第93話
人形を屠り続ける私はふと気づいた。足元が綺麗なままだ。
どうにもこの部屋の罠はまだまだ終わりが見えて来ないが、このまま何処まで行こうとも私には別にどうと言う脅威でも無い。
全滅させるたびに人形の武装が増えて強化される仕組みらしいが、気になるのはそこでは無かった。
(魔石、ソレが無い。斬って捨てれば光の粒と変わり消えて行くが、その後には何も残らないな)
以前にはゴブリン掃除をした際には床が小さい魔石だらけだった。
このダンジョンでは出て来た敵を倒せば魔石に変わるのだと思っていたのだが。
(何かしら見落としがある?それとも、コレが例外?まあ最後の最後まで足掻いてみるか)
私が出来る事は高が知れている。出て来たそれを殲滅するのみ。
人形の今の姿は駆け出しの新人装備と言った感じだ。全身が革鎧で占められている。
増えて行った武装はと言えば、最初はナイフ、次に小盾、その後は順番に足甲、脛当て、腰鎧、手甲、胸部鎧、肩当、兜と細かく増えていた。
(芸が細かいと言えば良いのか?鎧の質もそこそこと言った感じだな。とは言え、始末すればソレらも一緒に消えてなくなってしまうのだが)
不思議なモノで人形を真っ二つにすればそれらも一緒に消える。
(いや、別にコレは不思議でも何でも無いのか。いきなり現れたのだから、消える時は何も残さずに消えるのが道理か)
この人形は何も無いのに現れたのだ。ならば消える時も同じ。
何かが残るのではないのか?と思ってしまうのはこちらの勝手な思い込みだ。
そんな思考を出来る程度には余裕があった。この人形共はどれだけの数出て来た所で私の敵にはなり得なかったから。
動きが統率されていない。そもそもにそんな事よりもその動作そのものが遅過ぎた。
そんな相手に攻め込まれて傷を負えと言われる方が難しい程だ。
そうして人形を倒し続ければここでソレに変化が出た。
(ほほう、お次はショートソードになったか。では、次は何だ?)
人形を倒す事が作業になり始めたのだが、ここで武器がナイフからショートソードに変わった事で私は少し面白く感じて来た。
こうなるとコレを倒した次に出て来る人形は持つ盾の大きさが変わるのでは?と。
その予想の通りにその装備は変わった。盾は上半身をある程度隠せる程度の大きさに。
最初の小盾は腕が覆える程度だった。こうなると次は足甲が変わるのかと思い、変わらず一回転。
魔力刃を伸ばした剣を振るって人形を一体残らず始末する。
動きの鈍過ぎる人形たちに私の攻撃が避けれるはずも無く全滅。
(おお、革製から鉄製に変わったな。では最終的には全身を鉄鎧で固めた人形になるのか。では、それ以上になると、どうなる?)
どうやら細かく順番にその装備の質が上がって行く仕掛けの様だった。
ならば何処まで追求できるのかと少し夢中になって次々に出て来る人形を潰し続け。
(最終的には鎧がミスリルか、アダマンタイトなどになるのかと思えば、そうはならないのか。がっかりだ)
最後は全身が鉄鎧で覆われた重装歩兵と言った形に収まった人形だった。その手にはロングソード、大盾で。
これに私は少々の残念さを滲ませてそれらも一蹴する。
(私の魔力刃はその程度では防げんよ。さて、まだ出す気か?)
変わらず私の回転斬りはその人形共を上下に別つ。
さて、戦闘している最中にこの人形を出現させていると思わしき元凶は見つけていた。
ソレを壊していれば恐らくは直ぐに人形を停止させる事も可能だったのだと思われる。
しかし何処までが限界なのかを見極めたくなった私はこうして最後まで付き合ってみたのだが。
(ふむ、もう打ち止めか。ならば、終わりだ)
部屋の奥に見える空中に浮かぶ人の頭大の黒い球体、ソレが人形を出していた本体なのだろう。
どうやら行きつく所まで行ってしまったらしい。とうとう人形が出て来なくなってしまった。
遊びは終わりだなと止めを刺そうと思った私がその黒球体へと一歩踏み込んでみると。
(まだ何かあるのか?赤く光り始めたか。禍々しいな。さて、スライムが出るか、龍がでるか)
どうやら最後の切り札が出るらしい雰囲気に私はその様子を見守った。
「何してんのよ!さっさとソレを壊すべきでしょうが!絶対に危険!黒騎士!何で動かないのよ!」
イチカの叱責が私に飛んで来る。別に私はコレを気にしない。
(確かにこう言うモノはさっさと片づけるに限るのだろうがな。ここまでやって置いて最後の最後を見届けないのは面白く無い)
私が今、まだ団長としての立場に居たのなら、イチカの言葉通りに黒球体に何もさせない為に破壊に動いていただろう。
だが今はもうそうでは無いのだ。少しくらい自我を出しても良いだろう。
(私の手に負えない程のバケモノがもし出て来たとしても、その際には四人が逃げきれるだけの時間くらいは稼ぐさ。その責任は持つ)
そうして待つ事、少し。そこには私の背丈を軽く超える巨大人形が現れた。




