第42話
私の事を一番警戒しているであろう娘が私の腕を取って引っ張って来たのに驚かされて足を止めた。
合流したのは別に只の気まぐれと言うか、待った方が良いのかどうかを迷っていただけなのだが。
(何で引き止められているんだ?この先の通路へは行くなと?どう言う事だ?)
少々焦った様子の表情の四人に対して私はそこで気づく。
何やら私が知らない要素にて彼女らが慌てているのだと言う事を。
そうして気づいた後に直ぐにその異変にも気づいた。
(・・・巨大な何かしかが動いている気配か。コレが私を引き留めた理由と言う訳だ。で、これは、何だ?)
コチラに何かが近づいて来ていると言う感じでは無く、地の底で蠢いていると言った感覚だ。
根本的な何かが今、変わろうと、生まれようとしているかの様な波動が私の全身に響いて来ている。
これを警戒したが為に私を引き留めたと。下手に動くな、移動するな、様子見をするべき、そう言う事なのだろう。
(この胎動が止まってから行動するべきだと言いたいのか。確かに安全を確保すると言う点では大事な判断だな。・・・私が察知する前に気付いたのかコレを。どう言った絡繰りだ?)
そう思って四人を見れば何やら光を発する板を持ってソレを覗き込んでいるのが見えた。
恐らくは異変を素早く察知できる魔道具なのだろうとの予測は立つが、しかし詳細な中身、効果は分からない。
(まあ、良いだろう。どうやら今の状況は彼女らに任せた方が良い場面らしいからな。私は出て来た魔物を随時屠って彼女らの安全を確保しておくべきと言う事だな)
ここは私にとっては未知の場所。これまでの私の持っていた常識が通用しない。
私の知るダンジョンの理とも大きく違う様だし、そこら辺の理解が足りない私は今の状況では出て来た魔物を倒すだけしか取り柄が無いと言える。
(全く以ってダンジョンとは謎の塊だな。その謎を解明するなんて、戦闘しか能が無い私には到底出来ん代物だ)
今は役割分担と言った所なのだろう。肉体労働は私。彼女らは今現状起きている事の解明と言った感じか。
(アンデッドになったこの身体で肉体労働係りとは、笑える所が一切無い冗談だな)
この体には肉と言える部分が一切無いのだから皮肉にも程が有る。
とは言え、彼女らは私などよりも今この場の事が良く分かっている様子なのだ。
現状、どの様な窮地に陥っているのかがイマイチ掴めていない私が何を言えようか、と言った所。
と言うか、私は彼女らの話す言語が喋れない所か、まともに私の母国語すら発せられないのだが。
彼女らの顔色が少々悪くなっている事を察せない程に私は鈍くは無かった。
(さて、どうにもこちらの事など知らんと言う具合に敵がお出ましなのだが、魔道具を覗き込んで四人で相談するのに集中していて気付いていない様だな?)
早速の仕事が舞い込んで来た。この部屋の奥の道からゾロゾロと例の獣人モドキがニ十体近く迫って来ているのを私は察知する。
(魔法で始末するか?魔力剣で仕留めるか?彼女らは考え事に夢中らしいし、ここは静かにやるか。邪魔しては悪い)
敵が迫っては来ているが、まだこちらに辿り着くまでにはかなりの距離があった。
その通路は直線で敵の様子が良く見えている。こちらから一方的に攻撃可能だ。
派手に魔法を撃つのは気が引けるし音も結構な轟音がする。なのでここは近づかれる前にと思って剣での突きを使う。
(相手の急所を正確に・・・突く!)
突いたと同時に引く。ソレを素早く連続で熟して行く。
コチラの動きに気付いていた敵はまだまだ遠い間合いでの攻撃で届かないと思っているのか、その空気感は非常に緩い。こちらを馬鹿にしていたのが遠くても伝わってきている。
(油断をするのか。馬鹿なのだろうな。こちらが何の手段も無く考え無しにこの様な事をする訳は無いと何故気付かないのか)
一体、また一体と致命傷を受けて倒れ、煙と化して行く魔物、獣人モドキたち。
(魔力を鋭く、細く、しなやかに剣先から伸縮させているのが、奴らには分からないんだろうな)
私は容赦無く連続突きを繰り返す。既に今の時点で数は半分に減った。
(今更に危機感を覚えても遅い。もう終わりだ)
突きの乱れ撃ち、しかしその攻撃点は正確。鳩尾、喉、眉間、と次々に私は狙いを定めて放っている。魔力撃は正確にその急所に突き刺さっている。
(腕は鈍っていない。寧ろ冴え渡っている感じがするな生前より。剣と体が正に「合っている」と言った感覚があるな)
戦闘、と言うよりも、一方的な蹂躙。ソレが静かに終わった。こちらに一匹たりとも入らせずに通路で片付けが終わる。
今の短い時間では当然にまだ四人は相談が終わっておらず。
(さてはて、この先の行動はどうするべきか。このどうにもならない様子の異変を解決する道筋は立ったのか)
私はその決断を静かに待つ事にした。




