第44話
私たちは非常に厳しい状況に置かれていると言うのに、仲間の三人は妙に気楽だ。
なおアンデッドナイトは仲間なんかじゃ無い決して。「テメーはダメだ」枠である。
「まあ深層って訳じゃ無かったんだし、そんなに深刻になる程じゃ無いでしょ~。」
「向こうでも変動を観測してるでしょう。救助隊組んで走らせてるんじゃないかしら?」
「それより帰ったら何食べる~?私ソースカツ丼食べたくなって来た。」
「何でこんな危機的状況でソースカツ丼なんて突然に思い描けるのよ・・・」
前を歩くその背中はアンデッドナイトの物だ。分かれ道では迷い無く選んだ道をどんどん進んで行くのでソレに何故か私たちが付いて行く形になっている。
まあどうせドレを選んだところで正解の道なんて分からないのでソレは良いのだが。
「一応マップは作りながらだから、同じ道を何度も間違えて選んじゃうって事は防いでるけども。」
そう、ちゃんとタブレットに入れておいてある自動マッピングソフトに記録しているのだ。
「お?じゃあもう安心じゃん?イケルイケル!」
「イチカ有能ね。助かるわ。私すっかり忘れてた。流石に動揺していたわね。」
「あーそっか。アンデッドナイトがさっさと行くから考えても無かったわ~。お腹空いた~。」
「・・・私、コレを脱出したらこのパーティから抜けるんだ・・・ははハ・・・」
乾いた笑いしか出てこない。良くこれまでこんな奴等とパーティを組んで来れたなと、奇跡かと、そう思ってしまう。
命が掛かっている状況になれば人は本性を現すと言うけれども、今の場合は私の本性が現れたと言って良い。
ヒジリ、エミコ、マリエは普段からこんなだ。もう、何も変わらず、こんなモンなのだ。
私が寧ろこれまで猫を被っていたと言えば良いのか、ナンナノカ。
この四人で居るのが気楽だったから気に入っていた、のだと思うのだが。
「うん、そうだった。確かにこれ位の緩い空気が私にとって気が楽だったからパーティ組んだのよねェ・・・」
今の私の心理状態的に言って昔の自分に「考え直せ」と伝えてやりたいが、アンデッドナイトさえあの時に現れさえしなければ、こんな状況にはならなかったのだ。
そうなればこの様に私一人が慌てふためいて気を張り続ける事にはならなかった。何時ものパーティでダンジョンに潜って、いつも通りに稼いでいつも通りに喋って、いつも通りに笑っていた。
だから、アンデッドナイトには文句の一つや十は言える権利を私は持っていると主張したい。まあそれは八つ当たりと言って良いモノだけれども。
昔の自分へと「考え直せ」なんて否定するにしても、これまでの私たちが間違っていたりした訳じゃ無い。
四人で潜るダンジョンは楽しかったし、お金もそこそこに稼げて言う事無しだったのだ。ちゃんと思い出だってある。
マリエが後方で大魔法の準備をしている間に私が前線で魔物のヘイトを集めて踏ん張り。
その補助にヒジリが私へと回復魔法を掛けて戦線維持。
エミコは弓矢で牽制をして敵が大きく散開してしまわない様にバランスを図る。
戦闘面でもしっかりとバランスが取れたパーティだった、はずだ。
(どうしてこうなった?逆恨みの一つくらいは口にしたくなるわよ。何であんな時にあんなタイミングでアンデッドナイトがエントランスのド真ん中に出現すんのよ。それも、前触れも何も無く)
そこでふと気づいた。おかしな事に。
それは私の中で腑に落ちた。
だから漏れてしまった。自然と言葉が。
「このダンジョン変動って、アンデッドナイトが現れたから起きたんじゃないの?」
と言い終えた瞬間にそのアンデッドナイトが「ぐりん!」とこちらを見て来たので私は恐怖のあまりに「ヒっ!?」と短く小さい悲鳴を上げてしまうが。
しかしその瞬間には目の前からアンデッドナイトが消えていた。
呆気に取られて暫く動けない私の耳に後方から「ガキン!」と金属が硬い物と強く接触する音が聞こえて反射的に振り向けば。
最後方を歩いていたマリエを庇う様にしてアンデッドナイトが立っていたのが見えて混乱で硬直してしまう。
マリエも何が何だか分かっていない顔をしていて振り向いていた私の目と目が合う。
どうやらマリエにもアンデッドナイトが突然に消えた様に見えていたらしい。どれだけの速度だよ、と内心で私はツッコみを入れてしまう。
しかしそんな場合じゃ無いと気持ちを入れ替えてちゃんと確認をしようとすれば。
私からの視界だとアンデッドナイトが何かを剣で防いでいるのは分かった。そしてそれはマリエを護る為の行動である事も。
だが剣で何を防いだのかが分からない。分らないから余計に恐怖した。正体が不明なモノほど怖い物は無い。
だけども予想は付く。何かが飛来していたのであれば、アンデッドナイトが構えたその剣の位置的に見て、それが無かったらマリエに直撃していたのだと思われる。
そもそもにソレが一体何なのかは分からないが、衝突音で判断して、もしもマリエに当たっていれば大怪我を負わされていたと推測出来た。
そこまで考えて私は背筋が寒くなった。もうこの階層は、幾ら低階層だとは言えども私たち程度の実力では即座に殺されるレベルにまで危険が跳ね上がっているのだと。
ダンジョン変動はこれ程までに恐ろしいモノであったのだと。今更ながらに危険度を計算し直さなくてはならないのだと。
迷子などと言う生易しいモノじゃ無い。遭難などよりもっと酷い状況になっているのだと認識しなくちゃならなかった。
この事態に三人もさすがに気を引き締め直したらしく。
「イチカ!アンちゃんの反対側からの通路から敵が来ないか警戒!」
「マリエは魔法の準備だけして瞬時に反撃できる様にしておいて。」
「ヒジリ~、回復魔法どれだけあと使えるー?計算はしておいて優先順位を間違えないでねー?」
「あんた等、遅いのよ切り替えが。はぁ・・・さてと、生き残りましょ。どうやらアンデッドナイトは私たちの事を本当に護ってくれる気でいるみたいだしね。心強いわね、全くさ。」




