第97話
協会の事務は問い合わせの電話対応に追われていた。
それは自国内だけでは無く、海外からのモノも含む。
この状況はダンジョン庁の方でも同じ状況に陥っていて互いの情報交換などが出来ない程だった。
連絡を密に取り合う事も出来ない程の忙しさ。協会とダンジョン庁は協力関係を作っているというのに。
「まあコレは想定内だったのだがね。そろそろ私も動くべきか。」
ダンジョン庁長官はそんな言葉を溢しながら書類仕事を熟し続けていた。
詰み上がったその書類の整理を終えた長官は仕事を中断して立ち上がると部屋を出て行く。
「釣れた魚の量が多いな。大漁だ。先ずは雑魚から捌いて行くか。」
長官自ら動く。組織としてはあるまじき行為。だがソレをやってしまうのが彼の悪い所だった。
以前に冒険者として活動していた彼は別に全国に名を馳せた有名人、と言う事では無い。
その他大勢の中に埋もれる一人でしか無かった。
しかしソレは表の顔。だからと言って裏、犯罪をしていた者でも無い。
政府や協会から裏の仕事を受けて悪質冒険者を密かに処理、などと言った事をしていた訳でも無い。
只単純にソロでの活動でダンジョンの中に入り、極限まで自己を鍛えていたと言うだけ。
(最近は政府の中でもダンジョン庁を軽視する政治家も現れたからなぁ。金の生る木だと本気で思っている馬鹿もいる。見せしめで潰すにしても世の中をちゃんと把握できて無い奴等の所から)
以前から扱いに困っていた研究者たちの方は警察機構に任せて処理は終えてあった。
なので先ずは最近になって出来始めた反政府組織の処理。それらは大体が海外からの横槍だ。
自らが動いて勧誘した、今も部下として働いてくれている情報屋から貰った場所へと長官は向かう為に動き出す。
護衛は誰一人として連れて行かない。敵対組織への単独での潜入、及び、武力での壊滅。
長官にはそれが出来る実力があった。それはアンデッドナイト、今は黒騎士と呼ばれるイレギュラーに手傷を負わせる事ができる程。
(まあ一対一でアレに勝てる自信は無い。嘘でも有ると言える訳が無い。黒騎士は実力など今の所として三割も出してはいないだろうよ。そんなバケモノに敵対とか、笑わせるなと言いたいね)
実際に目の前にしたから言える事などもある。長官はその黒騎士を目の前にした際に「滅する」と言う選択肢を一瞬で諦めた程だ。それだけの実力差を感じていた。
長官はそんな事を思い出しながらダンジョン庁から出て行く。
ソレを誰に咎められる事も無い。誰も長官のその行動を視界に入れていても認識できていないから。
存在感を薄める、そんな人外染みた特技を長官は持っていた。
それはダンジョンで己を鍛え上げて得た能力。自分に付いている護衛ですら相当な実力を持っている者たちなのだが、そんな者たちですら長官が本気になればその姿を見失う。
なのでその護衛たちはもう諦めの境地に入っていた。
【長官がいきなり消える。何時もの事だ。向こうは我々の仕事内容になど一切気にも留めない】
彼ら護衛の仕事と言うと、ここ最近は落ち着いてきてはいたが、それはもっぱら突然に消える長官の捜索であった。
護衛の仕事と言えば、対象の命を守る事。だがその仕事をさせてくれない長官。
護衛からは最初の内は長官へと不満と文句をぶつけ、説教までしていたが、ソレが二十、三十と繰り返されてしまえば何も言え無くなった。
『君たちが私を見失わ無い程の実力者になれば良いのではないか?私へ訴えを起こすのは筋違いじゃ無いか?鍛え方が足りない証拠だよ。私に同行するのが君らの仕事だろう?私は好きな時に好きな場所に行くよ。』
付いて来れない方が悪い、そう言われたら何も言い返せ無くなってしまうのが護衛と言う立場。
そして長官は護衛たちの気苦労やその責務に対して何らの気遣いも無い。
護るべき対象が自分たちよりも強く、護衛の必要が無いという事実はショックが大きいものだ。
それは彼ら護衛と言う仕事をしている者たちの矜持を傷付けた。
しかしソレでも職務を全うしようとした真面目な者もいたのだが、その内にそんな彼らも諦めた。
「・・・あ?ちょ!?また長官殿が居ないんだけど!あーもう!・・・応答せよ、応答せよ、また長官が出て行ったよ!誰か何か少しでも良いから情報持ってる奴いないか!」
「は?またぁ?もうどうしようも無いのが辛い・・・あーあー、こちら第二班、周りには、うーん、誰も聞いてる奴も居なけりゃ予想できそうな情報持ってる奴も居ないね。また捜索かぁ。」
「こちら第三班。長官の執務室の机の上に伝言メモ在り。読み上げます・・・片っ端から倉庫の整理して来る、だそうです。」
「あの人またヤル気だよ・・・ここ最近はずっと無かったのに・・・」
「無理もないんじゃないか?だって今、こんな状況だろ?多分長官、以前からこれ計画してたヤツだぞ?」
「・・・じゃあ無理だ。もう今更に追い駆けても止めらんねーじゃん。俺たちはまたその後始末に奔走ってか?はぁ~・・・情報班に即座に連絡。お仕事だって言ってやってくれ。」
「はい、了解。直ぐに伝えます。何かわかれば細かく連絡を入れるのでよろしくお願いしますね。」
護衛たちの心労は計り知れない。こうして長官捜索が始まるのだった。




