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第95話

「その出て来たソレも何なのよ?絶対に関わっちゃいけないヤツよね?もう好い加減にして欲しいんだよこっちはぁ・・・」


 私は弱音も不満も不安も苛立たしさも、その他諸々を吐き出す。


 黒騎士は私たちの言葉を理解できているが、全く喋れない。


 ここで文字を書いてコミュニケーションを取ろうとしていれば何と言って来るだろうか?


 慰めの言葉の一つも口にするか、突き放す様な事を言って来るか。


(妙に律儀な所を持ってるのよね、コイツ。そうじゃ無ければ今こんな状況になってないのよ、マジで)


 ここでやっぱり一番の呑気者がいつもの金の話をして来る。


「にゃー?これ、見た事も聞いた事も無い色形してんじゃけどもー。幾らで売れそ?もしかすると研究対象として無償で引き渡せとかクソな研究者たちが言ってくるんじゃね?それだけは絶対に無理ぷ。」


「ねぇ?私の嘆きと叫び、聞いてた?聞こえてた?あんたっていつもそう!ホントにもう!もう!あーもう!」


 私は遠慮無くマリエの態度にキレた。長年付き合って来た間柄だが、もう我慢は無し。


 だけどもそんなの気にせずにヒジリは黒騎士にべったりでソレにもキレた。


「ヒジリ!アンタもあんただよ!そいつはアンデッド!そんな密着してて何か異常とか害とかあるかもしれないでしょうが!離れろ!好い加減にしろ!」


「うーん?イチカってば別に大丈夫だよー。心配性だなー。つうか、本気でキレてるの久しぶりだよねー。前の時は何年前だっけ?忘れちゃった。そんな事よりもアンちゃんカッコ良かったよ!マジで私の騎士様バンザイ!」


 黒騎士はお前のじゃねーよ、とツッコミたかったけれどもそのエネルギーが私の中に残っていなかった。


(もう、良いや・・・って言っておいてこの先もまだまだ何回もキレる自信あるわ・・・)


 何を言っても無駄。どれだけ私が危機を訴えても無駄。そう思ったらドッと体の中から力が抜けた。


 そこにマリエを注意する真剣なエミコの声が。


「その魔石、何か嫌な感じがするからマリエ、触ら無い方が良いわ。」


 この言葉にピクッと、魔石を掴みかけていた手が止まるマリエ。


 私もエミコのその「感じ」の事が気になって問う。


「イヤな感じって、何よ。もう何を言ってこようがもうキレ散らかさないわよ。もう好い加減疲れて来たからね。」


 そう言ってエミコに次の言葉を促せば。


「多分ソレ、触ると・・・何て言えば良いかしら?寿命?元気?生命力?吸い取られるんじゃないかしら?そんな感じを受けるの。」


「何でそんなの分かるんだよ・・・」


 マリエもその言葉にドン引きしたのか一気に赤黒く光る魔石から距離を取った。


 エミコの言葉に嘘も冗談も籠もっていない。


 そして私たちは長く一緒にやって来ていた事で経験している。エミコのこう言った時の言葉には従った方が良いと。


 これに流石のヒジリもその魔石から距離を置こうとして一時的に黒騎士から離れた。


 だってそのブツが黒騎士の直ぐ近くの足元にあったのだから。


(イレギュラー魔物で、倒したら出て来るのが凶悪な魔石?どうなってんのよ・・・泣きたい気持ちもこんなの無理やり引っ込むわ!)


 心の中だけで私は盛大なツッコミを入れた。声に出すのが億劫だったから。


 ここで沈黙が訪れた。こんな魔石をどう処理すれば良いのか?と言った問題で。


 ここに放って置くのも問題になりそうだし、持って歩く事も危険そうだと思って。


 だけどもソレを黒騎士が軽い感じで解決してしまったのを見て唖然とさせられた。私だけじゃ無い。全員が、だ。


「おいおい、そりゃそうか。アンデッドだもんな。最初っから生命力とか寿命とか、無いわな。」


 私は思わすそんな言葉を口に出す。黒騎士がひょいとその魔石を拾いあげて掌の中で転がしているからだ。


 そして何を思ったかソレをぽーん、と黒騎士が空中に放ったかと思えば一閃。


 宙に放られたその魔石が上下に真っ二つ。半分に別たれた。


 一瞬の出来事過ぎて私たちは身動ぎ一つも出来なかった。それだけその動きは瞬間的だった。


 だけどもここで真っ先に声を上げたのは金カネ主義のマリエで。


「あぁッ!?何て事すんの黒騎士!?って嘘でしょ!消えちゃう!?魔石って消えんの!?」


 そう、斬られた魔石が床に落ちると同時に弾けて消えた。真っ二つのソレが床に付いた途端に「パーン」と粉々になってから空気中に融ける様にして跡形も無く。


「うえぇ?ふへぇ?売ったらどれだけになったか分からんけども、絶対に高いハズだっただろうに・・・およよ、せめて査定に出したかったじょ・・・」


 この現象にマリエが意気消沈しながらそう口にしているが、私は正直に言ってコレで良かったと思っている。心底にそう思っている。


 だから言った。遠慮無く。


「あんなモノをもしも買い取りに出してたらもっと、もおーっと、問題になってたわよ。得体が知れ無さ過ぎて後で大問題に発展でもしてたでしょうよ。それこそ人類の危機とか呼び起こしそうな禍々しさだだったじゃん・・・で、今の映像、エミコ、撮影してた?」


「ええ、バッチリ。取り合えず証拠映像として提出予定ね。危険と判断してその場判断で処分をした、っていうのは理由としても別段、通ると思うわ。マリエ、協会に提出するこの映像の情報代で今の所は納得しておいた方が良いわ。多分だけど今の魔石、それだけ危険な代物だったと思うわよ?」


 エミコのこの言葉で一応は気分を戻したマリエが「はぁ~、世の中は世知辛いぜ」と俯かせていた顔を上げていたのを見て私は「お前は何様だ」と心の中だけで突っ込みを入れておいた。

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