第59話
何故この四人と同じ部屋なのだろうか?流れに身を任せていたらあれよアレよとこんな状況になってしまった。
(まあ私の精神が非常に揺さぶられて半ば呆然としていたからだな。修行が、主に心の方のが足りなかった)
未熟、その言葉に尽きると言って良い。
そして私は今、後ろを向いている。何故か?
(いきなり着替え始められては困る。どう言う神経をしているんだこの娘らは)
ヒジリと言う名の娘がいきなり部屋の中に在った衣装入れからもこもことした生地のローブだろうか?羽織モノを取り出してソレを着る為に服を脱ぎ始めたのだ。
しかもこちらの事など意識もしていない様子でいきなりマッパになろうとしたのである。
直ぐに反射で「見てはいけない」と私は後ろ向きになって視界にソレが入らない様にしたので事無きを得たのだが。
いや、この場合に事無きを得たと言うのは表現の仕方がオカシイか。
(・・・どう考えてもこれは向こうがぶっ飛んでいると言わざるを得ないな。私は正常だ、うむ、ドウシテコウナッタ?)
着替え始めたのはヒジリだけでは無い。エミコと言われていた娘も、マリエと言う名の娘もだ。
ソレを諦めの顔、呆れた表情で見ていたのはイチカと言う娘。
そのイチカは何かしらを私に語り掛けて来ているのだが、ソレを理解できない私は申し訳ないと感じつつ謝罪しようにも呻き声しか口から出せない。
そこで着替え終わったのかヒジリが私の背にいきなり抱き着いて来た。
本当にこの娘は私と言う存在、アンデッドに対して忌避感と言うモノを持っていないらしい。
と言うか、恥じらいの心は無いのだろうか?恐らく裸にローブ一枚だ。そんな恰好で抱き着いて来ないでくれと言いたい。
「アンちゃん!夕食までは時間あるし!ここの部屋ってば豪華にも露天風呂があるんだって!一緒に入ろ!って言うか!皆で入ろ!」
「・・・アホか。ヒジリ、あんたね、常識外れも好い加減そこまで行くと言葉も無いわよ?」
どうやらヒジリに対してイチカが苦言を呈している様なのだが、そこにエミコもマリエも参加し始め。
「私は別に構わないけどね。どうにもアンデッドナイトは男?みたいだけど、でも、アソコは付いて無いでしょこの分であれば。だって全身真っ黒骸骨っぽいもんね。まあ、それなら別に良いかな私は。」
「エミコもおかしいでしょ・・・付いてる付いてないとか、男とか何とか、そう言う問題じゃねえ・・・ツッコミするのに疲れて来ているから、お願いだから控えて、マジで。」
「露天風呂?ひゃっほーおーい!凄くね凄くね?ここってばこのホテルの一番高い部屋っしょ?そこに露天風呂付とか頭オカシイっしょ!あ、頭オカシイってのは誉め言葉っしょ!入ろ入ろ!ヤベー景色を皆で見ようぜぃ!」
「突然マリエがテンション上げて来やがるとか・・・もう追い付かないんだけど私の心・・・もうちょっとの間だけマリエは大人しくしていて欲しかった・・・もうマリエの精神切り替えスイッチの基準が何なのか・・・異次元?理解不能過ぎてコワイ・・・」
イチカだけが着替えずにいてどうにも心底疲れた顔になってしまった。
(この部屋は、と言うか、この建物は別にこの国の王城と言う訳では無い、のは、解った。で、この部屋は私の知る王城の客室と比べてもそれ以上だと言うのも、解る。では、ここは何だ?うーむ、宿泊施設?隣部屋にこれまた上質なベッドがあるな)
少しづつ現状に慣れてきた私は部屋の中を少し歩き始めて視線を様々に広げる。
敵が何処かに潜んでいると言った事が無いのは分かっていた。部屋の中に入った際に直ぐに魔力を薄めに広げて探って警戒したのだが、ソレももう解いている。
そうすると見えて来たのは、どうにもここが今日四人娘が泊まる部屋だと言う事。
(そんな所に私も一緒に居させる気か?冗談では無いぞ?・・・はぁ、ここまで何らの抵抗もせずにつれて来られている私が言える事では無いな)
この四人を私の監視に付けると言う点を私はもう受け入れている。
しかしコレは無い。どう考えても、コレは、無い。
私は四人がワチャワチャと会話をしている隙を突いて部屋から出て行く。
扉の取っ手を捻った際に鳴った「かちゃり」と言う小さな音でコチラを向いて来たヒジリは部屋を出て行こうとする私の腕を咄嗟に掴んで来て何やら口を開いて何かを言ってくる。
「アンちゃん何処行くの!これから一緒に露天風呂!入ろ!」
力を込めて引っ張られている腕。どうやら私を引き留めているらしい。
しかしソレを無視して私は出て行く。そして部屋の扉前、廊下の壁際に寄ってそこに立った。
(別に何処か他所に行こうと言う訳では無い。部屋を共にするのはイカンと思って退出しただけだ)
無防備な娘たちだなと。普通に考えて良識を持っていれば部屋を同じくする何て事はしない。
(私は男だぞ?しかも、アンデッドなどと言うおまけつきだ。いや、今の状態で言うなれば逆?いや、下らん事を考えたな)
この娘たちがここに今日は泊まるのであるならば、私が一緒に居るのはどう考えてもマズイのは当たり前だ。
(そもそもにアンデッドと一晩を共にするとか、そこ、異常事態と言う事を認識していないのだろうか?)
「一緒に入らないのー?むぅー、もう!残念!」
一緒に廊下に出て来たヒジリがどうにも唇を尖らせてこちらへの不満を表明しているのだが、私はソレに応える術を持ち合わせていなかった。




