第88話
問題は去っていった。コレに私は小さい溜息を吐く。しかし、これにて一件落着、とはならない。
今回の事に関してのアレコレが解決するまで籠城すると言う後ろ向き作戦は継続中だ。
これは「時間が解決」と言った事を必ず保証される作戦では無い。
時間稼ぎと言うのはコチラの出せる初手として無難と言うだけ。そしてこの四人娘と私だけでは根本的な問題解決にまでは持って行けないと言う事実から取った作戦である。
最終的にこの件は協会長と長官に片付けて貰いたい所で。
ソレが実現でき無さそうだと判断したら、私がその時には堂々と表舞台に立たなければならない事となるだろう予想をしている。
(そうはなって欲しくは無いモノなのだが。さて、この後はどう動くか)
そこで空間魔法の中に残っている鉄礫を今後にどの様に活用しようかと私はそちらに少しだけ思考を割く。
(残りは幾つだったか?使うにしてもこの程度の物が通じるのは先程と同じく人か、ゴブリン程度だろうな。獣人モドキに対してなら、狭い通路に飽和攻撃として全弾一斉発射と言った所か。素早い相手を狙って一発ずつ当てるのは中々に難しかろうな)
敵の種類によっては使えるだろうが、頼り切る事は出来ない代物。数の制限もある。
後の使い道としては精々が初見の敵に様子見の為に牽制としてくらいか。
こうして私たちがここに居座る事で今後どの様に敵が動いて来るかは分からないが、敵が襲来してきたら単純に迎撃をすれば良い状況だ。この場所に通じている道は二つだけ。対処に悩む事は無い。
だが近づいて来た者たちが敵か味方かの見極めは必要なのでソコだけ気を付ければ良いだろう。
そうしてまた私たちは警戒に戻る。とは言え、気を張っているのは私とイチカである。
他三人は何時もの調子で会話している。
「魔物ってさー?どうやって発生してんだろねー?もしかして此処にずっと居たらまた地竜の幼生体が出て来るのかなぁ?そうなるとアンちゃんは何処から来たんだろ?でも、そんなのどうだって良い!私とアンちゃんが出会ったのは運命だもの!」
「その発生の瞬間を映像で撮影できたら世界的大発見ね。国か、或いは世界的研究機関から褒賞でも出るでしょうね。でも、同じ事を考えた研究者が居て、ずっとカメラを回してダンジョン内を撮ったってのがあったはずよ。でも何も出て来ないのが一週間も続いて断念したって結果だったはずだわ。」
「そもそも?ダンジョンって、なーに?って話じゃね?確か何十年か前に初めて発見されて、そこから何やかやあって今に至るみたいな?根本的に解かってねーって事だったはず?はず?うん、まっ!どうでもいっか!」
マリエのどうでも良い発言に思わずと言った感じでイチカが口を開いて言う。
「何も解かる気が無いじゃないマリエ・・・まあアンタはそうよね。はぁ~、私が読んだ事のある一説には、ダンジョンは私たちとは次元が違う「生物」なんじゃ無いか、みたいな事を書いてた記事があったわ。」
イチカは警戒を解かずにそのまま話を継続した。ソレを要約すると。
・ダンジョンはどうやら異次元を自在に操る、人間には根本的に理解不能な「生物」
・星に寄生して気の遠くなる時間を掛けて「そのもの」となるべく同化をするのが目的
・そんな存在の中に人が入れるのは、ダンジョンが同化を早める為に「餌」を求めているから。食事みたいなもの
・ダンジョンの中に入った存在を狩るのは魔物であり、それを人が倒した際に出る「魔石」を外に持ち出させる事も一つの「同化」までの手段
・魔石は外に出されるとその内部エネルギーが空気中に漏れ出て行き、長い時間を掛けて星全体にそのエネルギーを充満させる
・外も中もそうして充分に準備ができて初めてダンジョンが星に「同化」が出来る様になる
・「同化」が為された場合に何が起きるのかは全く分からない。どれだけの年月が「同化」に必要なのかも不明
などと言った内容である。
(この説を裏付ける資料も情報も何も無いので否定も肯定も出来ないが、まあ分からんでも無い。この説を理解は出来る。突拍子も無い、とも言えぬしな)
自分のこれまでの事をしみじみと噛み締める。ソレを思えばどんな荒唐無稽な話でも信じられそうなのだ。
ダンジョンが生物で星に寄生、などと言った妄想話としか思えないモノでも、私からすれば「あり得るのかもしれないな」と、受け入れるのに障害は無い。
これまでの私の身に起きた事も全て、言ってみれば「あり得ない事」であり、それは実際にこうして現実として私を直撃しているのだ。
そこで私は思考を進めた。
(では、そんなダンジョンを攻略すると、さて、どの様な結末に?)
ダンジョン変動とは、もしかしたら星と同化する為にダンジョンが「成長」をしているのかもしれない。
そう思うと私の中で腑に落ちた。
じゃあダンジョンを最後の最後、奥地まで攻略すると何が待ち受けるのか?それは誰にも分からない事なのだろう。
(どうにもこちらのダンジョンは私の経験して来たモノとは根本的に違うらしいからな。さて、そんな事を考えるのは終わりにするか。私は研究者では無いからな)
こうして私は警戒をしつつまた鍛錬を再開した。




