第94話
そいつは何も装備していない最初に出て来た人形と同じ見た目であるが、その大きさが違う。
そして黒球体が胸部に埋め込まれた状態だ。どうやらコレが最後の足掻きらしい。
手足として操っていた人形を全て私に倒された事で打ち止めとなり、その本体が出ざるをえないと。
しかし私は別にその巨大さに脅威を感じない。威圧感を受けないのだ。
「あれだけブッタ斬ったのに魔石全然でねーじゃん!コイツしけてるなー。黒騎士がんば!そいつやっつければ流石に魔石出るっしょ!」
マリエはどうやら魔石が全く稼げなかった事に不満らしい。
だけどもソレに怒っている様な、呆れた様な声が私の耳に届く。イチカだ。
「あんた、そこじゃ無いでしょうが、気にするべき所は。あんな魔物、見た事も聞いた事も無い。注目する所はそこでしょうに。何でこんな場面で魔石の事が気にできるんだよ・・・徹底し過ぎでしょ・・・」
どうやらこの相手はこれまでに彼女らが知る情報の中に無い敵らしい。
「最初のパペットが倒された時に魔石を落とさなかったのは異常だと思って、その時から録画はし始めていたわ。この映像を協会に提出すればかなりの高額が支払われると思うわよマリエ。それにこの巨大人形を倒せばそれなりの大きさの魔石が出るんじゃないかしら?」
呑気にそんな事を言っているエミコはその手に「すまふぉ」を構えていて、こちらに向けていたのが視界の隅に入った。
どうやら研究資料として協会にその「映像」とやらを買い取りして貰うらしい。
「おおー、特撮作品で戦隊ものとかじゃ最後に敵の怪人やら怪物が巨大化するのってお約束だよねー。まあ、あんなのアンちゃんなら楽勝らくしょー!やっちゃえー!」
ヒジリが何を言っているのか私には分からないが、どうやら応援をしてくれているらしいと言うのは伝わった。何時もの感じだ。
(さて、どう動いて来る?そんな巨体で鈍間ならば、コケ脅し以下だ)
私の集中力は落ちてはいない。目の前の敵の動きの一挙手一投足を捉えている。
そして巨大人形の腕が振りかぶられた。縦に。
その巨大な腕とその質量を使っての振り下ろしでコチラを潰してくる心算の様だった。
(・・・遅過ぎる。だが、威力は充分か)
それは振り下ろされた。しかし私には当たらない。床に叩き付けられたその人形の腕はこちらの足へとかなりの振動を伝えて来る。
その振り下ろしてくる腕の速度が残念だった。脅威と呼べる程の速度だったら私も敵認識できたのだが。
あくびをしながらでも避けられる程に遅かった。
これでは只の動く障害物と変わらない、私はそんな事を思いさっさと片づけてしまおうと決める。
しかしここで諦める気は無い人形の方はその後に腕を振り払って私を吹っ飛ばそうとしてくる。
(斬り飛ばす労力と避ける労力と、どっちもどっちと言う感じで悩む所だな。そう言う意味ではこちらに迷いと言う隙を与えて来ると言う意味で優秀・・・と言えなくも無い?まあ、直撃する事など有り得ないと言わざるを得ないが)
このままこの人形と戦闘を続けていたとしても得られるモノは無いだろう。
この時点で私は止めを入れる為に気合を入れた。
私は振るわれた腕を掻い潜って人形のその胸に埋まっている黒球体へと突きを入れる。その一撃は黒球体に深々と刺さる。
刺すだけで終わらずに捻ってより傷を広げる小手先技を使って直ぐに剣を抜き残心。
これに人形はその巨体を光と変えて徐々に消えて行った。
消えた後に残されたのは人の頭部大の赤黒い輝きを放つ、どうにも魔石らしき物。それが床に転がる。
部屋の中はこれ以上敵が出てこない様子で、静寂が訪れた。
そこで私は残心を解いて周囲を見渡す。安全が訪れたのかどうかを自身の視界で確認する。
敵はもう出てこないのだと認識した所で私はこの部屋への入り口付近に退避していた四人を手招いた。
(どうやらここにはもうあの人形は出てこない様だな。ふむ、さっさと先に進むべきか?それともここでまた休息を入れるのか)
私に疲れは無い。四人娘もここまでは歩いて来ているだけで戦闘などは無かったので疲労などは皆無だろう。
コチラに近づいて来る四人の顔にも別に疲れの色は見えていないのでこのまま出発するかと思ったのだが。
「あーあー、エミコ、協会長に今の魔物の件の報告して。こんなの異常が過ぎる。これ以上進んで良い訳が無いわ。地竜の幼生体の時といい、今さっきのといい、こんなのやってられないでしょうよ・・・もう私たちの対応できる許容範囲なんてもうとっくの前の前に超えてるっての!いくら黒騎士の戦力を当てにするって言っても限度があるでしょうが!命が幾つあっても足りない!こんなイレギュラー重なってりゃその内に私ら、いつかふとした拍子に事故って死ぬでしょうが!危な過ぎてもう嫌!」
イチカがそう叫ぶ。それは静かなこの部屋に大いに響いた。




