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第86話

 基礎は怠るべきでは無い。警戒をしっぱなしの間にも出来る。


 剣を振る私の事をイチカが「何してんのよ」と呆れた目で見て来るが。


(別に可笑しな真似をしている心算は無いのだがな。この場所は警戒し易い見取りであるし、二つしか無い通路へ交互に視線を配るだけで良いのだ。素振りをしながらでもそれはできる)


 振った剣の筋をゆっくりと確認しながら、同時に私は体を左右に振って体捌きも絡めて行く。


 そうして体勢や位置や向きを変えて実践を想定した鍛錬をしつつ警戒を続けている。足捌きの方も念入りに確認する。


 四人が摂っていた食事は私には必要は無い。この身体はどうやら「吸収」をできるらしいのだが、ソレは私が必ず「ここ」に存在するのに必要な行為では無い。


 食事は娯楽と言う以外には無い、今の状態「アンデッド」の私にとっては。


 いや、そもそもに「アンデッド」と本当に言って良いのかすら怪しい物であるとの認識を今の私はしている。


 そんな事よりも今の状況で大事なのは異変を即座に察知する事。


 それは既にしている。稽古をしつつも神経を尖らせている私に隙は無い。


(・・・来た。さて、味方かな?それとも、敵か?どちらにせよ早い)


 協会長が事態を深刻に受け止めて早期の対応をと派遣された者たちが来たのかもしれない。


 それともソレに偽装した敵の間者がこちらに接近して来たのか。


 近づく者たちの気配を読みつつも視線をそちらに向ける。


 私が素振りしていたのを止めた事に一番に気付いたのはヒジリだった。


「うにゅ?アンちゃんどったの?剣振ってる姿カッコ良かったのに。・・・アレ?」


 だが接近してきている者が居る事にまでは気付いていない。


 そこにエミコが一拍遅れて近づいて来る者の足音に気付いたらしく。


「皆、警戒態勢。こっちに誰か来る。早過ぎるわ。何かしらの偶然と言う訳じゃ無いでしょうね。」


「あー、そうだにゃぁ~。だって今、ダンジョンは調査中だもんにゃぁ。こんな所に迷い無く入って来て真っすぐにこっちに来る奴等はおかしい話じゃんね?」


 マリエもどうやら異変を感じ取ったらしくそんな意見を口にしていた。


 稚拙とは言え、作戦として連絡手段を断っているのは私も知っている。


 が、協会長にはそこら辺の説明など一切していないでここにまで来た。


 捜索の為に協会長が人力での情報伝達要員を寄越したのだと判断してもおかしくは無いのだが。


 しかしその接近して来る者たちの数は「十」である。


 たかが連絡要員、それだけの人数が必要になるとは思えなかった。ここはダンジョンの深部では無いのでそこまでの人数を揃えなくとも来れる位置だ。


(もしくは追加要員の調査隊なのかもしれないが。だが、それならソレ、迷いが無さ過ぎる)


 コチラに近づいて来るその速度に違和感しか感じない。慎重さが無い。


 まるでここに私たちが、私たちしか居ない事が解かっているかの様な速度だ。


 協会長が派遣したこちらの味方、と言った事も考えられ無くも無いが、何かがおかしいとしか言え無い雰囲気を出している。


 調査員の追加ならばこちらの通路へと入って来ずに先行している隊が進んだ、安全をある程度保証されている道へと進むはずだ。


 コレを考えに入れると、この接近して来ている所属不明の者たちは明らかに私たちとの接触が目的なのだと分かる。


 こちらの位置情報が向こうはハッキリと分かっていての接近。


 そんな思考を巡らせている内にその一団が見えて来た。


(私の姿を向こうも確認したらしいな。・・・怯えも見せず、近づく速度も落とさない。しかもその顔には敵意を浮かべている。ついでに金目の物でも目の前にした賊の様な顔つきだ。解かり易くて助かるな)


 ハッキリとコレで判明した。何処の誰だか知らないが「敵」である事がここで確定する。


「えぇ・・・もしかして、もしかしなくても、コイツら、黒騎士の捕縛を狙ってた奴等と同じ?金で動いた冒険者共って事?じゃあ買取後の襲撃かけて来た奴等と違う手勢じゃね?・・・面倒クサ。」


 イチカが心底ウンザリと言った感じの声音で溜息と共に言葉を吐く。


 あの動死体になった冒険者たちと同様、同種の者たちらしい。


 だけどもその手にしている得物はあの鉄の礫を飛ばす道具と似た物で。


「あー!あいつら銃持ってるやんけ!おいおい!最低かよ!何処のどいつがそんなモノ用意したんだ!ふざけんな!それと、アンちゃんを舐めてるな?」


 ヒジリの言葉でその道具が「銃」と言う事は分かった。そしてその対処法は既に幾つも私の中に在る。脅威では無いのだが。


(あの時と似て、剣で斬り弾いても良いのだが。限定された閉じた空間だからな此処は。ソレが壁で跳ね飛んで別の方に行ってしまうのは危険だな。余りやりたくない方法だが、アレで対応した方が安全か)


 十人全員が銃とやらを持っているので「斬って、落とす」と言うのは無理になってしまう。


 数が多いとやはり捌く数にも限界と言うモノが出る。斬り落とし損ねた物が出ると余計な危険を作り出してしまう。


 なのでここは安全第一を考えて違う手札で対応する事にした。


 四人娘を敵の攻撃射線上から出る様に私は指示を指で出す。そうして私が前に出た際に相手が銃を構え始めたのでこちらは素早く「アレ」を展開する。


 その後に乾いた破裂音が連続で通路に絶え間無く響き渡った。

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