第64話
結局の所、私の事は「黒騎士」と言う名称となったらしい。まあヒジリだけは「アンちゃん」と呼んで来る。自由である。
(どうして私が彼女らと共に食事場に?アンデッドだぞ?飲食は不要なのに・・・)
ヒジリに腕を引かれて食堂と思わしき場所に連れて来られた。
四人がテーブルに着席するや否や、ここで働く従業員だろう者たちが食事を運んで来て並べて行く。私に怯えながら。
(かなり距離を取っている心算だが、一般の者にはコレが普通なのだ。ヒジリが特殊なだけだな。いやイチカ以外が普通では無いと言う感じか)
「うひょー!バイキング形式がホントは良かったけど!これも良いね!いっぱい食べるぞ!」
マリエがそんな宣言をしている。彼女の目の前には王族も驚くであろう見目の美しい食事が並んでいた。
(これまでに目にした物の全ての次元が違う。食事もそうなのか。圧倒されるな)
出て来た食事を即座にペロリと平らげて行くマリエは「おかわり!」と元気に要求している。
そこに直ぐに給仕がやって来てその皿へとモリモリに食事を盛り付けて行く。
どうやらマリエが大食漢だと言うのを察しての事の様だ。
「あんまり慌てて食べんなって。まだこの後もコース料理だから続くんだぞ?」
イチカはそんなマリエに注意をしている。どうやら私の常識とは掛け離れた食事の流儀が有るらしい。
彼女らからは離れた位置に立つ私はそんな光景をボーっと眺めている。
このアンデッドの身体は飲食不要なのだから、彼女らの側に居るのは給仕たちの邪魔にしかならないだろう。
給仕たちを怯えさせてしまうとその仕事に支障が出る。それは私の願う所では無いし、美味しく楽しく食事をしている彼女らにも失礼になるだろう。
椅子に座らずにいるのは只単に私の重量に耐えられず壊れてしまうだろうとの事でだ。
(かなりの重さだからな、この鎧は。脱ぐ訳にもいかない。・・・と言うか、脱げん)
不思議とこの鎧は骨だけのこの体と一蓮托生らしく、一度試しに籠手を外せるかと意識してみたら無理だった。
一体化、そうした表現がしっくりきた。どうやら私と言う存在は鎧も含めて、と言う事になっているらしい。
そんな事を考えていると何時の間にか側にヒジリがやって来て言ってくる。
「アンちゃんも一緒に食べよ?」
(何を言っているんだこの娘は・・・はぁ、見た目は年頃の娘と言った感じなのに、中身が子供過ぎやしないか?)
そう言って「あーん」などと言って一切れ、その食べていた料理を私の口元に寄せて来る。
余りにもその稚拙な行動に私も眩暈がし始めたが、ソレに付き合ってやる事にした。
(一緒に食べてやれない、それが判ればもうしなくなるだろう)
そう思ってその差し出された料理を私は「パクリ」と。
しかしそれで起きた結果に私も、こちらを見ていたイチカも驚愕をさせられた。
「おい!今のどう言う事よ!?」
思わずと言った感じでイチカが叫ぶのでそれにつられてエミコもこちらを見て来た。
「ナニ慌ててるの?・・・ヒジリ、何かやらかした?」
「ちょっとエミコってば何言っちゃうのよ。やらかしたとか人聞きの悪い事言わないでー。アンちゃんと一緒に食事したいと思っただけじゃん。ねー?アンちゃん。」
軽い感じでヒジリがそう言うが、起きている現象はそんな軽いモノでは無い。
(嘘だろう?味が、解るぞ?と言うか、口内に入った瞬間に料理が、溶けた?なのに料理を挟んでいた食器は何らの影響が無い、だと?)
私の口内には料理と共にソレを掴んでいた食事用の整えられた棒が入り込んでいた。
しかしそこで消えたのは料理だけ。抜き取られた棒には何らの被害、影響は無し。
そして、味を感じた。食べたと言う実感が、不気味にも私の腹に齎されている事に驚かずにいられない。
恐ろしい、怖ろしい、只そんな感情だけが私の全身に駆け巡る。
「こいつ・・・どうなってるんだよ・・・はぁぁぁ~、頭が痛い・・・」
イチカが額を手で抑えて酷く項垂れている。しかしソレを誰も慰めていない。
そんな光景に私は少しだけ冷静さを取り戻せた事で思考を再開する。
(どう言う事だ?私は、普通の「アンデッド」では無いのは何となくだが理解していたが、ここまでとは思いもしなかったぞ?)
そうなのだ。普通のアンデッドでは食事など出来るハズが無い。
口はある。しかし、口内はスッカラカン。肉が無いのだから。
舌も無い、喉も無い、食道も無い、胃も無い。何もかも「肉」が無い。骨しかない。
そんな存在が食事をできるなどと不条理極まるでは無いか。そんなのを人の脳裏で最初っから思い描ける次元に無い。
イチカの苦悩は当然で、ソレを私も同じく感じているのだ今現在。
そんな事など知ったこっちゃ無いと言わんばかりに二切れ目をこちらに差し出してくるヒジリ。
そんなヒジリは私の内心など慮らない、と言うか、理解などしていないし、できないし、する気も無いと言った様子。
それはマリエも同じ様で。
「あ、それ美味しーよネ!これまでに食べて来たお肉の中で一等賞どころかソレを超えてるんですけど!笑うっきゃない!」
そんな言葉を嬉しそうに吐き出していた。
(あぁ・・・確かに私の人生の中で食べた中でも特級だ。国王陛下でも、食べた事の無いモノであろうよ・・・)
私はそこでまた一度思考を止め、そんな色々な絶望と共に差し出された二切れ目を口内へと入れた。
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