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第66話

 朝食を摂っている四名を部屋の隅に立ちながら眺める。別段、私には食事が必要では無いからだ。


 とは言え、驚くべき事実が昨日発覚した事で私には「娯楽」と言う意味で「食事」と言う目線が出来てしまった。


(目も無いのに見え、耳が無いのに聞こえ、鼻が無いのに嗅覚があり、口が無いのに味覚が、胃が無いのに食事が腑に落ちる。いや、そもそもに全身に肉体が無いのに体が動く。骨だけの身でどうして・・・考えても答えが出ない。情報や検証が足り無さ過ぎる。知恵も知識も何もかもが足りんな。これはもうどうしようもない)


 ソモソモに意識が戻った時にこの身がアンデッドに変容していた事を軽く受け入れ過ぎていた。


 私と言う意識があるのならば、それは私である、そんな風に無意識に受け止めていたのだ。


 問題はもっと深刻で、摩訶不思議だった。ここはもっと思考し、もっと検証して然るべきだったのに。


 謎、ソレを追及するべき所を私は何もかもを放棄していたに過ぎない事を思い知らされた。


(だからと言って出来る事などこの身に幾つあったのか?と言えば、それは、まあ、何とも言えんのだが)


 今更何を、と言う案件である事に変わりは無く、今でもそれはそのまま。他にどんなやり様があったのかと問われれば、それは「無い」としか言えず。


 では今、自身に起きたこの状態を解明をする気は有るか?と言えば、それも、無い。


 もう過ぎてしまった事が、元には戻ら無い事が多過ぎる。言ってしまえば結論はソコなのだ。


 そして解明と言う苦労を重ねた所で、それはきっと得る物の少ない徒労と言う結末になるのだと言う事を私の直感が告げていた。


(しかしだからと言ってこのまま状況に流され続ける事に、得る物が在るのかと問われれば、未来の事は分からんと言うしか無いのだが)


 四人が食事の終わった所に丁度、何処からともなく妙な音が部屋内に響いた。


 コレに警戒したのは私だけだった。イチカが対応に出ればそこには。


「はーい、どなたですか?・・・うぇ!?協会長!?」


 どうやら客人が訊ねて来たベルの音だったらしい。この世界の魔道具は多岐に渡り便利な物が多い事をこれまでの事で私は知って来たが。


(この部屋に在る物の全てが、魔道具である事には驚愕させられた。王の私室でもこれ程の数は無い。この世界ではコレが常識か。慣れて行かねばなぁ)


 一番驚かされたのが壁に掛けられた魔道具。平べったく、起動させればそこには正に目の前に「現実」が映し出される物で。


 どうやらコレは娯楽らしく昨晩はエミコが「コレのドラマの続き間に合って良かったわー」などと言っていた。


 ドラマと言うモノが何か?最初は何を示している事なのかと思ったのだが。


 どうやら「舞台」をコレで見る事が出来ると言う事らしい。しかも長編で続き物と言った事をその映像が「良い所」で終わった事で解かった。


(・・・私はコレに慣れて行けるのか?いや、慣れて行く必要は、無いのか・・・別にダンジョンに籠ってればいい話だからな、私が)


 一々この国の文化に染まる必要は無いと考え直す。と言うか、これ以上は私の常識を破壊してこないで欲しいと言う逃げなのだが。


 私の今の目的は「騎士」として「助けを求める者」に手を差し伸べて行く事なのだから。


 そしてついでにダンジョンの攻略をしてこの地に平和を齎す事を目指すと言うモノ。


(いや、この国ではどうやらダンジョンの管理は出来ている印象だった。勝手に私が攻略してしまってはいけないモノだと言う事を失念していたな。危ない危ない)


 簡単に攻略などと言っても、私一人でソレを達成するのならば数年は掛かる見込みだ。


 最奥に居る存在の強度によっては攻略は不可能かもしれないと言うのもあり得る。


 そもそもに管理をこの国が安定して出来ている所に余計な真似を私がしてはならない。


 私が出来る活動など、精々が人助け、その程度で収めておく所までが良いのであろう。


 勝手に私の独断でダンジョンの利潤を奪う様な事をしては絶対にならない。勘違いしてはいけないのだ。


 この国、と言うか、私と言う「アンデッド」は徹頭徹尾で異物と言う他に言い様が無い。


 世界から排除されるべき、忌むべき存在である。


「四人とも、準備はできているかしら?」


「何で直接協会長が迎えに来てるんですか・・・」


「重要案件だと思っているわ、私自身はこの件を。だから、こうして直に私が貴方たちに頼みたい事が有ってね。コレは誰にも言わないで欲しいの。そして契約書も用意できない頼みなのよ。」


「・・・受けたくないですけど。と言うか、そんな事を言われたら根本的に聞きたくもないんですけど?でも、それ、無理なんでしょうね・・・」


「諦めて頂戴。で、単刀直入に言うわね。いざとなったら、黒騎士を連れて、逃げて。」


「・・・は?それどう言う事ですか?・・・は?何を言って・・・」


 イチカが代表で協会長とどうやら話をしているのだが。


(どうやら中々に厳しい状況にあるらしいな「私」は。逃げる、か。・・・それは、できない相談だ)


 協会長、その少女が口にする言葉に私は拒否を心の中で示す。騎士として「逃げる」とか「逃亡」と言った事には拒絶を感じる。


 しかしそこは直ぐに考えを改めた。


(ああ、私に同行するこの娘らの身を案じるならば、逃亡もやむなし、そんな場面も、選択肢も出て来るか。どうしたモノか)


 人質に取られる、そんな所まで想定していた私の方にイチカがここで視線を向けて来ていたのに気づく。


(私が既に今していた会話を理解できている事を、協会長は知らぬのだな)


 どうやらこの先に幾つかの波乱が待ち受けている予感に、私は溜め息が漏れそうになった。

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