第40話
異様な気配が充満するその部屋からそこそこに離れた場所に私は立つ。
ここから一気に勢い良くその部屋の前まで踏み込んでその中へと魔法を放って即撤退の予定だ。
コレで雑魚は殲滅出来るだろう。そこに残るのは親玉とその側近なのであろう九体居る特殊、或いは強化個体になると予想する。
(さて、威力がどれ程になるかの予想ができんが、まあ、感知した範囲の敵はコレで片付くのは確実だろうから良いとして)
魔法の範囲が自分の方にまで漏れ出て迫って来るかどうかが、この場合、分からない訳だ。
炎の魔法を撃ったつもりなのに先程のは黒い炎と言う訳の分からない事になっている。
そんな意味不明の自分で撃った魔法に炙られるのは嫌だ。なのでかなりしっかりとここは退避するつもりでいるのだが。
ビビっていてもどうしようもないので一気に行動に出た。部屋の一歩手前、中にまでは入らずに手の平そちらへ向けて詠唱する。
「うぼぁ・・・」
やはり魔法名は口に出してもちゃんと発音できない。流石はアンデッド。
ここは魔法が発動しなくても、しても、即座に元来た道を戻る。
蟲魔物に捕捉、包囲されると面倒過ぎる展開になるからだ。
しかしやはりしっかりと魔法は発動した。掌から黒炎が部屋へと広がっていくのを撤退している視界の端で確認出来ていた。
(やはり黒いのはこの身体に何かしら関係があるのか?まあ、そうなんだろうな。だが、道理も原理も理由も解からんのはどうにも)
どうやら炎は私が逃げた方向の通路には溢れては来ない。
そこでホッと一安心した私は黒い炎が渦巻くその部屋を遠巻きに見つめて観察に徹した。
あの中からもしかしたら蟲魔物が燃え盛りながらも私の方に向かって突進して来る事もあるかもしれないと思ったからだ。
しかしそう言った様子は一切無く、黒い渦が収まって行くのを私は眺め続ける事になった。
(・・・おや?一切の気配が無くなった?四、五匹は残ると思っていたが、相当な高熱で殲滅できたのか?)
思っていたよりも随分と高温になったのかと思い部屋の方に進んで行けば。
(部屋の内部は、何処も焦げてはいない?どう言う事だ?アンデッドのこの身では部屋の温度がどれだけ上がったのかが体感でき無いな)
部屋の中には何も無い。いや、蟲魔物が落とした青い輝く小石は床に散乱している。
それ以外が一切何らの変化も見当たらない。
(同規模の通常の炎の魔法であれば部屋の壁が焦げていてもおかしくは無い程だったはずなんだがな。残熱も焦げも一切無いのか?・・・無いな)
暫く部屋中を見回して観察していたがその結論として、あの黒炎はどうやら蟲魔物だけを消滅させたらしい事が察せられた。
そして床を見渡す。
(どうやら他とは少々大きさが違うのが例の九体の物か。それよりも一回りか二回り大きいのが親玉のと言った所か)
床に散らばるそれら小石を拾って「虚」に放り込んで行く。
回収作業をしつつも考える。自分が放った魔法が黒い事を。
(炎では無く水であったならどうなったのだろうか?・・・やらない方が良さげだな。真っ黒な水球が出て来たら私はソレをどうしたら良いか分からん。処分に困る)
魔法の素質があった私は生前に努力した甲斐あって一通りの属性は扱える。
その中で一番使っていたのは火の魔法だった。コレは敵への牽制にも使えるし、野営の時の火付けにも使えたので便利だった。
続いては水で、コレも野営の時や、他にも行軍の時に喉が渇いた時などに一時凌ぎとして水の魔法で喉を潤すなどをしている。
熱い日差しの野外活動の時には風の魔法を弱い威力で鎧の中に送り込んで涼みに使っていたし。
土の魔法は即席の竈などを作る事に使っていたりした。敵への奇襲作戦の時などは地面に穴を作りそこに身を潜めるなどもした。
光の魔法は夜遅くまで書類仕事を熟す為に重宝していた訳だが。
(闇の魔法だけは禁忌と指定されていたので習得はしなかったなそう言えば。で、この黒いのは、闇属性、なのか?・・・解らん)
そもそもに実際にどの様な効果になるのかなどは調べた事も無い闇属性だ。
今の魔法がその闇属性なのかどうかも判断が付けられる情報が私の中に無い。
(これは検証が必要になるな。剣撃を伸ばす為に使用している魔力はこの様に黒くはなってい無いんだがなぁ)
属性を意識して乗せる魔力がこの様に黒く染まるのか?と考えてそこでふと思う。
(小石を拾うのが、面倒だな。彼女たちがここに来てくれれば勝手に拾っていってくれるんだが)
結局は何も分からないなら悩むだけ無駄と考察を止めてここで気づく。
(飛んでいる魔道具に手でも振れば合図として向こうが受け取ってここまで来てくれるか?・・・はあ、止めておくか。彼女らは別に私の従僕では無いんだから)
結局は自分で小石を全部拾った時になってその四人は部屋へとやって来たのだった。




