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遠距離狙撃

私の名前は工藤優菜。

降下探偵社所属、調査員、探偵だ。


探偵という仕事を続けていると、妙な技能が身につく。


誰かの視線。


尾行の気配。


監視カメラの位置。


「見られている」という感覚。


探偵同士なら尚更だ。


視線には視線で気付く。


気配には気配で気付く。


同業者なら案外分かる。


だが――


超望遠カメラによる遠距離監視だけは別だ。


あれは卑怯だ。


二百メートル先。


三百メートル先。


建物の隙間。


道路の向こう。


そんな距離から撮られたら分かる訳がない。


ズル過ぎる。









現在。


先輩に首を絞められている。


この先輩は柔術経験者らしく事あるごとに首を絞めてくる。


首に食い込む腕と喉の間に手を差し込み、呼吸の隙間を確保。手慣れたものだ、


ついでに膝を抱え、腹を守る姿勢も取っている。


この事務所では首を絞められている最中に土手っ腹を蹴られる可能性も考慮しなければならない。


悲しい話だ。


「工藤ォォォォ!」


「はぁいっ!」首を絞められながら返事をする。


「なんで帰ったの?」


「対象に動きが無かったので」


「十九時まで調査よ?」


「十八時半過ぎの時点で会社に戻ってました」


「だから?」


「対象に動き無しと認め勝手ながら撤退判断を゛オ゛ッ゛」


少し締まった。


息が苦しい。


「工藤なぁ」


「はい」


「依頼は何だった?」


「十九時退社まで調査」


「で?」


「十八時半時点で動き無し」


「で?」


「帰りました」


「うん」


締まった。


理不尽だ。


立場を利用して首を絞められる程の罪では無い。


机の向こうで、別の先輩が笑っていた。

闇金ウシジマ君の亜種みたいな風体だ。


「ほれ」


机に写真がばら撒かれる。


パチンコ屋に入る工藤優菜。

パチンコ屋から出る工藤優菜。

あんぱんを齧る工藤優菜。

牛乳を飲む工藤優菜。

ベンチに座る工藤優菜。

目を閉じる工藤優菜。

頭を下げる工藤優菜。


「依頼外の盗撮は免許有りでも違法ですよね」


「試し撃ち」


「人権は」


「工藤だから」


、、まぁそうか。


工藤優菜にプライバシーは無いわな。


私は写真を見た。


「これ寝てないです」


「そうか?」


「おそらく瞬きであるかと。」


「瞬きが五枚取れてるけど」「偶然です」


「首下がってない?」「凝りをほぐしてました」


柔術先輩がため息を吐いた。


「工藤なぁ」


「はい」


「なんで張り込み中にあんぱんと牛乳なの?」


「そう言うものだと。」


「昭和の刑事ドラマか?」


「伝統です」


「お前探偵だろ」


だからなんだってんだよ。


今度は闇金先輩が、


「寝たな?」「寝てません」


「本当に?」「断固として」


「寝たなぁ」


私は黙った。

寝てねぇつってんだろ。


「あと工藤」


「はい」


「最近入ってきた新人より、お前の勤務態度の方が心配なんだけど」


それだけは否定できなかった。


だから私は抵抗をやめた。


探偵という仕事は証拠が全てだ。


そして今。


超望遠レンズの試射で集められた私の証拠だけが、完璧に揃っていた。


柔術先輩は首締めを止めた。


お互い立ち上がる。


「まぁいいや。お前、新人の面倒見ろ」

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