第61話
この国の言葉が解らないのであれば学べば良い。だが、ソレを誰に教われば良いのか?
イチカはどうやら私へと言葉を教えようとしてくれている。
(有難い。少しでも意思疎通がし易くなるのであればソレに越した事は無いからな)
そう思って私は習った言葉を口にする。
「ぐばぁ・・・がごっ・・・ヴぁ・・・べぼぁ・・・」
ついでにイチカの指差した物も同時に私は指差す。
コチラが真面目に話を聞いている、勉強をしていると言う事を示す為だコレは。
「ああ、ちゃんと分かったのねコッチが言いたい事。知能高いって感じね。本来のアンデッドって何にも考えずに突っ込んでくるからね。アンタはその点ちゃんとしてるって事か。まあ、最初から分かっちゃいた事かソレは。でも、喋れないのは難点ねー。アンタの言いたい事がハッキリと言葉でこっちに伝わらないのは惜しいっちゃ惜しいな、こうなれば。」
イチカ教師の方針はどうやら厳しいらしい。ドンドンと次々にあらゆる物を指差してその単語を口にしていく。
私は久々に頭を不休で連続回転させてソレに追い付き、追い縋る。
(昔の事を思い出すな。外交だ何だと、団長なのだから他国の言語にも精通していなくてはならん、などと訳の分からない、一見、筋の通っているみたいな言い方で貴族出身のその他の騎士たちから責められた事が有ったな)
その騎士たちが自分たちでその他国の言葉を自身で喋れない癖に、私へと一方的にそんな偉そうな事を言って来ていたのを思い出す。
ソレに私は素直に納得して勉強したものだ。当時の、当初の私は団長になったばかりの頃「そんなモノなのだな」と思って。
しかし後から考えればソレは別に必要じゃ無い事に気付く。まあ大分後々になってからだったが。そう言う所が私は鈍かった。
嫌味、嫌がらせ、貴族出身騎士たちは私の事が気に入らないからそんな真似をして来たのだとかなり後になって気づいたのだ。
そして実際に他国との外交の場面などでの警備では他国語など出番が一切無い。
当たり前だ。そこは全て外交官がやるべき仕事であって、騎士団での団長の私が出しゃばる場面など何処を探したって在りはしないのだから。
(だが役に立った場面も無い訳では無かったな。他国の騎士団との交流戦では相手が油断していたおかげでコチラが余裕を持って勝利できたしな)
相手側の騎士団は私が他国語を習得している事を知らなかったらしく交流戦での作戦を私の側に居た際に口に出していたのだ。
馬鹿馬鹿しい話だ。幾ら何でもそんな物をその他大勢の居る目の前で口に出すなどと。しかもこれから戦おうとしている相手が居る前なのに。
その時は私も流石に「虚言か?」と、嘘をワザと相手に聞かせてソレを信じた相手の隙を突くと言った作戦かと思ったのだが。
その時の相手の騎士団長がこちらを見た時に「田舎騎士が」と小声で馬鹿にしていたのを視界に入れて「ああ、本気か」と警戒心を解いた。
その後は集団での模擬戦にてその相手の騎士団に対して圧倒的な大差を付けてウチの黒鋼騎士団が勝利。
その後は相手の方の団長は「何故だ!」と、どうして負けたのか分からないと言った感じで叫んでいた。
余りにも程度の低いその姿に流石に私は「無いな」と思ったものだ。
なお私が他国語を複数勉強していてソレを理解できているとその当時に知っていたのは数少ない私の友人の数名程度だった。
この事は誰にも知らせるなとその友人たちには伝えてあった。
(優位を簡単に捨ててしまうのは勿体無い。私を侮りたい者たちにはせいぜいずっとそうして貰いたかったからな)
そんな昔の事を思い出しつつイチカの教えを頭の中に詰めて行く。
中身の無いアンデッドでも新たに得た知識を蓄積できるのか?と最初は疑問に思っていたが。
(するすると覚えられるぞ?一体どうなってしまったのやら、この私の身体は・・・)
余りにも吸収が早い。団長を務めていた頃とは全く次元が違う程の効率。
今の私は意識をキッチリと勉強する事に振り切っている。
するとどうだろうか?イチカの発する言語をドンドンとこの中身がスッカラカンの頭がソレを理解していくのだ。
自分の身に起こっている変化の、何と不気味な事か。どの様な原理が働いてこんな事になっているのか流石に背筋が薄ら寒くならざるを得ない。
そうした私の心境など御構い無しにイチカはアレもこれもと指をあらゆる物に向けては単語を口にしていく。
ソレに私は集中する。何をどう考えても、何を思い悩んでも、今の私の現状を解決する術など無い。
ならばと思ってそのまま私はイチカの授業を黙って文句一つ口にせずに受け続けた。




