第39話
コチラの動きを蟲魔物は良く観察してきている。
先程の私が放った魔法をしっかりと警戒して距離を測っている。
相手の魔法はどうにも連射が可能でコチラに魔法を撃つ準備をさせてはくれない。
(まあ魔力で刀身を伸ばして斬り捨てると言った事も可能ではあるが、そこそこに距離が遠いのでな。小手先の技で行かせて貰う)
そこら中の床、壁に付いた溶解液が出す煙に触れるのは不味いと感じる。
なので今の状況での通路は剣を振り抜くのに少々狭いので他の手段に出る。
相手の隙を作り出す為に拾った小石を思い切り投げるのだ。
(私の投擲を舐めて貰っては困る。・・・そら、今だ!)
生前にもこの様な手は幾度も使って来た。けれどもその度に貴族出身の貴族たちはやれ「汚い」だの「浅ましい」だの「醜い」だの「下らぬ」だの「つまらぬ」だの「卑怯」だの「美しくない」だの「最低」だの「低俗」だの「騎士のやる事では無い」だの、他にも色々と馬鹿にされたものだ。
しかしこの手の攻撃方法は有用だ。使える物は何でも使って、そして、守るべき物を守れれば良いのだ。
使わなかったから、負けた。やらなかったから、失敗した。選ばなかったから、守れなかった。
などと言い訳は通じない。負ければそこまで。何をどうしようが、勝たねば、勝てねば終わりなのだ。
騎士の矜持などかなぐり捨てるだけで、守らねばならぬ、守るべきものを守れるのならば、そうするべきなのだ。
(貴族出身の者たちはそう言った所に、騎士と言うモノに幻想を抱き過ぎていた。だから私は嫌われたのだろうな。アイツらは一番大事なのは何かを見失っている所か、解ってもいなかったな)
私の全力の投擲は蟲魔物の羽を撃ち抜いた。中々の成果だ。
散弾の如くに飛んだ青い小石はまるで星の煌めきの如くかと思わせる美しさ。
まあそれも一瞬だけだったが。その結果は上出来も上出来だ。
(隙あり、だな。コレで終いだ)
羽をやられて飛べなくなった蟲魔物は地に落ちた。
墜落、その次の瞬間には私は剣をソレに突き刺している。
煙と化し消えて行く蟲魔物。そこから残されるのは青く光る小石。
(強化個体と見受けられたが、その分だけ少々大きいか?さて、回収するか。これらの小石も引き渡すだけでは無く投擲武器として使えそうだし少量手元に残しておくべきか?それにしても、まだこの先の通路の奥には・・・異様な気配が漂っているな)
ここで倒した蟲魔物の群れはどうにもまだまだ序の口だった事を知る。
まるでこれ以上は進ませないと言わんばかりな殺気が奥の方から滲み溢れて来ているのを感じた。
チラリと背後を一瞥してからソレを気にせずに受け流しつつ私は奥へと踏み込む。
(・・・うむ、魔道具だけは付いて来ているか。まあその程度ならば良い。あの四人が一緒であると足手纏いにしかならんからな。この奥には多分、先程とは比べ物にならない程の数がいるだろう。それと、どうにもこれは・・・)
異様な気が流れて来る奥へと警戒しながら近づいて行けば行く程に気配でその詳細を感じられる。
(先程の赤白斑の気配より禍々しい個体が六、そして、それ以上が三。その九つが守る様にして中心に居るのが、親玉か?それ以外は・・・黄黒斑の兵隊か。しかし、三百以上はいるか)
進み行く先には分かれ道が幾つもあったが迷ったりはしない。
異様な気配のする方向に進んで行けば正解の道だ。それがハッキリと分かる。
(巨大な巣を作っているのか。そうか、ならば、殲滅せねば危険だな。被害を出さぬ様にする為に、私がやろう。害虫駆除といこうか)
私がここに来て見た者の中でこの件を片付けられる実力者はいなかった。
出来るとすれば相当に数を揃えて堅牢な連携を密に取れる集団でなくては被害が大きくなるだけだと見る。
(さて、初手で一気に数を減らさせて貰う。先程よりもより一層に魔力を込めた魔法を食らわせてやろう)
もしかしたらそれだけで全部を消し炭に出来るかもしれない。
なので私は今できる限界まで密度を高め、練った魔力を圧縮していく。
巣となっているのであろう場所はまだ先。そこに到着までには充分以上、と言うか、危険水域と言える程にまで魔力を練る事の出来る距離がある。余裕がある。
現場到着までの時間でゆっくりとその準備を進める。魔法一撃で屠る事を考えて集中力を高めて行く。
(この際、魔法の炎の色が黒くなった事はどうでも良い。威力も範囲も上がっていて、敵の殲滅がし易くなったと思えば利しかない。私は魔法研究の専門家では無いしな)
術理や属性など考えなくても良いのだ今は。
使える、そこが重要なのだ。今アレコレとつまらぬ事を悩む時では無い。
今、魔法を放つ目的は魔物の殲滅である。考えて答えを出す事では無い。
(とは言っても後でゆっくりと考察、だなどと言う気は無いのだが。さて、中の様子を覗く、などと言った事はしない。一気に奇襲だ)




