第60話
廊下に立っている私だが、そこの窓から見える景色に私は驚きを隠せない。まだまだこの国の事を私は何も知らないのだと。
(巨大な池、と言うよりかはもっとしっかりと人工的な色が強い。しかもこれ程に透明に透き通っている水がこれ程の量。どうかしている)
その周囲は木々も整えられていてまるで王家が金を掛けて作り上げた避暑地に居る様だ。
しかしそこには全く違う部分、大量の水が張ってある池の様な物が視界一杯に広がっている。
私の意識からすればこれは贅沢と言う言葉すら生温い。王家も真っ青な代物だ。
格やら何もかもが十段も十五段も違うと言える。
美しく緑に光る芝生も整えられていて、どう見ても、私の常識からかけ離れている。
此処までするのか?と。金は幾ら掛かっているのか?と。施工期間はどれ程で、どうしてこれ程に澄んだ水を維持しているのか?と。工事に掛かった人員の人数とその技術は?とか。
(ああ、うむ、何だ、そうか、コレが俗に言う「別世界」と言われるモノなのか。何か重たい物が腑にズシンと落ちたな)
納得した、と言った軽い言葉では済まされ無い何かが私の中を落ちる。
そんなタイミングで私の横にイチカが並んで来た。そして言葉を掛けて来るのだけれども。
「何?プール見て驚いてるの?・・・あー、マジで根本から「信じられない」って空気感出してるなぁ。本気でアンタ、どんな感性?田舎から来たって言ってもこの程度の広さのプールが高級ホテルにあるってくらいは・・・あー、そう言ったレベルじゃ無いみたいね。もう何かアンタ見てると「世界が違う」って雰囲気だなぁ。何か納得した。」
何故か向こうもウンウンと何かが腑に落ちたらしく頷いている。
「まあ良いわ。私がアンタのお世話係になってやるわよ。今の内に仲良くしておけばアンタがもしも将来的に暴走なんてした時に私を殺すのを躊躇ってくれたら儲け物よね。そのくらいの想定はしといても良いでしょ?アンタ、何も分からない「アンデッド」なんだし?危険な存在、ってのは、あんたも自分自身で理解してるっぽいわよね。なら、良いでしょ?」
イチカが何かを言って指差して手招きをして来るので「付いて来い」と言っているモノと理解して私は素直にソレに付いていく。
(自身が未熟だと先程に自覚したばかりなのに、状況にこうもまた流されている。まあ自分で判断して動くにも、何もかもの情報が私には足りていないのだからしょうがないか。此処はどんな事でも知識を仕入れて少しでも自分で行動を決められる様にする為の手掛かりを手に入れるべきか)
何も知らないままでは一歩手遅れになる可能性の方が高い。
ならば今の内はどんな事でも良いので貪欲にこの国の事を知った方が良い。
無駄に知り過ぎて判断材料が多くなり迷って後悔する、と言った事もあるだろうが。
知らなかった後悔よりも、知る後悔の方が価値が在ると思う。その先へと一歩踏み込む為にあらかじめに覚悟を持って置けると言う点ではそっちの方がマシだろう。
「あいつら三人は露天風呂に行っちゃったからね。まあ、アンタと同行する前の私だったら仲間に混ざってただろうけど。何か今はもう大分、なんか覚めちゃったからね。現実が見えて来ちゃったと言うか、異常事態に冷静さを無理やり植え付けられたと言うかなんというか。元々は変な所で私ってば真面目な所があったんだろうね。ソレが表面に押し上げられてるのよ今は。でも、多分もう昔にはきっと戻れない。大人になるってこう言う事なのかねぇ。」
イチカが何だかしんみりとした事を語っている様なのだが、私はまず言語の理解が出来ないので何と声を掛ければ良いのか分からない。
と言うか、マトモに発声も出来ないこの今の身では言葉が解ってもどうしようも無いのだが。
と、そこで庭に出る。そこにあったのは何処にもくすみの無い眩しい真白。美しい花の彫り込みがされた丸い机と、その傍に美しい紋様で作られた背もたれの椅子があった。
その時点で私は驚かされる。芸術的な面でもやはりこの国は自分の居た国を大きく上回る文化なのだと。
これまでに私が見て来た中で敗北感を感じなかった物は無い。
細かい何処の部分を見ても、私にとってここは「異世界」だと認識させられている。
「じゃあ、勉強しましょ。ほら、椅子。こっちは机。アンタは「アンデッド」。解かる?」
イチカがそれぞれを指差してどうにも何かを一言、私へと向かって語り掛けて来る。
その意味を理解すると私は「ああ、この娘はどうやら柔軟な思考の持ち主なのだな」と理解させられる。
それはどうやら私にこの国の「言葉」を教えようとしてくれているらしかった。




