第76話
黒騎士が私たちの話し合いを静かに聞いているのを見て私は思っていた。
(こいつもう言葉が解ってるのよねぇ。さっきの屑共の喋ってた事もちゃんと理解してるはず。私たちが手を下して無かったらコイツはどんな対応をしたのかしらね)
今の私たちは支部への帰路へとついている。別に遠くも無い。もう直ぐそこだ。
とは言え、黒騎士を狙う奴等がもう潜んでいない、とも限らないので警戒をかなり高めながらの帰還になっていて足取りはそこまで早い訳じゃ無い。
「で、戻ったらどうする?先ず受付に屑共の報告?それとも直接に協会長との話し合い?・・・長官を呼び出すってのも、しなきゃいけないわよね当然に。はぁー、気が重い。」
この黒騎士の件はどう考えても私たちの手に余る。盛大にはみ出し、飛び出ている。その事を思って私は溜息と共に今後の事についての不満を吐き出していた。
こんな小娘四人で一体何ができると言うのか?対応しきれるはずが無い。命を狙われるのなんて真っ平御免だ。
黒騎士の監視、そんな契約を持ち掛けて来た長官の意図が、考えがサッパリ分からない。
(きっと私たちが死ぬ事なんて別に何とも思ってい無いんでしょうね長官は。只の時間稼ぎ、応急、緊急措置って事よね?あわよくばそのまま付かせ続けて黒騎士への「抑え」に成長すれば良いとか打算も入ってそうね。・・・マジでムカつくな)
長官の手駒の冒険者を手配するまでの繋ぎと言った所なんだろう私たちなど。使い捨て、捨て駒。
ソレを考えたら頭に血が上りかけたが、そこを我慢して昇りかけた血圧を溜息を吐いて下ろす。
(協会長は多分ソレを何とかしようとした?私たちの事をちゃんと心配はしてくれてるのよね?・・・もう何を信じて良いのか分からないわ)
「イチカ、難し顔になってるわね。何を考えていたのかしら?ちゃんとそこら辺の事は共有しておきましょ?この期に及んでふざけている場合では無い事は全員解ってるから。」
エミコは真面目な顔でそう言うが。
「もうこうなったら今後アンちゃんに誰も手出しが出来ないくらいに暴れちゃえば良いんだよいっその事!研究者の馬鹿も、半グレ冒険者の屑どもも、政府も黙らせるくらい徹底的に潰しちゃえば良いんだ!やってやらぁ!」
如何にも「私、天才か!」とか言い出しそうな顔をしてそんな事を宣うヒジリに私は頭痛を催して思わず言う。
「アホか・・・そんな真似したら余計に憎悪を燃やされるだけじゃなく、他に敵対視して来る奴等が爆発的に増えるだけだろうが・・・」
黒騎士にはヒジリの言った事を実現できるだけの、それこそ、それ以上の事が出来てしまう力量があるのだ。
私の見立てで「軽く」見積もって、どう考えても、コイツが暴れればソレは最大級レベルの災害と同義になる。
ましてや制限無し、全力を出され様モノならこの国を潰す事だって可能だろう。そう思う。
「でもでも、それくらいやらねーと後を絶たないんじゃね?こんなのにしょっちゅう巻き込まれてたら遊ぶ時間が確保できねーし。折角お金持ちになれるのに、買い物にも行けなくなっちゃうのはマジ勘弁。」
マリエは呑気な事を言っている様でいて、その中身はヒジリの意見に賛成と言う過激思想だ。
しかもその理由が「遊ぶ時間欲しさ」と言う能天気、楽観ぶり。欲求丸出し。
「なあエミコ?これでふざけて無いって、言える?・・・ああ、マジになってるっていう意味では、合ってるけどさぁ。まあ、良いわ。エミコだけでも私たちの置かれてる状況をちゃんと把握してくれてるだけでもありがたいよ、私は。」
好い加減にツッコミをする立場に疲れが出て来た。
なので私が考えていた懸念を正直に説明して全員に共有する。
そんな事を話しながらも警戒は怠らずに進んで私たちは支部に戻って来た。
ここまで何事も無く来れた事に私はホッとする。他の冒険者がギョッとした目でコチラを見ているだけで誰も寄っては来てい無い。
「はぁ~、どうやらこっちには待ち伏せとかは居ない、みたいね流石に。」
私は軽く周囲を見回してそんな判断をした。それにヒジリは。
「居てもアンちゃんが速攻でぶっ飛ばしてくれるってば。イチカ心配性!」
「いや、お前は黒騎士に依存するの好い加減にヤメろ。もうちょっと真剣に自分の身の安全を考えなさいよ。」
ヒジリの黒騎士への信頼が天井知らずになっている事に私は不安しか無い。なので注意をするけれど。
コレが後で「凶」と「出ない」のが、ヒジリの意味不明な所なのを私は知っている。
(ヒジリがこういう時って絶対に後々で「吉」になるのよね。・・・オカルトって領域を超えてんのが、頼もしいを超えて怖いのよ。はぁ~。神様にでも愛されてる、ってのかしらね)
これまでにヒジリが「損」とか「不幸」に当たっている時を私は見た事が無い。
以前の私だったらそう言った場面で「ウェーい!ヒジリ超運良いじゃん!」とか言っていた。
だからこの黒騎士との事もきっと「そうなる」のだろうとは思うのだが。
「はぁ~、じゃあ、戻って来た事だし、協会長に連絡取りますかね。受付に行きましょ。」
もうどうすればこんな状況から抜け出す事が出来るのかタイミングが分からない。
私一人だけでもこの状態から脱したいのだけれども。
「ねえ昼飯何食べるー?私こってり系の豚骨ラーメンがくいてーんだが?だが?」
現状が分かっているとは思え無いマリエの何時もの調子に、私は遠い目をしながら受付へと足を向けた。




