第90話
敵の全貌が明らかになっていない。どうやら複数あるらしいと言うのは察している。
(さて、このままで本当に良いかどうかを考えるべきだな。迎撃と言う点で言えば確かにここは悪くは無いが、何時までもとはいかない。補給が無限に出来る訳では無いからな。閉じ込められてしまう可能性も無くはない)
その場しのぎとも言える今の状況は時間が経てば経つ程にこちらの首を絞めて来る。
私だけがここに滞在し続けるなら何らの物資も必要は無いのだが。四人娘が居る事でそれは不可能だ。
(買い込んだ食料などの量を敵に調べられたりしているだろう。そうなればここに籠城し続けられる日数なども割り出される事になる。そこから攻め込まれると言った所もあるだろうな)
兵糧攻め、その点が今考えられる最も最悪な展開だ。
道を封鎖して脱出を困難にさせる、などと言った手を持って来られると厄介になる。
(とは言え、そんな真似をされても無理やりに押し通るがな。その際には、私の繰り出す攻撃で死人が出る確率が高い。それは避けたいのだが。仕方が無いのだろうなその時は)
なるべくなら殺しは無しにしておきたい。印象が悪くなるのが目に見えて分かっているから。
私の評判が落ちないに越した事は無い。今でも最低線スレスレだと言った自覚がある。
コレが限界点を下回れば、私の消滅を願う者たちが後を絶たなくなるだろう。
味方はなるべくなら増やしていきたい。ソレが私の率直な気持ちだった。
(協会長や長官が敵に回ると言った事にならぬ様に立ち回りを気を付けたいのだが。そうなると不殺を続けなくてはならなくなる。そんな事はいずれ限界が来る。ソレもかなり早い段階で、だな)
限界を見誤って後悔する様な時が訪れる、そんなの私は真っ平御免だった。
斬っても良い悪党、私の中にあるそんな基準を改めて少しづつ見直しながら剣を振り鍛錬は続けた。
その後は特にこちらに接近して来る者たちと言うのは無く、特に何も無い時間が過ぎて就寝と言う事になった。
「アンちゃん一緒に寝よ!」
「好い加減にしてヒジリ。はぁ~、今更だけど、見張り頼んだわね黒騎士。さてと、あーもう、疲れた・・・」
イチカがヒジリの言葉を諫める。これに「えー」と不満を漏らしつつヒジリは素直に横になる。
マリエは既に眠りに入っていて「ほげぇ~・・・」と珍妙な寝息を立てていた。
エミコはまだ寝る気は無かったのか「たぶれっと」を弄って何かしら作業の継続をしている。
これにイチカが一応と言った感じで「アンタも早く寝なよ」と声を掛けていた。
(明日もまだ様子見と言った形でここから動かぬ方が良いか。次に来る者たちが何者かで判断を出すのが良いだろうな)
睡眠を取らずに徹夜で警戒と言うのは私にしか出来ない事だ。
アンデッドの身であれば睡眠は不要。彼女らの健康の為にも私がここで寝ずの番である。
因みにこの部屋の角に衝立を置き、そこに簡易の組み立て型の厠が設置されている。
排泄もまた重要な生理現象だ。私には排泄と言うモノも必要無い。
(睡眠、食事、排泄が無い、それを便利と言ってしまうのは良く無いな。だが今の状況、環境では無くてはならない。彼女らを守るにしても、それは命だけ、と言うだけでは足りないからな)
流石に眠るのに邪魔になってはなるまいと鍛錬の為の素振りは止める。
警戒を怠らず、しかし緊張し過ぎない様にと私は意識を制御して見張りを続けた。
作業をしていたエミコも気付けば寝入っていて静かな時間は過ぎて行き。
何時の間にかなりの時間が過ぎていたのだろう。「たぶれっと」から甲高い音が鳴り始めてエミコが起き上がる。
「ふぅ~、おはよう黒騎士。どう?不審者は近づいて来た?その様子だと何事も無かったみたいね。」
寝袋から這い出てエミコはマリエを起こす。そのマリエは寝ぼけ眼で起き上がると。
「おはにょう・・・朝飯何食う?私、カップメンのビッグが良いにゃあ・・・お湯沸かし頼むナリナリ・・・ねむ。」
相変わらずの食い気。そしてマリエは再び寝袋に潜り込んでしまった。
しかしソレを怒らずにエミコは何も言わずに簡易の火起こし器だろう道具を出し鍋の準備を素早くしている。
エミコが水を鍋に入れて火に掛け沸かす準備をしている所に、そこへイチカが起き上がって声を掛けた。
「・・・おはよう。ねえ、今日はどう動くのか、エミコは何か考えてたんでしょ?」
どうやらエミコが「たぶれっと」を弄っていたのは今後の計画を考えていたかららしく。
「協会長と連絡を取ったわ。それで、調査隊と合流して欲しいとの事よ。どうやら黒騎士を狙ってる奴らは二つだけじゃ無いみたい。これから三つ四つと敵が増えて行く見込みらしいわ。長官とも連絡が付いていないらしくて今後の雲行きも怪しいみたい。さしずめ今の私たちは、川に流される木の葉って所。どこに行き着くか分かったモノじゃ無いわね。」
私たちの現状は全く以って解決の目途が立たない、エミコはそう嬉しそうに口にする。
コレにイチカが手で顔を覆って。
「何でアンタそんなに楽しそうなのよ・・・頭のイカレ具合どうなってんのよ・・・」
と絶望していた。




