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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)


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第11話 面倒なしがらみ

(まあ、こんなもんでいいか)


 運搬用ロボットを展開したマキアが、グロウラーの死体を乗せ終わった。血の匂いを嗅いで他のマガツモノが来る危険性を考慮して、多少汚くなってしまったが、取り敢えず運べる状態にすることを優先した。

 運搬用ロボットは何十本とある蜘蛛のような細い脚を動かして器用に瓦礫の山を登りながら、マキアの後をついて行く。


 マキアは運搬用ロボットの様子を横目で見ながら、周りの様子も確認する。幸いにも音や匂いでつられたマガツモノに襲われることはなく、前哨基地跡を取り囲む壁の残骸まで戻って来れた。


 まだここも完全に安全というわけではないが、それでもいくらか安心できる。

 車両がある場所まではさらに二分ほど歩けば辿り着く距離だ。

 運搬用ロボットのことを気にしながら、十分に周り警戒する。

 車両は前哨基地跡から保護区域へと向かう道の脇に停めてあり、角度的にもう見えるところまで来た。


(……なんだあいつら)


 小型トラックの周りに二人の人影があった。二人とも銃器を持っているところを見るにレイダーだろう。

 車両には認証番号があり、保護区域と非保護区域の境にある扉で確認するため、基本的に誰かに盗まれる心配はない。ただ荷台に乗せている物品については別で、盗まれたとしても認証番号などは無いので犯人を特定しなければまず返ってこない。

 ただマキアは荷台に乗せている物はほぼなく、何かを盗まれることはない。

 

(……何をしに……)


 車両を盗むことができないからこそ、二人組のレイダーが近くで待機している意味が分からない。

 二人のうち一人は通信端末片手に誰かに電話をかけている。

 もう一人は窓越しに車内を覗き込んでいた。

 怪しい……が、しばらく見ていても彼らが退く気配はない。

 いつまでも前哨基地跡を背に向けたまま、運搬用ロボットに死体を乗せたまま、この場所で待機しているわけにもいかない。N-41カルディンの引き金にいつでも指をかけれるよう準備しながら、物陰から姿を現す。

 

 彼らはすぐにマキアの姿を見つけると、運搬用ロボットに乗せられたマガツモノの死体を見てから声をかけてきた。


「ここは()|()|()の縄張りだ。死体(それ)を置いてすぐ立ち去れ」


 三番街という言葉を聞いてすぐに察した。

 地下都市で広範囲に影響力のあるレイダーハブ――『三番街』。彼らの権力は保護区域だけでなく非保護区域においても絶大。前哨基地跡の一つを縄張りにしていもおかしくはなかった。

 やけに照明や道路の類が整備されていると思っていたが、三番街が整えたらしい。


「すいません、知りませんでした」


 三番街と敵対するとなると今後面倒になる。

 マキアはまず謝ってから彼らの意見の一部が飲めないことを伝えた。


「マガツモノの死体はおれの物です。置いていくことはできません」

「あ?」


 一瞬で空気感が変わる。

 脳内に最悪の光景が流れた。

 瞬間、奥の方から声が聞こえる。


「おい、その辺にしとけよ。駆け出し相手にみっともない」


 マキアを含め三人が一斉に声のする方向に目を向けると、全身が黒い体毛で覆われた人間がいた。

 年齢はおそらくマキアの少し年上だろう。


(亜人……)


 動画で見ただけで直接見たのはこれが初めて。

 強化人種(デザイナーズベイビー)のなれの果てか遺伝子異常か、彼らのように全身が体毛に覆われることや、鱗に覆われること、頭部が異形に変形することなど、通常の人間とは違う性質を見に宿して生まれてくることがある。

 一重に彼らは『亜人』と呼ばれていた。

 

 急に声をかけられたこと、その正体が亜人であったことなど、様々な想定外が三人を襲う。 

 しかし亜人は気にせずに喋る。


「女によってたかって、三番街の奴らは変わんねぇな」


 女?……とマキアが一瞬だけ首を傾げようになるが、すぐに受け入れる。

 中性的な容姿をしているため、そう少なくない数で女性と見間違えられてきた。事実、マキアには性別がないので、半分あっていて、半分間違っているのだから仕方ない。


「そもそもここはレイダーズフロントの管轄下だ。お前らが勝手にしていい場所じゃねえだろ」


 亜人は男達が反論を述べる隙を与えずに至極当然のことを述べる。

 三番街はあくまでもレイダーハブに過ぎない。レイダーを統括し、マガツモノを討伐する権利を与え、前哨基地跡での活動を支援しているレイダーズフロントに逆らうことはできない。

 当然、この非保護区域はレイダーズフロントの管轄下であり、勝手に縄張りを作り他のレイダーの活動を邪魔することは許されていない。


 だが、それで彼らが引き下がるほど弱気というわけではなかった。


「お前、ミケだろ」


 男の一人が亜人——ミケの名を呼ぶ。

 ミケは亜人という珍しい特性を持っていることもあり、レイダーの中ではそれなりに有名な人物だった。加えてレイダーとしての実力も高く、三番街としてもわざわざ敵対する必要のない相手だ。

 

「アカデミーの試験を受けるらしいな。それまで何もないといいけど」


 ミケは一切動じることなく跳ねのける。


「だったらボス(ジャン)に言っとけ、いつでも相手するってな」

「……ったく」


 男はミケから視線を逸らしマキアを見る。


「たまたまこいつが来たからよかったが、次見かけたら分かってんだろうな」

「……まあ」


 おそらく『はい』と言った方がいいのだろうが、正直なところ素直に承諾したくない。

 ただそれではミケにしてもらった恩を無碍にすることになる。

 この二つの感情がせめぎ合ってマキアは曖昧な返答をした。

 男達は軽く舌打ちをすると去っていく。

 取り合えず脅威が去ったことに安堵しつつ、マキアはミケの方を見た。


「ありがとうございました」


 ミケが来なければどうなっていたか分からない。助けてもらった恩は大きい。


「次からは気を付けた方がいい。三番街(あいつら)に逆らうのは得策じゃない」


 一つ忠告しながらミケはマキアの背後にある運搬用ロボットを見た。


(駆け出しでグロウラーを討伐したのか)


 持っている武器はN-41カルディンであること鑑みると、討伐できても何ら不思議ではない。

 改造が加えられたN-41カルディンと運搬用ロボット、防護服や弾代、それから車両など装備にかなりの金をかけている。通常、これらの装備を駆け出しのレイダーが揃えることは不可能に近い。

 そのため、一瞬はマキアが熟練したレイダーかとも思ったが、三番街の縄張りで狩りをしていることや佇まい、雰囲気が駆け出しのレイダーであることを如実に表している。

 実力と装備の乖離。

 どこかのレイダーハブに所属しているのか? と疑問に思いながらもミケは問いかけなかった。


 代わりにマキアが口を開く。


「あの……死体を片付けてもいいですか」

「あ、すまない。時間を使わせた」

「いえいえ」


 ミケに確認を取るとマキアは運搬用ロボットに合図を出して車両の荷台付近に停止させる。

 そして運搬用ロボットを操作し、死体を載せた天板ごとゆっくりと引き上げて、マガツモノの死体を上方へと持ち上げた。荷台に乗せやすくしてから、マキアは死体を少しずつ動かしていく。

 その際、マキアはミケに幾つか問いかけた。


「あの、なんでミケさんはここに?」


 この前哨基地跡に来るためには分かれ道のない一本通路を通ってこなければならない。

 ミケが来たのは偶然ではなく、確かな意思の元の行動だった。

 口振りから察するに、ミケはここが三番街の縄張りだと分かっていた。男達の反応をみるにミケは腕利きのレイダーのようだが、地下都市で三番街と敵対するのは得策ではないだろう。

 面倒なことになると分かっていてわざわざここを探索したわけではないことは事実だ。

 何かしらの理由があったと考えて然るべき。


 もしかしたら、『三番街が口出しできないほどに実力がある』という単純に『カッコいい』理由もありえるが、そうではないだろう。


「たいしたことじゃない」

 

 ミケはそう前置きを置いてから続ける。


「この先……未探索領域の調査をレイダーズフロントから依頼されただけだ」


 地中に広がるマガツモノが作りだした道は今も増え続けている。その度にレイダーズフロントは爆破して封鎖したり、逆に道を進んでマガツモノを駆逐したりしている。

 ミケは今回、その一環として前哨基地跡の奥にある未探索領域の調査を依頼されていた。


情報端末(これ)の音響探知機能や熱源探知機能を用いて、前哨基地跡のマップを作製するのが主な依頼内容だ」

「えぇ……今からあの奥入るんですか……」


 マキアは前哨基地跡を取り囲む壁から少し進んだところでもう腹いっぱいだ。

 ミケはさらにそこから暗闇に包まれている前哨基地跡の深部へと行くのだ。

 マキアには想像もできない領域。

 

「すごいですね……」


 グロウラーと戦った後でレイダーの辛さの一端を知ったマキアは、素直に感嘆の言葉を漏らした。


 女性に褒められたことはあるものの、邪推の混じっていない単純な賞賛を浴びたミケは、少しだけ小恥ずかしそうにしながら取り繕うように口を開いた。


「駆け出しハンターなんだろ」

「昨日なりました」

「だったら……そうだな、こういう場所は辞めた方がいい」


 強いマガツモノがいる可能性があるし、今回のように誰かの縄張りになっている可能性がある。

 駆け出しの内は無理なことはせず身の丈にあったことをした方がいい。


「常駐依頼を受けた方がいい。それならまだマシだ。レイダーズフロントが直接管轄してる分な」


 レイダーズフロントはどのレイダーでも受けることができる依頼——常駐依頼を設定している。

 依頼の内容は主に、マガツモノが作る細長い道の探索と敵性生態の駆除だ。

 狭く逃げづらいながらも、敵は基本的に目の前からしかやってこない上に、弱いマガツモノばかりだ。射撃技術におぼつかず、ロクな装備も整えられていない駆け出しレイダーは無理に前哨基地跡の探索をするのではなく、そちらの方がいい。

 ミケは一通り説明すると返事を問うかのようにマキアを見た。


「結局、常駐依頼を受けてても運が悪ければ死ぬ。好きな方を選んだ方が後悔がない」

「分かりました。考えておきます」


 マキアの返答に満足気にミケが頷くと振り向いた。


「じゃあ俺はもう行く。幸運を祈る」

「あ、こちらも幸運を祈ります。頑張ってください」


 慣れないながらも言葉を返してミケを見送る。

 その頃にはマガツモノの死体を荷台に移し終えていた。


「……よし」


 色々とあったが無事に生きて帰ってこれた。

 反省は数え切れないほどあるが、まずは帰還しよう。

 運搬用ロボットを格納して荷台に乗せるとマキアは車両に乗り込んで保護区域に向けて走らせた。

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