第68話
襲撃を受けている事は分かっていたが、そこに私の力で解決して良いモノかどうかを悩んでいた。
しかし必死なイチカの様子で決断。外に飛び出して相手の乗る車とやらを斬り捨てた。
命、私は騎士として守るべきものの為に動く。
(賊は金属片を高速で飛ばしてくる魔道具での襲撃。それは掌の大きさを少し超える程度。暗殺には有用な道具だな。ふむ、乗車していた者たちは多少の傷だけで済んでいるのか。悪運が強い。アレだけ派手に吹っ飛んだのだがな。そこで終わっていてくれたら楽だったのだが。そして、こちらへの攻撃をして来る根性もまだ残っていると。敵ながらあっぱれだな。だが、やらせはせんよ)
暗殺、間違いなくソレ。襲撃者たちのお揃いで着ている黒い服に私はそんな感想しかない。
飛来してくる小さい金属片は人を殺すに充分な威力を持っている事はもう理解している。
コレを周囲被害も考えずにばら撒く様にして撃って来ている輩に遠慮はいらないだろう。
(とは言え、手心は加えてやる。殺しはせん。捕縛され、お前たちの背後に居る者の事を吐いて貰う)
まあそれは私がやる事では無いのだろう。この国の警護を担当している部署がやる事。
(そこが買収されている、或いは、そもそもにそこがこいつらを仕向けて来た、などと言った最悪な未来で無ければ良いのだがな)
団長をしていた時には幾らでもそんな「悪い話」など耳に入って来ていた。
こう言った場面、状況でそんな事を思いついてしまうのは、私の性格が捻くれている、と言った事でも無い。
私からすればここは他国であり、そこで何らの警戒もしないと言うのは馬鹿げた話なのだ。
この国の政治事情を何も知らない私だが、現実にこの様な事になっている。
ならば、ここで答えを予想するのならば、以前の私が経験した事柄を材料とした予測、想像から。
そうすると自然に大まかな流れと言うのは出来上がる。
(私が罠に嵌められて黒龍と戦った時と似た様な物か。誰かしらが誰かしらを邪魔だと判断して、その排除を実行する。国が変われども何処も人の本質は変わらんか。これ程に発展した文化、技術なのにな)
協会長、もしくは自分、標的はソレ。この世から消したいのだろう。
(イチカから昨日は釘は刺されていたが、もうこうなるとそんな事もちっぽけな事になってしまうな)
自身の事を他に伝えるな、そう言われて色々と考えたモノだが。
ここまでの大事になってしまうと、もうそれ所では無い。
(ふむ、攻撃が止んだな。・・・もう良いだろう。お前たちには気絶して貰っておく事にする)
私は一気に踏み込んで三名の襲撃者の背後に瞬時に回る。そしてその首後ろに手刀を入れてやる。
(威力の調整がこの身体になってからまだ十分とは言え無いんだが。下手をすれば殺してしまう。まあ、その時は事故だったと思って諦めろ。他の命を狙う者は、自身の命が反撃によって奪われる覚悟もせねばならん。暗殺をしてこようとして来た者たちだ。言わずもがなだろう?)
以前に戦争で敵国の弓兵に狙われた事を思い出す。その中に一人、達人と呼ばれる腕前を持つ者と対峙した事が有ったが。
(その者に比べればこの者たちは弱い。遥かに。あの時は背中が冷え続けて殺される恐怖に晒され続けた)
正面から来るだけの鉄片程度、幾ら高速で放たれて来ようがそんなモノをあしらうのに労力など要らない私にとっては。
しかしあの時の弓兵は違う。一瞬で矢が私を全包囲する攻撃を仕掛けられた。その時の私は全身全霊、全力でそれらを迎撃して命を拾った。
(魔法、しかもアレは風の補助、付与だったのだろうな。相手が正面遠距離であるのに誰もいない背後からも矢が飛来して来た。その相手以外に周囲に誰もいなかった。殺気も、僅かな気配さえ感じさせずに背後を狙われた。いま改めて思い出してみても自分があの時に生き残れた事が不思議な程に恐ろしい相手だった)
その際の勝負の行方は「引き分け」と言って、いや、私の若干の負けだった。
相手は矢が尽きた事で撤退した。私は相手の矢を迎撃し続けての疲弊でソレを追う事が叶わなかったのだ。
もしも矢の補給などされて攻撃を続けられていたら、もしかすれば私はそこで討たれていたかもしれない。
ここで昔を思い出す事を中断する。意識を断たれた者たちが地面に倒れ伏しているのを見る。動かぬ事をしっかりと確認した私はこちらに寄って来た乗り物に意識を向ける。
「早く乗って!他にまだ襲撃者が残ってるかもしれない!新宿支部に急ぐから!」
イチカがそう叫ぶので私は車に乗り込む。
「アンちゃん滅茶苦茶カッコ良かった!改めてホレた!結婚して!もう離さないんだから!」
ヒジリがどうにも興奮を抑えきれないと言った感じで私に抱き着いて来るが。
「そんなふざけたプロポーズがあるかぁ!」
イチカが「ぷろぽーず」なる、まだ私には意味が分からない言葉を言う。その様子はヒジリを諫めている様だった。しかし。
「ふーん、ヒジリ、良かったね。将来安泰?本気でホレられる相手が現れて喜ばしい限りね。でも今のままだとその夢は実現できそうにないよ?」
「ハッピーエンドしか私は認めねー!ヒジリ、私は応援するからね!アタシらを襲って来た奴等には目に物見せてくれるぜぃ!」
エミコが肯定し、マリエが協力を約束している。
これに協会長は何も言わずに車を発進させていた。




