第53話
その後、私の前に出されたのは「絵」だった。四人娘が持っている平らな板の様な魔道具のもう少し大きい物に映し出されていると言って良いだろうか。
しかもその内容はと言うと、恐らく「私」と相手の男が手を結びあっている。そんな絵だ。いや、動いていたその絵は。
(・・・なるほど。言葉や態度、身振り手振りでは無く、単刀直入に「絵」でコチラへと向こうの意思を伝えるのか。これは盲点だった。と言うか、動かせるのか、凄いな)
私は驚きを禁じ得ない。交流と言うモノに対して凝り固まった考え方をしていたのだなと気づかされた。そして魔道具の技術力の高さにも驚愕させられる。
(これならば確かに意図が通じ易いだろう。だが、何だ、このホッコリする様な柔らかい絵は)
「黒騎士殿、君とはこの様に「良い関係」を築いて行きたいと思っている。そちらはどうだろうか?」
何やら私に言葉を掛けて来る男の方を見るとスッと手をこちらに差し出している。
隣に居た少女はどうにもこの行動に驚きを見せている様なのだが、どうやらこの様な展開を予想していなかったんだろう。
もしくは「話し合い」「事前に決めておいた事」の中に無い事だったのかもしれない。
とは言え、ソレを私が今この場で察する事に意味は無い。問題は目の前に差し出された手だ。
(敵意も、隔意も無い。いや、在ったとしてもソレをしっかりと隠しているのか。私に悟られない程に。コレは、参った。格上だな。アンデッドに対しての恐怖も押し隠していると言った所か)
私はこの手を握る。本当に優しく、潰さない様に。こう言った交渉の場では相手の男の方が格上だと素直に認めた。
事前に私と言葉の交流が出来ないと言うのを考慮しての事なのだろう。
こんな「動く絵」で互いの意思の疎通を試みるなど柔軟性と言う域を超えている様に私には感じられた。
「では、そちらの椅子に掛けてくれたまえ。腰を据えてこちらの要望を伝えさせて貰うとしよう。ああ、そちらのメリットもちゃんと提示する。コレに納得がいかなかったら即座に退席して貰っても構わない。」
相手が何と言っているのか分からない。しかしまたしても私の前には「動く絵」が新しく見せられた事でその内容を何と無く理解する。
これはどうにも先程の男の言葉を「動く絵」で展開しているらしく。
(恐らくは事前にこちらに伝える内容を吟味してこの様な物を準備しておいたのだろうな。用意周到だ。分り易くてこちらにとっても有難い)
まるで子供に見せる紙芝居の如くであり、何だかその絵の柔らかさも相まってこちらの心もホッとさせる。
こう言った手段を私には取れないので本当に頭が下がる思いだ。
こちらが交流を図りたいと思っていてもソレがかなり困難な事であったので、向こうからこうしてこれ程に歩み寄って来てくれたのは正直言って感謝しかない。
「さて、こちらの要望は簡単だ。魔石をこちらに引き渡して欲しい。ソレに対してこちらが出せるのが、コレだ。」
男の言葉に合わせて流れる様に「動く絵」が変わっていく。
それは例の青く光る石を相手に渡し、その見返りに「金貨」をこちらが受け取ると言ったモノで。
(やはり私の最初の見解は間違っていなかったのだな。ダンジョンで魔物を倒し、出て来た石を売るか。だが、私がこの様な身で金を受け取った所でソレを何に使えば良いと言うのか)
食事は不要、服も要らない。睡眠も。この様な身には「生活」などと言ったモノは一切無い。
人は生きる為に金が必要で、ソレを得る為に働く。私にはその全てが無くても良いモノなのだ。
(ああ、娯楽の為に金を、と言った事も考えれば別に。だがなぁ。そもそもにアンデッドの私が人の営みの中に入り込むのは、何をどう考えても、イカンだろ)
と、そこまで考えた所で絵が変わる。受け取るモノが「金」では無く「武具」やらどうにも「魔道具」に変わったのだ。
いや、それだけでは無く「食事」或いは「宝飾品」「芸術品」?などに変わった。
それはどうにもこちらの求めるモノと交換して良いと言う事らしかった。
(なるほどな。相手が用意できる物であればその中から自由に選んで良いと。太っ腹過ぎないか?)
コチラへの譲歩にも程が有ろう。これ程に私への優遇をしてしまうと周囲が黙っちゃいないのではないか?と思える。
(だがこの男がもしもそう言った者たちを黙らせる事の出来る立場に居たのならば?ソレも可能か。そして、こんな提案をこちらにして来ると言う事はそう言った権限を最初から持っているに他ならない訳だ)
独断と偏見でこんな真似をしているのではない。誰にも相談せずに勝手にこの様な話を私へと持ち掛けてきている訳が無いのだ。
「さて、どうだろうか?この話を納得してくれたのなら、また握手を交わして欲しい。ああ、それと、まだこれとは別でもう一つ要望があるのだが、それは黒騎士殿がこの内容に納得して貰ってから伝えたい。」
どうやら話はコレだけでは無かったみたいで動く絵には続きが有った。
私はソレを視界に入れつつ相手の顔をしっかりと見据えた。




