第102話
調査隊の隊長は今、困惑していた。
(何でこちらへ近寄って来ずに一定の距離を置いている?コードネーム「黒騎士」がこちらに合流する話はもう聞いている。協力して調査を進める様にとも。話が通じる・・・?と言われたが、本当かどうか怪しいもんだがなぁ)
四名の女性冒険者と、黒騎士と見られるアンデッドナイトが隊長の視界には入っているのだが。
その距離が遠い。微妙に、絶妙に遠い。
直線通路にて50mは離れている。そして近づいて来ずにその距離は保ったままでコチラの後を付いて来ていた。
「隊長、あれ、どうスルすか?一当てします?」
「お前は本当にバカだな。協会長の指示はお前にも見せたし、読ませたよな?攻撃して、その後、どうするつもりなんだ?お前だけが犠牲になるだけなら良いが、俺たちまで巻き込まれりゃ洒落にならんのだぞ?クソみたいな事を言ったお前の頭をカチ割るだけで向こうが許してくれるのなら一当てでも二当てでもしてやるが?お前、その責任取れるよな?言い出しっぺのお前の命一つで事が収まるならその意見を採用しても良いぞ?」
「ちょ!?マジトーンでそんな突き放す事言わんといてくださいよ!顔が恐いっすよ!?」
「前からずっと思っていたし、何時も言ってると思うが、死んどくか?ここで、マジで。」
「・・・え?本気で言ってますソレ?それこそ冗談・・・いっでェ!?」
部下の発言にマジ切れした隊長はここで本気でその部下の頬を殴り吹き飛ばす。
これまでに不必要で不用意でデリカシーも緊張感も無い発言を繰り返して来ていたその部下に対して流石に堪忍袋の緒が切れたのだ。
その光景は離れた場所に居て未だに近づいて来ようとする気配の無い黒騎士たちにも見えていた事だろう。
そんな事もお構いなしに阿呆な部下に対しての制裁を加えた隊長は他の部隊員に対して声を張って忠告する。
「お前ら、見たな?余計な事した奴は俺が直接ぶん殴るから覚悟しとけよ。それだけあの黒騎士が重要観察対象だって事だ。協会長からの指示をお前ら全員ちゃんと確認してるはずだからな。制裁する時は遠慮も手心も加えねーぞ?この指示に従え無い者は協会長の敵と見做して俺の判断で最悪、斬るぞ?解ったな?」
隊長はしっかりと協会長派であった。なのでこの調査隊を編成する際にはしっかりと忠告を裏で受けていた。
もしかすると反社組織、反政府組織、海外勢組織、もしくは勝手気ままに振る舞うクソの集まり研究機関などのスパイが入り込んでいるかもしれないと。
(ここまで問題無く順調だった。なら、今からが波乱の幕開けって事、だよなぁ。向こうが近づいて来ないってのが初手って言うのも妙な事態だ)
これまでの調査隊の前に現れていた存在はこれまでにダンジョンで出て来た魔物と同じであり、その数も異常とは言え無い程度の物だった。
罠なども調査隊に加えたトラップ解除を専門にしている冒険者に「初級」と言わせる程度の脅威の物ばかり。
ダンジョン変動が起こした物と言えば通路構造の変化程度としか認識、実感できていない。
(協会長から直に「異常だ」と話をされた内容と違い過ぎる。と、思っていたんだがなぁ。もしかして、もしかしなくとも、黒騎士が原因になっているのかその異常には?)
この隊長の予測、勘は当たっていた。しかしソレでも本人に確信は無く。
「向こうが近づいて来て接触を図ってくるまで、こちらから向こうへは近づかないで行くぞ。コレを無視して勝手な行動をした者は後々の報告書に下方評価を付けるから、そこら辺の所を理解しておけよ。」
この隊の全権を握っている隊長は部隊員たちに厳しくそう言い付ける。だが。
(こんな事を言っても一人か二人は関係無いと言わんばかりに動く奴らが居そうだが。その時は脚の腱でも切って動けなくして尋問してやる。そいつら絶対にどっかのスパイだろうからな)
黒騎士との敵対、それだけは回避せねばならない、隊長はしっかりとその点だけは守らねばと覚悟を決めている。
どんな手を使ってでも黒騎士の機嫌を取ってこちらへの攻撃はさせ無い様にと。
隊長は事前に黒騎士の戦闘シーンの録画を視聴していた。
その上での結論は「絶対に、天地がひっくり返っても勝てない」と言ったモノだった。
今の調査隊の数は二十五名である。荷物持ち、斥候、戦闘担当、調査記録係での構成だ。
全員が戦いを熟せるだけの力量を持っているし、その実力もそこそこに高い。
その全員がなりふり構わず全力で連携を取って黒騎士に挑んでも、勝てない、との判断を隊長は下している。
(数での暴力何て黒騎士に通用しない。あんなバケモノが敵に回るとか最悪所の騒ぎじゃねえ。幸いにも話が通じるって事だったが、ソレを信じるしかないのが何とも言え無いぜ)
黒騎士にはどうにも四人の女性冒険者が同行しているとの事で。
今もその四名が無事でいるのが視界に入っているので隊長はソレを信じるしか無く。
「まさかその四人が操られてるとか、アンデッドにされて付き従っているとか、そう言うのは、無いよな?」
そんな隊長のボヤキは部隊員の誰の耳にも入りはしなかった。




