第70話
大暴れをした自覚はある。その後の事を考えて少々悩んだ。
(私の事を排除すべきと言う集団が出来上がるに違いない。そうなれば彼女らに迷惑が掛かろうな。しかしソレを覚悟していて、こうして同行しているはずだ)
あれほどの派手な大立ち回りだった。ならば目撃者も居るハズ。いや、相手側が用意している、と言った事も大いに考えられた。
扇動、ソレを思うと「面倒だ」と言った感想が浮かんで来る。
(何も解かっていない民衆がその感情のままに流されて訳も分からず騒ぎ立てるのだから、コレを収拾するのは只々に労力しかかからず、何ら国に益を齎さ無いからなぁ)
四人娘も恐らくは目の敵にされる可能性が大いにある。
敵の目的は私か、あるいは協会長、だろうが。
(言葉の勉強、そこへと意識を注力するとこの頭はドンドンと理解を深めて行く。異常な速度で。長官と呼ばれていたのは国の重要な地位に立つ官僚なのだろう。ソレが直接に私に接触して来た。ソレを考えればこの襲撃はソレと無関係とは考え難い)
私はその時の事を思い出しながらダンジョンの中へと入る。
どうやら手配がされていた様で建物内には人は一切居なかった。
恐らくは無用な混乱を抑え込む為だろうと言った推測が立つ。
しかしここまでする事なのか?と言った疑問も同時に浮かんで来る。
(私が突然に暴れ出すかもしれないと言った事を想定しての事か?それならばまあ納得するが。しかしそれだけでは無いのだろうな)
推測、憶測、妄想、そう言った事までしか自分にはできない。
ソモソモにこの国の深い部分まで自分が関わって良いのかどうかも悩み所だ。
しかし私はもう襲撃を受けてしまった。無関係ではいられ無くさせられている。
恐らくはダンジョンの中でも何かと問題に直面し、ソレに関わり合いをさせられるのだろう事は容易に想像できてしまう。
「ヒジリ、警戒して。何だか様子がおかしいわ。」
エミコがダンジョンの中に入った途端に何時もとは違う真面目な空気でその様な不穏な言葉を発する。
コレには私も同意だった。私はそう言われる前に瞬時に警戒態勢に意識を切り替えていた。
マリエ、ヒジリを私は守る様に既に前に出ている。もちろん何かあればイチカの事もエミコの事も守る様な立ち位置だ。
(敵と思わしき気配は、無い。だが、この空間には敵意が満ちている。出所は・・・目の前の通路を進んだ先の十字路か。こちらへの警戒心がそこから発せられているな)
今の私は勘が冴え渡っていた。目の前の道、その奥の奥、豆粒ほどの大きさにしか確認できないその十字路にまるで悪意の塊でも有るかの様に黒い靄が見えていた。
(エミコは相当に優秀だな。騎士団に勧誘をしたいくらいだ。いや、もう私はそんな事を考える必要も無かったな)
視線の良く通る直線とは言え、遠い距離のその「違和感」を感じて警告をできる感覚をエミコは持っているのだ。コレを優秀と言わずして何と言えば良いのか。
(さて、私が先頭を行けば問題は無いか?いや、後方の守りも必要だな。私は分身など作れないしな。だがそこはイチカが受け持ってくれそうだ)
挟み撃ち、そんな事をされるとこちらの不利になる。
他に待ち伏せなどを用意されていて、ここから別の遠いバレない場所に待機されている、となれば面倒だった。
(合図を送る為の魔道具などが当然に有るだろうからなその場合は。さて、慎重に、この子らに怪我をさせ無い様に慎重に進むべきだな)
人の悪意と言うモノを相手にする時には、魔物と対峙する時より一段も二段も警戒心を上げておくべきだ。
悪辣、外道、邪道、そう言った事を極めた相手と戦う場合は本当に心の底から勘弁して欲しい。
そう言った輩はコチラが思いもしない、思いつか無い方法を使ってこちらを追い詰めて来るからだ。
「ちょっと待ちなよエミコ。先ずは協会長から言われた事を確認しましょ。タブレットに命令書が入ってる。皆で共有しないと後でゴチャゴチャ言われそうだからさ。」
イチカがここで冷静な判断を下した。その言葉に全員でその魔道具に視線を向ける。
(いやまだ私には読めぬ部分が多過ぎる。口頭で読み上げて貰わないとまだ私にはこの国の言語の読み書きが難しい)
何やら複雑な紋様の様なモノがその魔道具「たぶれっと」に映し出されているのを私は眺めるしかできない。
「ふむふむ~?調査隊が先行して奥に入ってるから、コレに入ってる地図データと経路を確認して合流?それだけ?」
マリエが「まるで意味不明、解らん」と言いたげに首を傾げている。
確かに私も疑問に思えた。たったこれだけの命令を何故ダンジョンの入り口で口頭指示するだけで良いのにこの「たぶれっと」でしたのかと。
しかし直ぐにソレも何と無く分かった。先行調査隊が進んだと見られる「経路」と、こちらが進めと指示をされている「経路」がどうやら違うのが「たぶれっと」に出て来たからだ。




