弾倉が一つしかなかったマキアはすぐに弾を撃ち切った。N-41ガルディンから手を離し、代わりに持った解体斧でドロクマを殺しながら女王を殺す手はずを考える。
だが解答に行き着くよりも早く、女王が叫び声をあげ――逃げ出した。
「あの野郎!」
状況が不利になれば生物として逃げるのは当然のこと。本能に従って女王は叫び声を出しながら逃げ出す。
《《ただ》》逃げ出すのならば、逆に状況がよくなるだけだった。
しかし逃げた先が最悪だ。
前の女王が逃げる際に作った道――つまりは討伐部隊が行った道へと向かっている。
もしこのまま取り逃がせば討伐部隊に甚大な被害を与えかねない。
たとえ前の女王を殺していたとしても、討伐部隊は疲弊している。とてももう一体の女王を相手にすることはできない。
だが討伐部隊が生き残ることを賭けて、マキア達はこのまま女王を見逃す方が楽だ。
所詮は討伐部隊も他人。
わざわざ命を投げ捨てでも助ける義理はない。
「いや……」
逡巡すらなくマキアが解体斧をもって走り出す。
女王を討伐するのは見知った仲のミケが危険に晒されるから――という理由もある。
地上に出るという夢を同じくした仲間であり、ミケはアカデミーの試験がすぐそこまで迫ってきている。それを考慮すればとても見捨てる選択はできない。だが、あくまでもそれは『ついで』の理由だ。
(俺が狩る)
マキアが大規模攻略作戦を受けたのは力をつけるため。ひいては地上へと出るため。
自分が楽だからと女王を逃すのは気に入らない。
理由はそれだけだ。
解体斧を握り絞めるのに大層な理由はいらない。
「邪魔!」
叫びながら立ちふさがるドロクマを切り伏せる。
すでに、最初に感じていたドロクマに対しての恐怖心はない。たとえ大型であったとしても解体斧であれば一発脳天を割るだけで殺せる。少し移動速度が速くなって大きくなっただけで、他のドロクマと変わらない。
卵から孵化したばかりの個体であれば踏みつけるだけで十分だ。
拳を振る必要も斧を振り下ろす必要もない。
女王を守るためドロクマはマキアへと襲い掛かるが、もともと移動速度自体は早くない生物だ。マキアが全力疾走で、それもドロクマが立ちふさがったとしてもすぐ切り伏せるため後ろから追いかける個体は届かない。
加えて数人のレイダーがマキアの援護射撃をしている。
「このままッ――」
勢いに乗ったマキアは女王の側にまでたどり着くとそのまま体に飛び乗った。
鱗があるおかげで足場やつかみどころがある。
全長は七メートルはあろうかという、バスと同程度かそれ以上の大きさがある女王の体を駆け上がった。女王はすぐにマキアの存在に気が付き振り落とそうと体を揺らすが、斧を体表に突き刺し固定する。
鱗に足をかけ一気に頭部まで飛び乗ったマキアはそのまま解体斧を振り下ろす。
女王は体が大きいため、皮膚の下にある脂肪層を越え、頭蓋骨を破壊しなければ脳にまでたどり着かない。
「まだまだまだ!」
であれば、何度でも斧を振り下ろせばいいだけ。
女王が体を揺らそうとも関係ない。
斧が作った切り傷の中に体を入れ固定し、そしてまた振り下ろす。
皮膚と肉を抉り、頭蓋骨をたたき割り最後――見えた脳に向けて何十回と振り下ろす。
女王はより一層暴れるがマキアに対する有効的な策を弄せずただ破壊されていく。
段々と動きが鈍くなっていく女王。
叫び声が弱まっていく。
さらに斧を振り下ろす速度と回数が増えていく。
「……はあ……はあ」
マキアが気が付いた時には完全に女王は動かなくなっていた。
抉れた肉の中、血だまりに浸りながらマキアはやっとそこで冷静さを取り戻す。
(……危なすぎるだろ)
単独行動で女王に一人挑む――あまりにも危険だ。もし女王が酸性の液体を飛ばしていたら、体液が有毒であれば、何らかの予想外のことが起きていれば、マキアがどうなっていたかは分からない。
今回は偶々《たまたま》成功したが次はどうなるか分からない。
気分が高揚して本来ならばしないような危険な選択を取ってしまっていた。
「……まあいいか」
危ないことをしてしまったのは事実。
反省しなければならないのもまた事実。
だが今は残ったドロクマを殲滅する仕事が残っている。
「まだ……」
血の海から出て、女王の頭の上から巣全体を見渡す。
レイダーがドロクマと戦っていた。だが前よりもいくらか楽そうに見える。
「……もうひと頑張り」
呟くと、解体斧をもって女王の頭部から飛び降りた。




