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第83話

 動死体が集まっていく。この光景を見るのは二度目だ。一度目は思い出したくもなかったが、記憶がぶり返してくる。


(地方遠征での裏の組織を幾つか潰した時に、一度遭遇した事が有るな。その時には三体が、だったが。今回はそれよりも多いか。さて、この肉の塊はどう処置するのが適正か。術者が居ない状態なのだがな。どう言った理屈なのだ?)


 大規模な犯罪者組織が雇っていた狂人研究者が行った実験を思い出す。


 死体を利用してソレを戦力にする、いわゆる死霊術だ。


(術者を潰す事が出来た時には心底ホッとしたものだ。はぁ~、思い出に振り回されている場合じゃ無い。今は目の前の事に集中せねばな。とは言え、ダンジョンの中でこの様な事が起き得るとは、厄介極まる。どう言う原理をしているんだ本当に)


 術者が居ないのに自然と死人が動死体化し、しかもその上、死肉合体する様なバケモノに変容するのだから言葉が出ないと言うモノだ。


 国で騎士団を率いていた時と全く以って常識、理が違う。この国でのダンジョンは本当に理解に苦しむ。


 さてそんな私の苦悩など無視だ。この目の前にした「肉団子」は果たしてどの様な対処をすれば片づけられるのか?ソレが今は大事なのだから。


 以前に始末したそのバケモノは私が粉微塵にして動かなくなるまで細かくしてやってようやっと処理の完了と言った具合だった。


 その後に逃げようとした術者に追い付いてそのまま首を刎ねて処分。研究資料などもその一切を残さぬ様に念入りに灰にしている。


(今回はどうなる?細かい肉片であろうが何だろうが、どうやら勝手に動いてまた寄り集まってくっ付き合う様だ。切り刻んでもどうやら元に戻れるらしいな。確実に消滅させねばならないらしい)


 恐らくこのバケモノの弱点を破壊せねば事が終わらないのではなかろうか。


 無駄に切り刻み続ければいずれ力尽きるのだと思われるのだが。それはこちらに非常に労力を強いられる物で。


 幾ら何でも無限に再生、合体できる絡繰りになっている訳では無いだろうから終わりはやって来るはずだろうが。


(そんな効率の悪い事は、私一人でだったならやっただろう。しかし今は四人娘と同行しているからな。さて、どうしたものか)


 ここでマリエが魔力を練っていたのを感じて私は即座に動いた。


 素早く踏み込んで「肉団子」の一部を大きく切り飛ばす。


 その飛んだ部位を目掛けてマリエが放ったのは。


「燃~えろよ燃えろーよ。炎よ燃えろ~、ってなもんで。」


 呑気な歌、では無く、炎の球体。ファイヤーボールだった。


 しかも見事に命中。私が斬り飛ばした肉片を跡形も無く灰と化した。


(見事だが、どうやら魔力の消費効率は悪そうだな。何十発も撃てまい)


 一息ついているマリエはどうにも込める魔力の加減を探っていたのだろう。疲れた顔に変わっていて一言。


「ねえねえアレ、さっきの肉片一つ取ってもかなり魔力高いぞー?あのマルマル太ったゾンビの全部を私の魔法で完全に燃やし切っちゃいたいのは山々なんだけどにゃあ。魔力が持たーんわいなぁ。」


 どうやら魔力抵抗を受けてしまってマリエの火の魔法では完全に消滅させられないとの告白だ。


 ここでヒジリも感想を述べる。


「えー?さっきのマリエの魔法の威力でダメってなったら、私の活躍ってば皆無が確定してるんだけどー。全然おもろく無いじゃん。どうするー?撤退?」


 ヒジリのこれは臆病な意見では無い。ちゃんと冷静に現状を把握できている。


 倒せない訳では無い。この肉団子を倒す為にはこちらが多大な労力、出費をせねばならないと言うだけだ。


 その苦労は倒す事と見合うか?それが釣り合わ無い、そう判断を出したのなら即座の撤退も視野に入れるのは当たり前だ。


 無理に倒すべき敵では無いのだ、目の前の障害は。


 しかし来て早々に帰還、戻らねばならないと言うのは格好が付かないのは事実で。


(私が出るしか無いな。できる事を全て試して行くか)


 この肉団子、どうやら計画性の欠片も無く集合しているのでその全体像が歪が過ぎる。


 なのでマトモな移動すら困難でその動く速度が緩慢なのだ。何処までも鈍間。図体がデカいだけ。


 なので撤退するにしてもやれるだけの事を全部やってからでも逃げ切れた。


(少しづつ外側から斬って行って小さくして様子見だな。もしかすると何かしらの媒体があって、この肉団子を支えているのかもしれん)


 どんな事にでも「核」になる物が存在する。私は日頃からそんな考えを持っていた。


 この肉団子にもそう言ったモノがあって、ソレがこの再生能力やら集合、融合能力の根幹になっているのではないのかと。


(そうで無ければこのまま無限に斬り刻む実験をするだけだ。撤退するにしてもその準備のための時間が稼げる事だろう)


 何処が腕で、脚で、胴で、頭で、などと言うのはもう何も分からない、只の肉の塊と化しているバケモノ。


 そのバケモノの正面に立って私は剣を振るう。何度も、何十も。


 斬り飛ばした肉片の事は気にしない。それらが集まろうとするその速度は非常に遅いから。


 集まるのを邪魔するよりも私の剣が肉を新たに削ぎ落す方が早かった。

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