第99話
黒騎士はこちらの歩く速度を気にしつつ通路を進んでいる。
私たちはタブレットに表示されているルートを確認しながら歩を進めているのでその速度は遅い。
「そこ右。そのまま行くと十字路。んで、左に行って。そこにどうやら小休止できそうな広場があるからそこで一旦止まりましょ。」
私はそう黒騎士へと指示を出す。道中で出て来た魔物は黒騎士が全て一瞬で屠る。こちらの被害ゼロ。疲労ゼロ。順調過ぎる道行だ。と言うか、黒騎士が強過ぎて白目になりそうで。
調査隊との合流はこのまま行けば一時間後と言った具合にまで来ていた。
とは言え、それはもしも調査隊が当初の予定としていた合流地点に留まっていたら、で。
「本当にこの地図で合ってる?変動が落ち着いて無くてまたルートが変わったり場所が動いたりとかしてんじゃない?このタブレットって自動で情報更新されてる訳じゃ無いじゃない?ここに入ってる情報って最新とは言え無いし。リアルタイムで調査隊の動きがこっちで分かる様な発信機とか何で仕込んでおいてくれて無いの?それくらいの事はしておいてくれても良かったと思う訳よ私は。」
私は思わず愚痴を溢してしまった。協会長はどうしてこうも杜撰な物を渡して来たんだと。
(分からないでも無いけども、ソレでも文句は言いたいわけ。黒騎士を狙ってる奴等に下手に情報を抜かれ無い様にって事なんでしょうけどさぁ)
結局の所は全てダンジョン変動が悪い、と纏めておく。私の心の平穏の為に。
責任の所在を何処か分かり易い所に置きたくなるのは人のサガだ。私は凡人だ。そこから逃れられないのだ。
今の私には、ヒジリもエミコもマリエも何を考えているのかもう分からない。
そんな事を心の中で溜息と共に吐き出していれば目的地。そこは。
「で、到着したこの広場は、何?どう見たって怪しさ百二十点満点なんだが?あーもう何なんだよ!休ませろよ!普通に!こう言うの求めてねーんだよ!」
休憩場所として丁度良さげな広さとしてタブレットには出ていたのに。
だがいざその部屋に入ってみれば、その広さがおかしい。目の前のそれは完全に十倍以上で。
私はその事に喚いたけれども。
「ダンジョン変動の影響でしょうね。それにしても、カラフルね。赤、白、黄色、緑、青、紫、黒の七色?この床を踏んだら何か起きると言ってるのと同じよね。」
エミコは普段と変わらぬ声音でそんな感想を口にする。これも変動に因るモノなのだろうと冷静に判断していて。
床はソレぞれの色で一メートルの正方形で分かれていて、並ぶソレに規則性などはパッと見では無さそうで。
「ランダムに発動する罠っぽい?違う?どの色がどれに対応してるとかあるっぽいよねー。取り合えず様子見?」
ヒジリは何か妙な事でも感知したのかその口調が若干硬く真面目な響きに変わっていて。
「・・・ねえ、入り口塞がれたんだが?音も無く。これ、完全にトラップ部屋じゃん。先に進むしか出口は無いっぽい?はぁ~、メンド。」
マリエは怠そうにしながら興味など無いとばかりに床に座り込んでしまって。
(閉じ込め?・・・一番奥の通路まで行くのにこんな密度の罠床を踏んで行けって?冗談じゃないわ。ドンダケ距離あるって言うのよ。嫌になるわね。辿り着くまでに何十枚?それに、もしもコレの中に転移罠とかし込まれてたら最悪全員がバラバラにランダムでダンジョンの中に飛ばされるんじゃないの?マジでやめろそう言うの。面白くも何とも無いんだよ)
私は心の中だけでマジキレしておく。言葉で吐き出してもこんな状況じゃ虚しいだけだと思ったから。
そこでふと私の視界に黒騎士が動いたのが入って来る。それに私は咄嗟に叫んだ。
「おおぅい!?勝手に何しようとしてんのよアンタ!何する気!?」
どうにも黒騎士はその罠を発動させようと剣でその色の付いた床の一つを突いた。
その色は「赤」だった。次の瞬間には炎の柱が五秒ほど立ち上り。
「・・・は?」
その熱量はかなりの高温。五秒もその炎に吞み込まれていたら全身が火傷を負うだけでは収まらず服が燃えるだろう。
「・・・ドン引きを通り越して呆れる。殺意が高過ぎるだろ。」
炎柱が消えた後の床は何故か白に変わっていた。どうやらそう言ったギミックらしく時間経過しても元の赤には戻らなかった。
そこで再びまた黒騎士が動き出して剣でその白の床を突けば。
「・・・何も起こらない?白い床は安全って事?いや、違う。何かある。」
私は疑った。こう言ったギミック罠の部屋と言うのは協会にも以前に報告が幾つか上がっていて一時話題になったのを覚えている。
「ねえ、確認なんだけど。そっちの床、確か緑だったわよね?」
確かめたい事が有って他の三人に聞いた。意見がそこで一致する。
「確かにそうだったねー。でも、アンちゃんが白い床を突っついた時に青に変わったよ?」
「そうね。確かに言う通りね。どうやら白の床は踏めば何処かの色がランダムで変るのかしら?いえ、もしくは規則性が有るのかもしれないわ。」
「あ、黒騎士の突いた床、白から黒に変わってるー。その黒は罠を発動させたらどうなるんじゃろー?」
頭の痛くなりそうな事態に私は指で目頭を揉みつつ溜息しか吐けなかった。




