第73話
「たぶれっと」なる魔道具を四人娘が真剣に見ているのを私は眺める。
「ねえ、やっぱりコレはおかしいと思う訳よ。エミコが感じた違和感はコッチの通路の先からって事だったわよね?そっちに向かっていたら、どうなっていたと思う?」
「そうね、多分待ち伏せからの死角からの奇襲って所なんじゃないかしら?でも、それを誰が、と迄は分からないわ。」
「それってアンちゃん狙いって事?でもそうなるとアンちゃんもあの時に気付いてたっぽいよ?エミコの見てた方をアンちゃんも見てたもん。」
「じゃあこの指示されてるルートはソレを回避するために、って事で合ってる?ドローンは持って来て無いし、っていうか、こう言うのって支給されるんじゃねー?ソレが無いって、忘れただけ?意図的に?どっち?」
イチカが話を始め、それにエミコが答える。ヒジリはどうにも刺客が私狙いであろうと推測し、マリエはどうやら指示されたルートに疑問がある様子。
「表示されてるルートにこんなモンスターハウスは出て無い。コレは私たちがここに来るまでの短い間に変動していたのか、或いは協会長が意図的に隠していたか、まあ意図的にって言うならその目的が何なのか全く分からないんだけどね。はぁ~、或いは・・・私たちを襲って来た奴等が改変、改竄して罠としたか、かな。」
イチカはこの竜モドキの居た部屋の件での予想を幾つか口にするが、私はソレに「どうでも良い事では?」と思ってしまった。
(この場で立ち止まって話す程の深刻なモノでは無い様に思うがな。通路を進みながらでも出来る相談だ。魔物は私が全て片付けたのだから先に進めば良いのだ・・・いや、そうか。もしもここで「襲撃者」が現れたら返り討ちにする気でいるのだな)
もしもこの竜モドキが「敵の罠」であったならば、恐らくは今こちらに襲撃者たちが私たちを「挟み撃ち」にする為に接近してきている事になる。
片付けたから先に進む、と言った単純な思考に私がなっていたのは只々に警戒を「ダンジョン」に向けていたからだ。
ダンジョンに入った際に感じた敵意の事はサッパリと忘れていた。先行する調査隊との合流を今は目指すのが第一の目標だと。
そうなれば魔物は片づけたのだからさっさと先に進めば良い、そう言う風な考えでいたけれども、それは私の勝手な判断に過ぎない。
今はこの娘らと共に居るのだ。独断と偏見で動けば事故が起こりかねない。
「で、罠だった場合、それって協会内部にその敵のスパイが居るって事になって。しかも、そうなれば結構な上層部、もしくは協会長に近い存在と見て間違い無い訳。協会長が私等に直接渡して来たこのタブレットを、ソレを改竄とか、改変できるヤツとしたら、かなりマズイ相手って事。」
「協会長が敵、って事は無いかしら?いえ、無いわね。これまでの行動とあの時の言葉は本物だったわ。でもイチカ、協会内部のスパイとかでは無く、研究所の奴等、って方向の可能性は大いにあると思うのだけど?」
「あの自分勝手な研究クズ野郎の集まりが敵になるって、超絶面倒くさーい!それならいっそここから出て先にそのクソ共を蹴散らしてからの方が良くない?アンちゃんならあんな奴等ワンパンっしょ!」
「ねーねー、車の時に襲撃して来た奴等と、今ダンジョン内に居る奴等って、所属が同じ?それとも、別?黒騎士を狙う奴等が一個の組織だけ、って事は無いんじゃね?」
(私と言う存在がこの国を揺るがしているのか。はぁ~、申し訳ない気分が今頃になって押し寄せて来るとは・・・)
私はこれまでの行動を少々、今更になって後悔し始めた。迂闊過ぎたと。
しかしそんな私の後悔とは関係無く「世界」と言うのは回るのだ。これはきっと「遅かれ早かれ」と言った事に収まる事象なのだろう。
それは私がこの国に突然に現れた時点でこうなる事は決まっていたと言っても過言では無い。
これはどうしようも無い事であり、不可抗力であり、私の意思はそこに存在せず、誰かしらが拒絶を示す暇があった訳でも無い。
(神の気まぐれか、そこにどんな意図があったのか無いのか、知る由も無いとはこの事だな)
神など居ない、そう言うのであれば、では私がこの国にアンデッドの身になって現れてしまったのは偶然とでも表現できるのか。
そんなものは恐らく誰もが「偶然にも程が有る」と口を揃えて言うだろう。
そしてそれは絶対に有り得ない「奇跡」とまで言い始めるはずだ。
(奇跡とは、神の為す所業であろう。有り得ない事が起きるのは、人の作り上げた営みに神の介入があるからだ。はぁ~、この国で私に何を為せと神は言うのか?そんなもの、どうせなら最初にちゃんとその使命を説明して欲しいものだ)
そんな下らない事を思っていたら敵意が近づいて来ている事に私は気付く。
「イチカ、盾を構えて。ヒジリ、黒騎士の後方に。マリエは魔法の準備。敵さんがお見えになったわ。どうやら向こうさんはもうここにドラゴンが居ないのを知らないみたいよ?こっちに迫って来る速度が遅いわ。悠長なものね。」
一瞬遅れでどうやらエミコも気づいたらしく、その敵の動向を何かしらの特技で知ったらしい。
(さて、この娘らを万が一も無い様に守らねばな。通路の方には私だけが出て、四人には部屋の角に隠れていて貰うか)
まだ敵の姿が見えてはいない。その内に私は指差して隠れる様に四人娘に指示を出した。




