第85話
黒騎士が警戒をしてくれているおかげで気を抜いて食事をする事が出来ている。
エミコもマリエもヒジリも、そして私も。
だからこそに今後の事にも思いを馳せる。
「ねえ、どうすんのよ。私等じゃ相手にできない程デカイ組織が動いてそうでしょ?早めに手を引く準備をしておかないと、冗談無しに早晩死ぬ事になりかねないわ。そんなの御免よ?」
「えー?イチカは最悪を考え過ぎじゃない?アンちゃんが負ける所なんて想像もできないよー?」
ヒジリがそんな頭の悪い事を口にするので少々危機感を煽る事にした私は「こんなシチュエーションがあるかも」と例を出す。
「あのね、幾ら黒騎士が強くて武力じゃどうしようも無いなら、絡め手やら罠やら、それこそ私たちを人質に取って黒騎士を脅すとかあり得るかもしれないでしょ?その人質とか言うのもさ、殺されてからじゃ遅い訳。こっちはちょっと戦う手段を持ってるだけの小娘四人なのよ?相手がやった洒落にならない襲撃、思い出しなさいよ。黒騎士どうのこうの、じゃ無く、私たちの命が直接に危ないって言ってんの。わか、って無いわね、その顔だと。あーもう・・・」
そんな事を伝えてみてもヒジリの顔は「は?そんなの起こり得ないよね?」と疑問の表情。
本気でそんな状況になる事は無いと思っている顔だと言うのはこれまでの付き合いで分かる。人質などに自分たちが取られる前に黒騎士がソレを阻止するだろうと。
なので私はこの中では一番マシで、マトモなエミコに視線を送る。解かるわよね?と。
「ああ、そう言うのは有り得るわ。ヒジリ、もう少しだけ視野を広くして頂戴。これまでの全部が黒騎士頼りで、私たちは確かに無力なのよ。ソレに黒騎士一人だけで出来る事なんて余りにも小さい範囲でしかないわ。そう考えれば私たちの出来る事は協会長や長官が早くこの件を解決してくれるまでここで粘り続けるのがベターかしら?」
エミコがちゃんと現状の把握をしてくれていた事に私はホッとする。
けれどもマリエがここでまた呑気な事を言い出して私は頭が痛くなる。
「最終的に私等が敵に捕まっちゃったとしてェ?でも、黒騎士が確実に助けてくれちゃう場面しか思い浮かばんが?ソレにそこら辺の注意は協会長も長官もしてくれそうじゃん?今頃は協会長も色々な話を聞かされてドッタンバッタン動き回ってくれてるんじゃね?ま、知らんけど。」
余りにも呑気で呆れた事を言うマリエに対して私が思う事は。
(こうなれば私とエミコでバランスを取って行くしかないわね。あぁ、胃が痛くなる思いだわ)
そんな風に思って私の手が鳩尾付近に延びた所でエミコが止めの一言。
「今考えても仕方が無い事をウジウジ話していてもしょうがないわよ。イチカもそんなに不安ばっかり抱えていないで、もう少しだけ前向きな事を思い浮かべたら?具体的には、契約金を受け取ったらその使い道は、とかかしら?」
「・・・そうなったら早々に冒険者辞めて、ゆっくりノンビリ毎日を暮らして行ってやるわよ。こんな訳の分からない事で死んで堪るか。懲り懲り、御免だわ。犯罪者組織に命を狙われるなんて。魔物との戦闘で死ぬかもな、くらいの覚悟は持っていたわよ?だけど、こんなのってあんまりだわ。まあ、屑冒険者たちをあんなにした事に後悔はしていないし。あんな奴等に容赦なんてしないし、罪悪感も無いけどもさ。」
嫌味を込めてそう私は言ってやったが、ヒジリもマリエも聞いちゃいない。
エミコだけが「仕方が無いわよねぇ」などと私の言葉に納得している。
(こうなりゃ何が何でも生き残ってやるわよ。長官からもっとお金をぶんどってやらなくちゃ気が済まなくなって来たわ)
こうして食事も終わらせて一息付けた。今後はここで暫くの間は滞在する。
此処へとコチラの味方が来るも良し。敵が押し寄せて来るも良し。
どちらに転ぼうとも場が先へと進む。停滞すると言った事は無くなるだろうとの作戦。
なるべくなら時間稼ぎをして敵がこちらに攻め込んで来るのを引き延ばす事も視野に入れている。
協会長が今頃は私たちに連絡を入れ様としているだろうが、支給されたタブレットの方は着信拒否にしてある。
(盗聴機能が付いてる、とは疑いたくもないけどね。念の為よ。ソレとスマホも着拒してある。解除するのはこのクソったれ問題が解決してからだわ)
この状態では外の情報も入って来ないが、私たちの状況も敵に知られる事は無い。連絡手段を断つ事も作戦の一つ。
タブレットを起動させておくとコレに入っている位置情報ソフトが私たちが今何処に居るのかを知られる可能性はあるかもしれないが。
何処に居るのか程度の事なら私とエミコと話し合って許容範囲内と判断している。
重要なのは敵に対して疑心暗鬼を持たせて時間稼ぎをする事。
後の出来る事など、なるべく早く長官か、或いは協会長がこの問題を解決してくれる事を祈るくらいで。
マリエもヒジリもそこら辺の所の話し合いで同意は得ている。
後は持久戦と言える程の事でも無いが、いわゆる我慢比べ程度には言えるか。
ぶっちゃけこんなのは子供騙しみたいなもので、出たとこ勝負にしかならないのを作戦などとは言いたくないが、コレが私たちにできる精一杯だ。
「黒騎士、あんたを頼りにするしか無いのが、情けないやら、悔しいやら、だわ。宜しくお願いするわ。ホント、マジで。・・・っていうか、何で剣抜いて素振り何てしてんだよコイツ・・・訳分んねーよもう私は・・・」
何時の間にか静かに、稽古でもする様な当たり前で自然な雰囲気で剣を振っている黒騎士を見て、私はツッコミを入れる気力を奪われた。




