第48話
今、新宿は大騒ぎになっている。何故なら十数年は無いだろうと研究者たちが口にしていた大幅なダンジョン改変が発生したからだ。
だが協会長の椅子に座る彼女はそれでも慌てずに対処をしていた。
「こちらで組んだ緊急救助隊の要請と編成は終わって既にダンジョン内に入って行ったわよね?その後の定期連絡は?」
「そうですな。これと言っては特に問題と見做さなければならない特殊な物は有りませんでしたな。第一班、第二班、第三班全てで今の所は救助の必要がある冒険者も、異常な魔物なども発見、遭遇などは無いとの事です。」
「それは良い事ね。だけど・・・この後にどれ位の期間をあの研究馬鹿共に占領されるか分かったモノじゃないわね。頭が痛くなりそう。それと、調査隊の方はどうなっているかしら?」
「人数の規模としましては、三百人体勢での事になると予想されます。政府関係者が今回の件を重く判断しました。」
「それは、あのアンデッドナイトの事も明るみに出るのは時間の問題って事よね・・・胃が痛くなって来たわ・・・」
情報統制はかなり綿密に厳しく行ったのでまだ「黒騎士」の事は外に漏れていなかった。奇跡的に。
だがしかし今回の事のアレコレに混ざって外部へとソレが放出されてしまう事が確実な状況となった。
「海外にも今回の事は拡散するでしょうね。その時にはアンデッドナイトを目的とした「馬鹿」が一斉にここに押し寄せて来るわきっと。それこそ研究馬鹿どもとは比べ物にならない比でね。あぁ、頭が痛い。こっちの迷惑顧みずに頭の悪い奴等が一斉に来られちゃ堪らないわ・・・」
「他国の研究機関だけでは無く、恐らくは宗教関係者も大勢やって来る事になりますかと。その点の問題への対処は如何なさいますか?」
「無理ね・・・どうあがいても対処不可能でしょう。流れに身を任せるしかないわ。追及されてもノラリクラリと躱して、かつ「黒騎士」とは敵対しない様な立ち回りが必要よ。ああ、そんなのどれだけの難易度なのよ・・・手に余るわ。」
「一番厄介になりそうなのが、聖導教会ですか。我が国にも支部がありますな。本国程の規模と数では無いにしろ、そこが一番五月蠅くしてきそうです。」
「言わないでよ、余計に頭が痛くなってきそうだわ・・・情報が正式に政府から発せられたらその翌日には即、新宿支部に乗り込んで来るでしょうね。」
ここから直ぐにでも逃げ出したい。そんな気分に彼女はなっている。
しかしコードネーム「黒騎士」へ即座に対応をするのならここに拠を構えていなければならないのだ。
他の所に行っている場合では無いのである。ここ新宿支部の職員たちに任せられる案件の重さでは無い。
アンデッド騒動にダンジョン変動と大きな問題が立て続け。そしてソレに対しての考えなければならない事が山盛り。
今も彼女、協会長は目の前に積まれた書類と、そしてパソコン内の電子決算に目を通して認証許可を出し続ける。
コレが普段の仕事であり、一番大事な基礎である。基本はダンジョン関連のアレコレがスムーズに回る様にする為のデスクワーク。疎かに出来ない重要な仕事だ。
これが滞れば「黒騎士」や「ダンジョン変動」だけでは無く他諸々の普段の仕事に余計な負担になるし、差し支えが出てしまう。そうなれば現場が余計に回らない。寧ろ止まる、止まってしまう。
「はぁ~、内部に居た者たちの事が心配だわ。変動に巻き込まれて亡くなっていなければ良いのだけれど。」
ダンジョン変動の被害はかなりひどいモノで言うと「巻き込まれ」て死亡と言ったモノがある。
その内の一つにかなり残酷な死に方があるのだが、それは形を変え、移動し、閉じたり開いたりと、そう言ったダンジョンの壁、床、天井などに挟まれて圧死という物が在った。
コレを目の前で目撃してしまった者はそのトラウマで引退を決意してしまっている。まあそんな事例は本当に数少ないのだが。
余りにも酷い死に方と言うモノはソレを目撃してしまった者へと与えるトラウマが大きい。
その目にしてしまった悲惨な末路に引きずられる様にして心を病み、その結果に引退、などとなれば余計な戦力低下だ。それは協会にとって痛い。
まだコレが魔物との戦闘で仲間がやられた、などと言う理由の方がマシで。
魔物に負けてなるものかと、仲間の仇討ちだと奮起し、パーティの空いた穴に新たなメンバーを入れる、もしくは新戦力を組み込んで再び戦地へ、と言った流れに繋がる事もある。
しかしこう言ったパターンでも結構な者たちが引退をしてしまうケースは無くはないのだ。
要するに結局はその本人次第、辞めるか辞めないかなんて物は。
「この変動に巻き込まれて「黒騎士」が居なくなってくれていると、ソレはソレで大きな問題が一つ無くなるけど・・・同じ位に大きな損失よねソレもソレ。あー、戻って来て欲しい様な、欲しくない様な。」
この先のゴタゴタを考えれば「黒騎士」がこの変動で消えていてくれたら楽な事は確かなのだ。
しかし「黒騎士」と言う存在は、彼女の勘では大きな利益を生み出すと告げている。
天秤に掛けると彼女の中では若干利益の方に傾く。
これは別に彼女が守銭奴と言う訳では無い。協会全体の事を考えての事である。
だがしかし社会が、組織の仕組みが、ソレを全部受け入れてくれる訳が無い。
協会長の座を狙う者や、只単に感情的にアンデッドを受け入れられ無いと言う者、或いは世間一般的な意見に流され反対と唱える者、もしくは批判する事自体を目的にした輩たち。
そう言った「敵」や「足を引っ張るのが好きな者たち」が彼女の声を叩き潰そうとして来るに違いなかった。
「根回し、宜しくね。貴方にはいつも苦労を掛けるわ。」
「いえいえ、協会長・・・お嬢様の判断は間違ってはいないと私も思いますから。では、行って参ります。」




