第87話
男たちは銃を乱射する。ソレが一切の効果を出さないと分かってもいない。
「本物の銃って反動スゲーな!この手応えたまんねー!」
「うはは!めっちゃ感動何だが?オラオラ!蜂の巣だぜ!」
「ヤベエじゃん!エアガンとか目じゃ無いんだが?撃つの楽しー!」
「前金で五十万だし、成功報酬が二百万だろ?美味し過ぎ!」
「あの黒いのを捕まえて持ってくだけだろ?簡単じゃん。どうせあんな見た目してても只のコケ脅しだろ?」
「何だ?女どもが居ないじゃん。まあいてもコイツで纏めてブッコロしちゃうけどな!」
「こんだけ撃ち込めばターゲットも流石にボロボロだろ。最悪粉々じゃね?持ってけるのか?」
「さっさと終わらせて金貰って豪遊すっべ!酒、飯、女!」
「良し!コレで借金返せるじゃん!こんな短時間で大金ゲットとか真面目に働くの馬鹿らしくなるぜ!」
「欲しいバイクがあんだよな~。これが済めば即買いに行くしかない!」
トリガーハッピー、撃った銃弾が虚空に消えている事を誰も気づく事が無い。
その内にカチャリカチャリと全員の弾倉が空になってようやっと一人が異変を感じ始め。
「・・・あ?何であの黒いの、何とも無いんだ?」
コレに男たちは訝し気に目を顰めて通路の奥、この度のターゲットへと改めて意識を向けるが。
「・・・いでェ!?な、なな!何だ!」
「うぐェッ!?・・・ちょ!俺の脚!?」
「・・・うがッ!?」
「うぁ!?・・・な、何で・・・クソッ、何で!」
その瞬間から次々に男たちは怪我を負っていく。その原因に即座に気付けるはずも無く。
肩、腕、脚、足、脇腹などなど、何処か致命傷にならない部分に一人、一カ所ずつ。
十人全員が漏れ無く傷を負っても男たちはまだ「撤退」を選ぶ事をしなかった。それはパニックになってそれ所では無いから。
ここに集まった男たちは「裏サイト」での応募に乗った者たちでしかない集団。
まとめ役となるリーダーなど居らず、いわゆる「烏合」であり、この様な時に即座に現状を解決する方針を出す者など居はしない。
覚悟を決めてここまで来た者たちでも無い。
だから遅い、逃げると言う判断をするまでが。
そうしてジタバタとしている間に二度目がやって来る。
悲鳴を上げて痛みを訴える男たちはしかし、まだ決断を下さない。
「どうなってやがんだよ!簡単な仕事だったんじゃねーのかよ!こんなの聞いちゃいねーぞ!」
何処の誰とも知れぬ「依頼者」への文句を叫ぶ者が出るが、それだけ。
まだ自分たちに勝ち目がある、怪我をしていてもこちらには十人も居る。依頼の達成は可能だと、そんな思考を残す者たちはこの場に残り続け。
「うげぁ!?・・・もうやってられるかよ!」
三度目の痛い目を見てやっと逃走に入る。
脚に傷を受けた者はソレを引きずりつつ必死に逃げ。
ソレを助けて共に逃げようとする、情を持ち合わせる者など一人もおらず。
全員がバラバラになって逃げるみっともない始末と成り果てる。
男たちを襲ったのは、黒騎士が展開した「空間収納」に飲み込まれた、自分たちが撃った弾丸だと知らずに。
空間収納に入ったその弾を黒騎士がそのまま男たちに向けて放出しただけに過ぎないのだと。
その「技」は黒騎士がこの魔法を極めていると言う証拠。男たちへのその「カウンター」は、ワザと致命傷にならない部分を狙った物である。ソレを「外さ無い」のだ。
黒騎士の元の世界では同じ魔法を使える者は多いが、この様な使い方を出来た者を探すとなれば、幾ら広いマデナル王国であろうとも、ガイス、只一人。
そんな事実を当人は何も知らない。知らないで「この程度」と、自身の神業を軽視していた。
そして今回もまた、この様な真似をしておいて黒騎士は。
(あの程度の怪我で逃げ出すのか。余りにも程度が低過ぎないか?まあ、このまま近づいて来ていたら恐らくは前回と同じ展開になっていただろうから向こうは運良く命を拾ったと言えるのだろうな)
そんな事を考えている。
しかしそこへと呆れた様な、不満な様な、そんな声が掛けられた。
「もう何でもアリじゃんアンタ。何ソレ?撃たれた銃弾をカウンターで返すとか。アレか?無敵か?・・・頼りになるってのは否定しないけどさ。」
しかし即座にそこへ称賛の言葉が割り込んで来る。
「アンちゃんカッコいー!」
続いて冷静な声が流れる。
「協会長に通報しておくわね。アイツらを捕まえて貰いましょ。私たちがここに居る事を知っていて襲撃を掛けて来ていたわ。冒険者許可証を取り上げて貰って、犯罪者として逮捕、刑務所ってコースね。」
次に過激発言が。
「せっかく魔法用意していたんだけどー。アイツらも全員燃やしてイチカに斬って貰って、ゾンビにしてやれば良かったんだよー。どうせアイツらクソ共でしょ?生かしておく価値無かったじゃん?そうしたら纏めてゾンビに変えてまた魔石ゲットじゃね?良い案だろ~?世の中の害悪共が金に変わって社会に最後の貢献ってヤツでさー。」
容赦無しのこの言葉を聞いて黒騎士は内心で少しだけ引いていたのだが、ソレに誰も気付く事は無かった。




