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第43話

 私が魔物を倒した後、しばらくして胎動は止まった。


 そこで今後の事をどうするのかを決めた四人がこちらに近づいて来る。


 私が接近して来ていた魔物を倒していた事には気づいていない様子で。


「アンちゃん私たちを連れてって~。」


 私に対して一番なついている娘に腕をまたしても抱きしめられた。正直に言って少々邪魔だ。


 異常事態になっているのだからほんの些細な違和感でも直ぐに動ける様な体勢になっていなければ自身の命が危うい状況だと気付いて欲しい所。


 これでは私の片腕が封じられているのと同じ。初動の身動きに支障が出かねない。


(振り払う事も出来るが、その時には一拍遅れての行動になる。それは致命傷に繋がりかねん。敵は待ってはくれないだろうからな)


 そう思ったらその娘を引き剝がしてくれた者が居る。


 そう、私への警戒が一番高い娘だ。


「アンタちょっと、離れなさいって。この先で何が起こるか分からないんだから。このアンデッドナイトに身を守って貰いたいなら即座に動ける様にしておきなさいよ、アンタ自身の事も含めて。低階層だからって言ってもここまでの魔物の出現数とか種類が異常だってわかってるでしょうが。」


「ぶぅ~、良いじゃんちょっとくらい。」


「よろしくねぇよ!アンタのせいで死ぬのは御免だよ!」


 イラついた様子は解るが、何と言っているかは分からない。けれどもその動きと表情で双方の心情は何となく伝わって来た。


 ここで意外にも私に対してその警戒を怠っていなかった娘が例の魔道具をこちらに見せて来る。


「ねえ、言葉、解る?・・・駄目っぽいわね。けど、中身は入ってるんでしょ?それ前提で進めるわよ?コレを見れば何となくだけど、話したい事は伝わりそうだしね。ほら、コレ。」


 何と言っているか分からないかったが、分かった。彼女はその魔道具に映し出された、どうにもここまでの道のりなのであろう線を指でなぞる。


 そしてその指の動きが次には実際にこの部屋へと入って来た時の道の方にズレて指し示す。ソレを私が視線で追うと違和感を覚えさせられた。


(む?視界に入って来る情報と、この魔道具が映し出している線が違っている?・・・ああ、そうか、なるほど。そうだったか)


 直ぐに私は彼女が説明したい事を理解した。


 ダンジョンのここまで通って来た道がどうにも変わっている。入って来た時の道は真っすぐだったはずが、視界にはそこは今、曲がり角に変わっていた。


 この部屋に入って来た時の道と魔道具に映る道筋が合わ無い事に気付けた。


(彼女らを安全に返してやらねばならなくなったか。まあ、私には急ぐべき事柄も無ければ目的地が有る訳で無し。送ってやらねばならない様だ)


 とは言えどもだ。手探りで帰還せねばなら無い状況は確実に難易度が高い。戻り道が変動して全く新しい迷路に変わったと言う事なのだ。


 それは遭難したと言う事。ならばもしかすると、このままここで救助されるのを待つ事も考慮にも入れた方が良い。


 しかしどう考えてもどちらの選択も同じだと理解もしている。寧ろ救助を待つ方が生還率が今回の場合は低くなってしまうだろう。


(彼女らには食料が必要だ。水も。それらが一切無い。餓死する危険がどちらも伴う。迷路を抜けて帰還を果たすも、待ち続けるも、どちらも可能性は同等か)


 遭難、そう言った事に対しての何の準備もしていない。私がダンジョンに入る時に彼女らは何も気にせずに付いて来ている。


 それは今の事態が想定外なのだと言う事が良く分かる。いきなり帰り道がぐちゃぐちゃになる何てのは普通に考えもしない事。


(今回の事の様な事態は滅多に起こらない事なのだろう。軽く行って、ササッと戻る。そんな心持の軽い感じで私に付いて来たに違いない)


 彼女らは余りにも危機意識が低い。だが私も同罪と言えばそうだ。


 私のこの身では飲食も睡眠も不要。生命活動を保つ上での何の準備も必要は無い。だから思考に掠めもしなかった。食料、水の準備などと言う事は。


 私はもう死んでいるのだからそれらの事に注意もしないのは当然だ。そこに彼女らの事など一切考慮に入らない。彼女らが勝手に付いて来たのだから。


 そんな気まぐれでなのであろう同行など、気が済んだら離れて行くだろうとの楽観もあった。


 まあザックリと最終的に言えば、この様な事態に陥るとは思考の死角にも掠めなかった。


(何が起こるか分からぬのがダンジョンと言うモノか。ソレをすっかりと忘れていたこちらが悪いと言う事だな)


 余りにもダンジョンと言うモノに慣れてしまっていて「準備不足」も甚だしい、と言う点を忘れている私たちが悪い。


 そんな事を思っていても、ここでジッとしている訳にもいかない。私の頭の中で警鐘が鳴り始めた。


 この部屋に繋がる道、入って来た方と、その反対側に繋がる通路。両方から大量の魔物が流れ込んで来れば私一人で彼女らを守り切れるかどうかが怪しくなると直ぐに察したから。


(まあ身を護る術があるからダンジョンに潜っている、稼ぎを出していると言う事なのだから、そう言った心配は彼女らへの侮辱とも言えるか)


 過保護になり過ぎてはいけない。私はそもそもに彼女らの保護者でも守護者でも無いのだから。


 彼女らは戦う術があるから、これこの様にダンジョンに入って来たのだ。私に付いて来たのだ。


 ならば過剰な心配も保護も不要。自身の身は自身で守る事も出来よう。


 そう言う訳で私は歩きだす。何処にか?この部屋に入って来た時の道の方にだ。


「ちょ!?いきなり?って、あーもう!ホラ、行くわよ!ヒジリ!アンデッドナイトに近づくんじゃないって!エミコも警戒を怠らないで!マリエ!だるそうにしない!キビキビ動け!」


 何か叫んでいる様だが、私はソレを気にせずに帰還へ向けて進み始めた。

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