第58話
さてホテルに入ってみれば、私の隣でアンデッドナイトがボケッと突っ立っている。
こいつの「中身」が、車に乗って外の流れる景色に呆気に取られて呆然自失と言った様相になっていたのを私は察していた。
「そっか・・・どうにも変な違和感がずっと小さくあったんだけど、当たり前か。あんた、価値観も常識も、あらゆる何かしらが、どうにも全て私たちと全く違うんだね。あー、うん、御気の毒様?」
ヒジリは天井高く奥行きのあるエントランスを「ほえ~」と間抜け面で見上げていて。
マリエはこれまでの態度とは打って変わって、どうにも落ち着きが無くきょろきょろしている。
エミコは「ふーん、ヤベエじゃん」と、何を考えてるのかサッパリな上から目線?的な態度でそんな事を口に出していた。
ホテル内に入って見れば借りて来た猫の様に大人しくなって覇気が一切消えたアンデッドナイト。
ここに来て漸く何周も周回遅れで私は冷静に今の状況を受け入れる事が出来始めていた。
だからもっとこのアンデッドナイトを観察しようと思ったのだが。
「うごがぁ・・・ぐがぁ、ぼへえ・・・」
「何を言ってるのか分からないけど、解るよ。その空気感と視線の彷徨わせ方、ド田舎から来た「おのぼりさん」みたいだから。うん、あんた、どんな場所から来たって言うのよ。」
私の知る限りではこのアンデッドナイト、「最強」と言って良い位の腕前で。
A級と比べても遜色無い所か上回ると言っても良い様な理不尽と言ってやりたい程の強さだ。
そんな強さを持つ存在に「中身」がある。しかも、私たちの常識とは全く違うモノを持っている。
「まあ、あんたが敵対しないって言うのはこれまでの事で充分以上に分ったけどさ。それでも、あんたが突然に暴れでもしたら、誰も止めらんないってのが、怖いのよ。分かって欲しい所なのよね、そこが。」
私はそんな事をアンデッドナイトに向かって語り掛けた。
すると反応しないと思っていたのにアンデッドナイトはこちらを見てゆっくりと頷いて来たので驚かされる。
「あんた、言葉が解るの?・・・分かって無いっぽいわね。偶然か。コミュニケーションは取れる、でもそっちはマトモには喋れない。じゃあ文字での交流かな?こっちを認識してるだろうから見えてんのよね?それとちゃんと耳は聞こえてるっぽい。まあアレコレやってみてちょっとでもこっちの意思が伝えられれば上等ね。少しづつ試して行く価値はあるか。」
アンデッドナイトのこの行動が只の反射とかでは無く、しっかりと意思を持ってこちらを見たのだと分かった私はそれ以上の意思疎通はどうすれば良いかの案を幾つか考えていく。
一番良いのは長官がやっていた動画だ。そこに言葉も混ぜてワンセットで少しづつこっちの言葉をアンデッドナイトに理解させると言った方法。
次は絵と言葉のセット。乳幼児に言葉を教える知育玩具などを与えれば良いだろうか?
「後は物を指差して単語を口にする、って言う形かなあ。明日になったら多分、ダンジョンに一緒に入る事になるよなぁ。しかも、救助隊か、調査隊の。・・・マトモに動けるんか?それ?」
私は今後の事に思いを馳せた。ダンジョン変動の影響はまだまだ収まらないだろう。
だから、私たちとこのアンデッドナイトがそこに駆り出されるのは目に見えている。
あの腹黒で計略大好きっぽい長官が、こいつを閉じ込めておいたり放って置いたりする様な輩には見えない。
徹底的に利用できるだけ利用しきって来る、そんな風に思えた。
「頼むわよアンタ。出て来た魔物は私たちじゃ手に負えないのばっかりだったんだから、ちゃんと私たちの事を守ってくれなくちゃマジでヤバイんだから。」
そう言いながら私はアンデッドナイトをちょっとだけ睨みながらその顔を指差したら。
「・・・うごぁ、ぐがぁ、ごぶふぅ・・・」
「ホント、何言ってんのか分かんないわ、ふふ・・・」
返って来た反応がやはり、何と伝え様として来ているのかが分からない。
その滑稽さが何だかおかしくて少し笑ったら。
「あー!ちょっと!アンちゃんとイチカが仲良くなってる!うんうん、やっとイチカもアンちゃんのカッコ良さが分かって来たかー。」
「いや、全く以って分かんないわよ。アンタの感性も本当に心底分からんわ。」
「えー!?何で何で!アンちゃんマジイケメンっしょ!?」
「・・・お前の頭の中が本当にどうなってんのか、本気で分かんない・・・」
そうやってギャアギャアやり取りしながら私たちは今日泊まる予定の部屋に向かった。
なお、アンデッドナイトも一緒だ。
「何でこいつと一緒じゃなきゃいけないんだよ・・・アリエネーってば。」
しかしコレは長官からの指示だったりする。ここまで密着監視は要らんやろと、正直言ってそんなツッコミを入れたい所だったけれども。
「国家権力には何も言えん。何処で何を間違えたんだかなぁ・・・」
私のボヤキ何て誰も聞いておらず、到着した部屋に皆入って行った。




