第38話
背後、その斜め上には飛翔している魔道具が付いて来ている。
しかしあの四名の冒険者は付いて来てい無い。
(女子であるからか、少々過保護になっているかもな。子供、婦女子、老人を私は守るべき対象と認識している。彼女らはここで戦い稼いできている者たちだ。余りそう思うのは失礼なのかもしれないな)
相手には「これまでここでやってきたんだ」と言う矜持があるかもしれないのだ。
私がこれ程に過剰に護ってしまうのは返って逆に彼女らを馬鹿にしている様になってしまうかもしれない。
だからと言って目の前にした光景は私が推察する彼女らの強さから見ても度を越していると感じる。
(五十は超えるか?通路にみっしりとまあ、気持ち悪い景色だ。ふむ、一気に消えて貰うか。こいつらが向こうに行ってしまうと彼女らでは対応できずに嬲り殺しにされてしまうだろう)
私は魔法を放つ準備をする為に集中し始める。しかしそこで疑問が湧く。
(・・・うむ、アンデッドがどうやって動いているのかと考えていたが、そうだな、魔力、魔法で動かしているのが妥当か。筋肉や腱も無いのにどうやってと思ったが、その代わりで魔力や魔法を使って操ると言った事もできるか。では今の私はどうなんだ?いや、そもそもに何でこんなに魔力を扱える?)
アンデッド自体はそもそもに魔法何て撃て無いハズで。
しかし私は何も考えずに魔力を、魔法を扱えている。
この身体はアンデッド、どこから魔力が生成、発生していると言うのか?
生前に素養があったからと言っても、今の「アンデッド」の状態で魔法が使えるなどと言った不思議、不可思議を何故これまでの間に疑問に思わなかったのか?
(余りにも自然に受け入れていたのは生前の経験、修練からか?ああ、今はその様な事にかまけている暇は無かったな。後で考え様にも研究者でも無い私がその答えに辿り着く事は無いんだろうよ)
放つ魔法の構築は終わった。どうやら相手の蟲魔物の方は斥候が戻って来なかったので情報が得られ無かった事でコチラを観察、警戒に徹した様子で。
(それはこちらにとって都合の良い展開だ)
「うごぁぁ・・・」
私は魔法名を口にしたが、やはりちゃんと言葉にはならず。
しかし魔法は発動した。そしてソレを目にして私は驚愕させられる。
自分が出した魔法だと言うのに。
(と言うか、威力がえぐいな?何だこの黒い炎は?・・・ああ、一番奥に隠れていた奴がこの群れを率いる隊長と言った所か。赤と白の斑模様?)
黄と黒の斑色をしたのはどうやら一番下級の兵隊だったんだろう。その全ては一瞬にして黒い炎に呑まれて灰と化して消えた。
残るのは地面に散らばり落ちる青く輝く小石。
今は通路はスッキリして、兵隊のその奥に隠れていたのだろう強化個体と見られる蟲魔物の姿が見えた。
(兵隊は今ので全滅、うむ、これ程の威力の魔法を生前は放てた事など一度も無いのだが?)
この姿になる前であれば、炎の魔法を使ったらその色は赤や橙である。威力もこれ程の馬鹿げたモノでは無かった。
高位の魔法を扱える者になるとその色は青、或いはそれよりも高温になると白色に輝くと聞いた事はあるが。
(黒い何て聞いた事も無いぞ?どうなっているんだ私は?・・・はぁ、そこも後回しか。今は目の前のまだ諦めていない様子の相手をするか)
赤白斑のその蟲魔物はこちらを警戒しているのだろう音を「ギチギチ・・・」と口から漏らしながらも少しづつ間合いを詰める様にしてこちらに近づいて来る。
そして次の瞬間には何かしらの液体がいきなり何も無い空間から発生してこちらに飛来して来た。
(これは驚きだ・・・蟲が魔法を放って来た?こういった存在は大体腹か口から特殊な溶解液を飛ばしてくる事が多いものだが。魔法でソレを飛ばしてくるのか)
私の知っている魔物の中に酸を飛ばしてくる物は珍しくない。蟲型はその中でも特に警戒が必要だった。
(魔法でソレを撃ってくるとは、そうなると打ち止めは相手の魔力が底を尽いた時か。中々に面倒だ)
騎士団で団長をしていた時にはこの酸で苦しめられた経験がある。
団員の中にはコレを避けずに盾で受け止めてしまった者が居て大慌てとなった。
(こういったモノは避けるに限る。幸いにも速度は遅い。子供が全力で小石を投げて来る程度。なら、簡単に躱して懐に踏み込める・・・いや、向こうは何かしらこちらの動きを狙いすましているな?迎撃する何かがあると言う事か)
蟲型の魔物の複眼は中々に侮れない代物だ。奴らには死角と言ったモノが無い、と言える程に視野が広い。
(連射が利くのか。どうやらこちらの動きを誘導、あるいは制限をする様にして飛ばして来ているな。床や壁に付着した溶解液からの煙にも注意せねばならんと言った所か)
感想で言えば只々に面倒。しかしその対処など簡単な物だ。
私は隙を見てそこら中に散らばっている小石を片手一杯にまで拾う。
そして敵が撃ち込んで来る魔法を避けつつその時を待った。




