第14話 常駐依頼
レイダーズフロントはどのレイダーでも受けることができる依頼——常駐依頼を設定している。
依頼の内容は主に、マガツモノが作る細長い道の探索と敵性生態の駆除だ。
狭く逃げづらいながらも、敵は基本的に目の前からしかやってこない上に、弱いマガツモノばかりだ。射撃技術におぼつかず、ロクな装備も整えられていない駆け出しレイダーは無理に前哨基地跡の探索をするのではなく、そちらの方がいい。
「ここか」
ミケからそう説明されたマキアは次の日、常駐依頼を受けていた。
レイダーズフロントのサイトにて常駐依頼の受付を行った後、通路番号が指示される。
非保護区域に網目状に広がるマガツモノが作った細い通路。その探索が常駐依頼の内容だ。通路番号はレイダーズフロントが管理している通路ごとに存在する。
(231号路……)
マキアが案内されたのは231号路。通路ごとに番号が振り分けられるため、つまり通路は231個以上あるということ。
すでに探索済みとなった通路や封鎖した通路など考慮すれば少なくなるだろうが、あくまでもこれはレイダーズフロントが管理できているものであるため、実際にはもう何百個ほどある。
231号路は分厚い扉の向こうにある。
扉横の認証機にレイダー証をかざすことで、事前に常駐依頼を申し込んでいれば入ることができる。
扉が開いた先に広がるのは明かり一つない、何も舗装されていない洞窟のような通路だ。
マキアの仕事はこの通路を進んで最深部を確認すること。最深部までたどり着けば常駐依頼はその時点で終了し、基本報酬と倒したマガツモノの数によって加算で報酬が支払われる。
もし通路が長ければ報酬は跳ね上がり、生息するマガツモノの危険度が高ければさらに上がる。
当然、通路は未探索領域なので明かり一つない。
扉の先は自らの手のひらすら見えないほどの暗闇に包まれる。
ただ通路は一本道がほとんどということもあり、マガツモノにバレることを前提にしている。出てくるマガツモノが弱い種類か、強い種類か、それすらも分からない。戦うことは分かっているのでライトや暗視ゴーグルを使用して進んでいくことになる。
(行くか)
マキアの装備はN-41ガルディンと運搬用ロボット、そして弾倉がなど詰め込まれたバックパックだ。
暗い通路を暗視ゴーグルを起動して歩く。
密閉された空間ということもあり、足音がよく響く。
同時に、少し進んでいると通路の奥の方から物音が聞こえるようになる。
通路自体が頑丈なつくりではないため、軋む音の可能性もある。今のところはどちらか分からない。
しかし通路を進めば進むほど音は大きくなり、それが生き物が発するものだと分かった。
同時に、声の主も足音や細かな息遣いなどからマキアのことに気が付く。
N-41ガルディンを構えた瞬間、通路の奥からマガツモノが現れる。全身が甲羅に覆われた芋虫のような見た目で、頭の先から尻尾の先まで甲羅で覆われている。小型犬と同等か少し大きい程度の体躯をしており、体をくねくねとさせながら素早く距離を詰める。
常駐依頼で細い通路を進む際、多く接敵するのがこのマガツモノだ。
名を『ドロクマ』。
地中に広がる細い通路の元凶だ。
(何体いるんだ――?!)
ドロクマは基本群れで行動する。
N-41ガルディンを構えた先には数十体にも及ぶドロクマの姿があった。
弾切れの心配をしつつマキアが引き金を引く。
ドロクマは全身が鱗に覆われているが、それはあくまでも地中を掘り進めるために進化したに過ぎない。
銃弾を、それも対マガツモノ用に開発されたN-41ガルディンの弾丸を弾くほど堅牢な鎧というわけではなかった。引き金を押し込むとともに撃ち出された弾丸は一発でドロクマの鱗を破壊し、白い体液をまき散らしながら吹き飛ばす。
ドロクマが一本道の真正面から来てくれているおかげで頭を狙いやすいうえに対処もしやすい。
もし全方位から来られていたら命を失うことも覚悟していた。
(こんなもんか)
『駆け出しは常駐依頼を受けろ』というミケの言葉を思い出しながら、弾倉内の弾丸をすべて使ってドロクマを殲滅した。
最初に前哨基地跡でグロウラーと戦ったおかげか、ドロクマとの戦闘は案外あっけなかった。周囲を警戒する必要はなく、的確に胸部を撃ち抜く必要もない。ただ無鉄砲に襲い掛かってくる敵に弾丸を撃ち込んでいたら終わった。
(ミケさん、ありがとうございます)
確かに、駆け出しは常駐依頼の方がいい。
教えてくれたミケという亜人のレイダーに感謝を述べながら、マキアは運搬用ロボットを展開する。
もう銃弾でこの先にいるマガツモノにはバレているため、隠密に徹したところで意味がない。さっさと運搬用ロボットにドロクマの死体を乗せて、そして乗り切らなくなったら帰ればいい。
細い通路内にいるマガツモノはそれだけ体の大きさが制限されるため、基本的に弱い部類が多い。小型の中でも特に小さい種類を相手することになる。少々物足りないと感じるが、死にかけるよりはマシ。
マキアの仕事は苛烈な戦いの果てに大金を稼ぐことではなく、着実に稼ぐこと。
少なくとも、メーテラから受けた恩を返し終わるまでは無茶なことはできない。
当面は加工設備を買うために稼ぐだけだ。
(またか)
地下通路を住処にしているマガツモノは大抵同じだ。
マキアがある程度進んだところでドロクマの大群が奥から押し寄せる。
慌てることなくN-41ガルディンを構えると、正確に狙いを定め引き金を絞った。
◆
「終わりか」
それから一日かけて231号路を進んだマキアは、行き止まりにたどり着いていた。
本来ならば通路を作った以上、どこかに入口や出口があるはずだが、マガツモノが作った通路というのは大抵、出口がなく終着点には土の壁があるだけだ。特にドロクマは入口を塞ぐ習性があるのか、掘り進んできた道を埋め立て、さらに進み、また埋め立てるといった生態が報告されている。
そういった情報を加味した上で行き止まりを見ると、暗視ゴーグル越しに確認出来る限りで、他の場所と違って土と土の間に隙間があるようだった。本来ならばこの先にも通路は続いていたはず。しかしドロクマは埋め立ててしまったのだろう。
マキアとしては好都合だ。
通路の終着点までたどり着けば追加で報酬が貰える。
道中でマガツモノを駆逐していれば、231号路はただの通路となり爆破して埋め立ててしまっても何ら支障がない。レイダーズフロントは231号路の管理費を浮かせることができる。
そういうわけもあって追加で報酬が支払われることになっていた。
加えてドロクマの売却益もあるため、報酬はそれなりにある。
ただドロクマは数が多く、レイダーならば基本装備さえあれば倒せるマガツモノということもあって素材は格安で買い取られる。おそらく、グロウラーの半分以下だ。それでも常駐依頼の報酬が支払われている点で、昨日までとはいかなくとも、稼ぎには期待できる。
「帰りますか……」
地下は常に暗闇ということもあって時間間隔が狂う。
保護区域内はエリアによって時間ごとに昼夜が入れ替わるように照明のオンオフが切り替わるので朝と夜を意識しやすいが、通路の暗闇で一日を過ごしている今が何時なのか、朝なのか夜なのかが分からなくなる。
疲れも溜まってきているところだ。
「新しく命令しないとな」
後ろで待機していた運搬用ロボットに近づいて帰路につくよう命令を書き換える。
すでに荷台にはドロクマの死体が積み重なっていた。今からこれだけの死体を解体して、売却する。
常駐依頼で討伐したマガツモノは基本的にすべてレイダーズフロントで売却することを義務づけられている。義務付けられていなくともレイダーズフロントで売却するレイダーがほとんどだろうが、レイダーズフロント側としては基本報酬を支払ってやっているのだから、安く素材を買いたたかせろという立場なのだろう。
運搬用ロボットは指示を書き換えた後、出口の方に向かって進んでいく。
マキアもその後ろをついて行こうとした時、背後の壁から異音が響いた。
振り向くとドロクマの特徴的なドリルのような口が壁を突き破って出てきていた。




