第62話
アンデッドナイトの頭はどうやらスペックが高いらしく、私の教えた単語をスラスラと覚えている様子で。
「じゃあ、天井、うん、正解。じゃあ、床、うん、オッケー。照明、はい、それじゃあ地面は?次、空、はい、優秀優秀っと。」
私の言葉に反応してアンデッドナイトがその真っ黒な骨の指で対象を指して行く。
私はここまでにかなりの数の単語をアンデッドナイトに教えたのだが、一個も間違えないと言うのはちょっと異常とも思えたけれども。
「まあ、御都合主義って事は、良い事よね。これでやり取りが今後スムーズにいく様になったと思えば許容範囲、それ以上かな。上出来過ぎるけども、そこは目を瞑るとこね。」
頭の出来が違う、ならば同時に文字も一緒に教えれば覚えるだろう。そう思って私は宿泊する部屋からメモ紙とペンを持って来てソレを使ってこれまでアンデッドナイトに教えて来た単語を一つ一つ書いて行く。
もちろんその文字を書いたら一個づつこれまでやって来た様に発音し、対象を指差す事によってアンデッドナイトに文字と単語を紐付けして覚えさせていく。
「こうすればアンタが何かこっちに伝えたい事が有ったら文字でコミュニケーション取れるでしょ?ほら、書いてみなさいよ。」
まるで小学生の国語の授業でもしているみたいだなと思ってしまった。
こんな野外での国語の青空授業などこれまでの人生で私は一度もやった事は無いが。
部屋でやろうとすれば他の三人がワチャワチャと五月蠅いし邪魔だっただろう。
今はまだ風呂から出て来てい無いらしいので静かなモノだ。
多分今のこの私たちの光景を目にしたらヒジリが真っ先に声を出して駆け寄ってきているに違いない。
「全く、静かに勉強の時間を取れるのは今の内だけでしょうね。」
日本語と言うのは世界的に見て難しい部類に入る言語らしいと言うのは知っている。
だがそれが具体的にどれだけ難解なのか等は、まあ、分からない、実感は無い。
だけども「ひらがな」「カタカナ」「漢字」と三つも複雑に絡み合っていれば、そりゃ難しいでしょうよ、とは思う。
なので今はまだアンデッドナイトに書いて教えているのはひらがなだ。
ソレが終わればカタカナに入っても良いが、そんな時間は恐らくは今後無い。
「明日からはダンジョンに入る事になるものね。はぁ~、どうなる事やら。」
溜息しか出ない。どうしてこんな事にと改めて思う。
ダンジョン庁の長官は何をトチ狂って私たちをアンデッドナイトの監視に付けたのか。
多分コレは考えてもしょうがない事なのだと、そう頭の中を切り替えていく。
目の前の小さくて、しかし、だけれども重要な課題をクリアする為に。
「アンタが他と交流し易くなれば、私たちじゃ無くても問題無いのよ。私たちはそうなれば御役御免、ってね。」
考えているのだちゃんと。私たちじゃ無くても良い、そう言った理屈、御題、建前と言うモノを。
その土台、支えとなるのが、アンデッドナイトが言葉を理解する事。
このアンデッドナイトが直接に自身の意思を相手に伝えられる様になる。そうなればそこで問題解決。
私たちはお払い箱だ。必要が無くなる。
私個人の気持ちとして、さっさとこんな立場から離脱したいと心底思っている。
そんな思いを今ここで一人叫んでいてもその願いが叶わないからこそ、それが実現できる様に今、私にできる事をやっている。
「これが成功すれば効果絶大だものね。あんたにはしっかりと覚えて貰わなくっちゃ。」
「あー!何処に居るのかと思ったらここに居た!アンちゃん何していたのー?」
ここでヒジリに見つかってしまった。正直に言って、邪魔だった。もう少し引っ込んでいれば良かったのにと。
(前の私だったらこんな事は思わなかったのにな。ここに来て仲間との関係に罅が入り始める兆しが見えて来ちゃうとは。ホント、以前の様な、元には戻れ無いな)
アンデッドナイト問題よりも前の私のテンションは確かに、こんなチャラくてイケイケでパリピで楽観的だった。
だけども、もうソレも叶わない。根本的な「私」がこうして浮彫になってしまったから。
だけどもそんな気持ちも、浅く落ち込んだ気分も吹っ飛ぶ、と言うか、ド派手にぶち壊してくる「言葉」がヒジリの声で聞こえた。
「わたしはまでなるおうこく、こくこうきしだんだんちょう、がいす、と、いう。このくにのなはいかなるものか、おおしえねがいたい、じこしょうかいがおおいにおくれたことはもうしわけなく。」
「・・・は?え?・・・うおぉぉぉぉぉぉぉい!?ちょっと待てやあああああああ!?」
誰の目も、誰の耳も憚らず、私は大声で驚愕の叫びを上げてしまった。
アンデッドナイトが書いた文章のその内容、そして、重大な意味を直ぐに理解したく無かったが、理解してしまったから。
「早いだろ!ソレにしたって習得が!?って言うか!何今の!?どう言う事!?待て待て待て!短い!すっげー短い文章だったのにツッコミ所が多い!多過ぎる!密度が高いぃぃぃぃ!圧縮率高過ぎだろ!色んな意味でそう言う事じゃ無いんだよって言いたい!」
交流が出来る様になれば、そうは思っていたが、こんな直後とは思ってもいなかった。
そして最初のその交流がこれ程に破壊力が抜群過ぎる巨大な爆弾になってしまうとは誰も想定でき無いだろう。
「私は悪く無い!」
この異常事態に思わず私はそう叫んでしまった。
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